「本格ファンタジー」なろう小説との遭遇
わたしは毎日ツイッターで「ラノベ 小説」で検索をかけてる者なんですが(なぜそんな不毛な行為をしてるのかの説明は省略)、ここしばらく、とあるなろう作家の熱いツイートが頻繁に引っかかるのに気がつきました。体感的には、ほぼ毎日と言っていいぐらいのペースです。
当該なろう作家氏が日々強く主張しているのは、だいたい次のような内容です。
「自分の書いている作品は、ラノベ・なろう系ではなく、本格的なダーク・ハイファンタジー」
「現在の小説家になろうは長文タイトルの異世界転生チート奴隷ハーレムが席巻していて、本格ファンタジーの居場所がない」
「出版業界も同様で、日本ではラノベ以外のファンタジー小説はほとんど存在しない」
「長文タイトルで読むやつはバカ」
ふむふむなるほど〜。
わたしも、初めて読んだ高河ゆん作品がGファンタジーコミックスの『超獣伝説ゲシュタルト』だったほどの大のファンタジー好き。
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「本格ファンタジー」と聞いては黙っていられません。さっそくそのなろう作家氏が書いているという、「テンプレ・ゲーム設定一切なしのちょっと大人向けダークファンタジー」を読んでみることにしました。
エルフ・「よりどりみどりですなぁ~!」・オブシダンソード
で、軽く流し読みしてみたところ。
あの……「エルフ」出てきたんですけど……?一般的なイメージ大体そのまんまの、長命とがり耳種族として。ついでに、ダークエルフもしっかりいますね。
ファンタジーにエルフが出てきて何か悪いのかって?
たしかに、「エルフが出てくるような剣と魔法のファンタジー」は、(異世界)ファンタジーの中で既にひとつのジャンルとして確立されてますよ。ラノベ含む小説でも漫画でもゲームでも、エルフが出てくる作品は無数に存在します。ファンタジーにエルフが出てくること、それ自体には何の問題もありません。
でもそれって、「本格ファンタジー」なんですか?
詳しくはないので大雑把な話になりますが、特に和製ファンタジーにおける現在の「エルフ」というのは、神話や民間伝承に登場するエルフを元にしてトールキンが創造した種族を、D&DだのWizardryだの経由でアレンジを加えつつ延々と流用している設定なわけですよね。いわば、n次創作的な存在と言っていい。
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自分の感覚だと、(異世界)ファンタジーの本格度というのは、舞台となる世界をどれだけ自力で一から構築できているか、が一つの大きな基準です。そういう視点で見た場合、仮に参照先が指輪物語などの古典であっても、先行作品の設定を踏襲することは、ファンタジー本格度にとってマイナスにこそなれプラスになるとは思えません。
大元の大元である神話・伝説から改めて設定を起こし直して新たなエルフ像を提示するのでもない限り、そこに些末なオリジナル設定をどれだけ追加したところで、根本が「いわゆる長命長耳エルフ」でしかないのなら、それは結局のところ「テンプレ設定」の範疇でしょう。ファンタジーとして非ラノベ的な「本格」を目指すならせめて、エルフじゃなくてエルファント!鼻がデカくてブサイク!ぐらいのオリジナル種族に設定してほしいところですね(それで面白くなるかは別問題)
なお、この作品にはエルフに限らず、
「ドラゴン」
「吸血鬼の『真祖』」
「魔王」
「夢魔リリム」
「サキュバス」
「オーク」
といった、「いわゆる剣と魔法のファンタジー」でお馴染みの存在が次々に登場します。言うまでもなく、どれもこれも一般的なイメージほぼそのまんまです。やっぱテンプレ異世界ですね。
それから、セリフが……
「うーん……」
「えっ!?」
「おお~」
「ふんふん」
「うおっと!」
「だーいじょうぶですよ?」
「ふふっ、おもしろーい!」
「やぶさかではないですよ~」
「なるほどー」
「わかりやすい子なんですよ~」
「ん~……!」
「じゃーん!」
「冗談よ~」
「あったかーい」
「ええっ!?」
「へぇ~!」
「よりどりみどりですなぁ~!」
「いいですよ~?」
「ん~……ん!?」
といった感じの、非常に親しみやすい、ゆる〜くて軽〜い書き方になっています。
というかこれ、この前わたしがブログで取り上げた「ラノベ台詞」の好例じゃないでしょうか。
セリフでは、漫画的なデフォルメを積極的に行いましょう。
たとえば、主人公が何かに驚いた時の反応を考えてみます。
「うわっ」
「普通の小説」ではそもそもセリフ化されず「思わず声を上げた」など地の文で処理されることが多い部分でしょうから、これだけでもかなりラノベ的な表現です。しかし、もう少しはっきりとラノベに寄せると、こうなります。
「うっ、うわァああ〜〜〜〜ッ!?」
ひらがなとカタカナの混在。
長音符としての波ダッシュ(〜)の(4連続)使用。
感嘆符疑問符(!?)での驚きの強調。
もちろんこれが全てではありませんが、「ラノベ台詞」に用いられる手法の一例です。
かなり当てはまってるように見えますね。
さすがに全てのセリフがこの調子で砕けてるわけではなく、特に魔王など立場のあるキャラはそれなりに改まった口調で話すのですが、そっちはそっちで半端に硬い言い回しがかえってぎこちなく感じられるし……
地の文にしても、セリフの違和感を補うほどの洗練や重厚さは特になく、全体的に「大人向け」の小説としてはちょっとどうなのかな?と首をかしげるような文章でした。
それからそれから。このなろう小説、重要なアイテムとして「オブシダンソード」が出てくるんですよ、「オブシダンソード」。
は?「黒曜石(obsidian)」の「剣(sword)」だから「オブシダンソード」って呼んでるだけなんだが?なんか文句ある?って意識なのかもしれませんね。正論ではあります。
でもですよ。「黒曜石の剣」ではなくわざわざ英語(カタカナ)表記で「オブシダンソード」と書かれていれば、現代日本では一般的に、ロマサガにおけるディステニィストーンの一つ(が埋め込まれた武器)であるところの「オブシダンソード」を自然と連想するものですよね?(最近だとグラブルかもしれませんがどっちにしろゲーム)
作者が実際にどういう意図で「オブシダンソード」という名称を持ち出したのかは分かりませんが、わたしはこれを非常に「ゲームっぽい」表現だと感じました。もしかして、わたしが読んだことがない本格ファンタジー小説の世界では、「オブシダンソード」が「ロングソード」ぐらいの一般名詞として定着してるんでしょうか。
また、テンプレ設定の話とも関連しますが、「東方の国から来た刀を使う『サムライ』」も、RPGやそれに影響を受けたファンタジー作品(ラノベ含む)ではもはや定番の存在ですけど、「本格ファンタジー」として見るとどうなんでしょうね。まあ、銀河帝国で超戦士〈小姓〉が活躍するSFもあるぐらいだし、別にいいのかな。
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いや、〈小姓〉の独創性とテンプレファンタジーサムライはやはり根本的に違うか……
「本格ファンタジー」氏が言う「ゲーム的な描写一切なし」というのは、多くのなろう小説のようにレベルやスキルその他のゲームシステム的な要素が作中世界に直接登場したりはしない、程度の意味なんでしょう。しかし、そう宣言されて読んでみた作品の中身が、「オブシダンソード」に「サムライ」で、物語の進行もRPGのイベントのような手続き感満載だったりした場合、かえって「ゲーム的ファンタジー」の印象が強調されるのは避けがたいですね。
「本格ファンタジー」……??
結論として、件のなろう小説を非ラノベ・非なろう的な大人向けの「本格ファンタジー」と称するのは、かなり無理があります。
そういう、いかにも和製ライトファンタジー的な作品を書くこと自体はぜんぜん悪くないです。小説として面白いかどうかも別問題でしょう(自分は惹かれるものは特にありませんでしたが)
ただ、もしもこれを本気で「ラノベ」ではない「小説」の「本格ファンタジー」だと信じ込み、そのせいでなろうでは適切な評価が受けられないと頑なに主張するのであれば。はっきり言って、ラノベやなろう以前に小説全般に関する感性自体がどうしようもなく鈍すぎます。どの角度から見ても、一般の基準を適用した方がはるかに厳しい評価になる作品だと思うのですが(ラノベ・なろう基準で測った方がまだマシ)
ついでに、「本格ファンタジー」氏の周囲の文字書き仲間の方々について。
小説投稿サイトのシステム上、ブクマやポイントを融通しあったり宣伝の効率を上げたりするために、文字書き同士で繋がることに大きなメリットがあるのは理解しています。
ですが、あくまで友達としての付き合い・お義理で言ってあげてるのだとしても、「本格ファンタジー」氏の主張に「わかる〜」「だよね〜」と無批判に賛同しているあなた方の姿は、無関係な他人の目からは全員まとめてとんでもねえフシアナ文字書き集団に見えてますからね?
「アレを『本格ファンタジー』と認めてしまう人間が書いてる小説か……(゚A゚;)ゴクリ」という目で自作が見られてしまう。想像するだに恐ろしいそのリスクだけはしっかり御覚悟した上で、仲良し文芸サークルごっこに励んでください。
「ラノベっぽさ」に鈍感な原因
今回の「本格ファンタジー」氏は非常に極端な例ですが、自分の作風を実態よりも過剰に「ラノベっぽくない」と捉えている小説作者じたいは全く珍しくありません。これは文字書き=アマチュアだけでなく、プロ作家にも言えることです。
「自分の作品は主人公が努力する/人が死ぬ/設定が細かい/戦闘シーンが熱い/地の文が多い/ハーレムじゃない/転生じゃない/チートがない/からラノベではない」と、傍目からはこじつけとしか思えない理由で自作を軽率に非ラノベ認定してしまう小説執筆者たち。なぜこのような勘違いが発生してしまうのでしょうか?
「そんなもんラノベしか読んでないからに決まってるだろ!」
と、考えてしまうのが素人の浅はかさというものです。
現に、「本格ファンタジー」氏の過去ツイートを見ると、「エターナル・チャンピオン」シリーズなどの海外ファンタジー小説の愛読者であることが窺えます(わたしは読んだことない)
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では、何が原因なのか?
わたしはむしろ、ラノベをちゃんと読んでいないからこそラノベっぽくなるのだ、という逆説的な立場を取りたいです(逆説っぽいことを言うと頭良さそうに見えるので)
純粋に小説としての中身で比較したとき、「ライトノベル」と「一般文芸(いわゆる「普通の小説」)」の間には、明確で絶対的な境界線はありません。分かりやすい実例としては、過去にラノベレーベルから出版された作品が一般文芸レーベルから新装版として出直したり、その逆に一般作品がイラスト付きでラノベレーベルに、といったケースがありますね。
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それでも、なんとなくラノベっぽい/一般文芸っぽいと多くの人が感じるような内容・書き方は、大きな傾向としては存在します。人は読書経験を積むことで、そのモヤモヤとした曖昧な領域を手探りで進みながら、個々の作品について「これはまあほぼほぼラノベ」「これは一般文芸寄りだけどラノベでも出せないことはないな」といったファジィな判断が徐々にできるようになっていくのです。
この嗅覚は、一般文芸だけ読んでいても、そしてもちろんラノベだけでも習得できるものではなく、両方についてある程度の読書量が必要となります。最初からラノベと一般文芸の境界を自明だと考えているような人ほど、こういった「訓練」がおろそかになりがちな印象です。
(まあでも、ちょっと要領のいい人なら、ラノベと非ラノベをそれぞれ2、3冊も読めば、「本格ファンタジー」氏よりはマシなバランス感覚が得られそうではあるけど……)
また、ラノベというジャンル自体の特殊性もこの問題に関わってきます。
ラノベは、「アニメや漫画やゲームを小説にしたようなもの」と言われることがあります。これはある程度は正しい捉え方で、ラノベの特徴と言われるものの多くは、アニメ・漫画・ゲームなど他のオタク分野の感覚を小説という形に変換し、貪欲に取り込んできた結果です。
「美少女ハーレム」にしろ「学園異能」にしろ「謎部活」にしろ「異世界転生」にしろ、隣接する他分野との関わりがなければラノベ内に生まれなかった流行でしょう。そのためラノベには、ジャンル内で発生した独自の要素と呼べるものが実のところそんなにありません。
逆に言えば、たとえラノベそのものは一冊も読んだことがなくても、現代日本で多少なりともオタクとしてアニメ・漫画・ゲーム等に触れていれば、「ラノベ的」なものは日常的に摂取し影響を受け続けているとも言えるわけです。
これは、それと気付かずラノベの原液をグビグビ直飲みしてるような状態なので、そういう人がロクな自己分析もなしに小説を書き始めれば、「ラノベっぽさ」が無自覚に暴発する危険性はかなり高くなるでしょうね。ましてやジャンルが異世界ファンタジーときては。
あとは一般論として、自分自身に関することは冷静に判断できない、というのも大きいと思われます。
もしも確実に非ラノベと言えるような小説を書きたければ、そもそも自分の感覚を決して信用せず、主人公は70代の男性、題材は年金制度の崩壊、タイトルは内容を簡潔にまとめてるんだか雰囲気だけなんだか微妙な漢字二文字(「残尿」とか)とするぐらいの、「ラノベ」から精いっぱい遠ざかる努力をしておくべきなのかもしれません。若干、本末転倒な気もしますが。
お願い
いかがでしたか。
自分の作風を非ラノベ的であると無条件に認識している文字書きの方々は、それがどういう根拠に基づいてるのか(あるいは基づいていないのか)、これを機会に改めて考えてもらえると助かります。
そうしてくれれば、わたしのような野次馬が文字書きツイートを目にして、キェエエエエエエ!キェッ!キェッ!キッェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエェェッッッッ!!!!と奇声を上げる回数も減るでしょうし。
何とぞよろしくお願いしますm(_ _)m
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