武漢金銀譚病院の病室でポーズをとる医療従事者(写真:財新)

※前回『第7回 崩壊寸前の医療現場』から読む

「回復したらまた第一線に立とうと思います。現在もウイルスは拡散しているので、脱走兵にはなりたくありません」――。

1月30日、李文亮が財新記者の電話取材を受けたとき、彼はまだ1日も早い復帰に希望を抱いていた。

数えで34歳の李は武漢市中心病院の眼科医だった。2019年12月30日の午後、彼は150人ほどの同窓生が登録しているチャットルームにこう書き込んだ。

「華南海鮮市場で7例のSARS(重症急性呼吸器症候群)が確認され、われわれの病院の救急科で隔離された」

これがきっかけとなり、武漢市当局が一般市民に隠していた「原因不明のウイルス性肺炎」の発生が明るみに出た。しかしほどなく、李は「事実ではない情報を流布した」として公安当局に召喚され、訓戒書に署名させされた。

その後、新型コロナウイルスの猛威が急拡大するなかで、李は誰よりも早く警鐘を鳴らした「ホイッスルブロワー(告発者)」として最前線の医療関係者たちの注目を浴びた。だが、彼は診察中に自身も新型ウイルスに感染。症状の悪化でICU(集中治療室)に入ったが、治療によって一時は持ち直していた。

ところが2月5日、李は対話アプリの微信(ウィーチャット)で「症状が重くなった」と財新記者に知らせてきた。そして6日の夜9時頃、彼の病状が急変して心臓が停止し、亡くなったという情報が伝わってきた。

中心病院のICUでは、李の命を救おうと医師たちが全力を傾けたが、及ばなかった。7日午前3時過ぎ、中心病院はミニブログの微博(ウェイボー)の公式アカウントを通じて、同日午前2時58分に李が逝去したと発表した。

初期症状は軽いが進行が速い

彼の死は「告発者の悲劇」という象徴性に加え、34歳(数え年)の若い命を奪うほどの毒性が新型ウイルスにあることを示し、中国社会に衝撃を与えた。