感染症の専門家チームによる調査分析から、新型コロナウイルスの由来はコウモリだと考えられている。だが2019年12月の新型肺炎の発生直後、現場の医師たちは見えない脅威に対する異常な緊張状態に置かれていた。
「われわれの病院は(新型肺炎の発生地と見られていた)華南海鮮市場までそう遠くないが、武漢中心病院の後湖分院や武漢赤十字病院、湖北新華病院はもっと近い。新型肺炎の患者を一番早く診察したのは、これらの病院の医師たちだった」
武漢協和病院の感染症科の主任医師である趙雷は、そう回想する。
協和病院の発熱外来は、趙が所属する感染症科が担当していた。彼の不確かな記憶によれば、科の同僚が初めて診察した新型肺炎患者はやはり華南海鮮市場の関係者だったという。
「複数の医師が立ち会う診察の時も、この患者の病状は特別だと感じた。ウイルス性肺炎による病変が見られ、肺の大部分にすりガラス状の影が広がっていた」
この患者は協和病院で数日間治療を受けた後、(感染症の専門病院である)武漢金銀潭病院に転院した。
その後、協和病院の発熱外来では診察希望者が激増し、ピーク時には1日800~900人に達した。もともと冬から早春にかけては、インフルエンザなどの呼吸器感染症が流行しやすい時期である。だが他の多くの大型総合病院と同様、協和病院には肝炎などの接触感染に対応した隔離施設しかなかった。呼吸器感染症の患者は金銀潭病院に移送し、集中的に治療する手はずだった。