2月4日、武漢大学中南病院のICUの光景(写真:財新)

※前回『第5回 さまよえる患者たち』から読む

新型肺炎の重篤患者をどうすれば救えるのか。武漢ではいま、医師たちが不眠不休で「死に神」との攻防戦を続けている。その最前線で彼らは何をしているのか。形勢立て直しのカギはどこにあるのか。

「彭主任、救急室で31歳の新型肺炎患者が急に心停止に陥りました。早く来てください。ICU(集中治療室)に搬送しますか?」

2月4日午後7時半、彭志勇にそんな緊急呼び出しがかかったのは、彼が執務室で財新記者と話し始めてまだ10分も経たないときだった。

彭は武漢大学中南病院のICUの責任者である。彼はすぐさま救急室に駆けつけ、この日搬送されて来たばかりの若い患者をICUに移すよう指示した。このとき、ICUの空きベッドは1台しかなく、決して容易な判断ではなかった。

「あの患者はまだ死ぬには早すぎる。何が何でも救ってやらねば」

死に神との奪い合い

「これが私の仕事の日常だよ。私は毎日、死に神と患者を奪い合う競争をしているんだ」

10分後に執務室に戻ってきた彭は、財新記者にそう語った。

2019年12月に武漢で発生した新型肺炎の病原体は、2002年のSARS(重症急性呼吸器症候群)や2012年のMERS(中東呼吸器症候群)に似たコロナウイルスの一種である。しかし流行拡大のスピード、感染者・死者の絶対数、経済・社会への影響などにおいて、過去20年で最大のアウトブレイク(新型感染症の突発的発生)となる可能性が高い。

この見えない強敵との格闘を強いられた現場の医師たちは、感染の広がり方や増加する症例から得られた知見をもとに、死に神と戦うすべを一歩ずつ模索していった。

「受け入れるべきか、断るべきか」――。

2020年1月6日、彭は数分間逡巡した後、武漢に隣接する黄岡市から搬送されてきた「原因不明」のウイルス性肺炎患者の受け入れを決めた。そのとき、彼は自分の決断がもたらす“代償”を十分理解していた。

よみがえるSARSの記憶