リ・エスティーゼ王国首都、ヴァランシア宮殿の謁見の間は血塗れになっていました。
玉座に座ったまま息絶えた国王、ランポッサⅢ世の胸には宝剣が突き刺さっており、同じく血塗れの姿の第三王女ラナーが蒼白な顔で立ち竦んでいます。ラナーの足元には意識を失って横たわる護衛のクライムの姿がありました。
「……これは……なんという事だ……」
探偵助手のキーノもあまりの惨状に真っ青になっています。でも、ありんすちゃんは動じていません。さすがはいくつもの事件を解決してきた名探偵……ゴホンゴホン……いくつもの事件を解決してきた美少女名探偵ですね。
「こりはさちゅじん事件でありんちゅ! めいたんて、ありんちゅちゃがまるっとかいけちゅしるでありんちゅ!」
ありんすちゃんは自信に満ちた表情で宣言するのでした。
※ ※ ※
「まじゅはほんちょにちんでるか確かめるでありんちゅ」
ありんすちゃんはランポッサⅢ世の胸もとから宝剣を抜くと、ランポッサⅢ世の股間をザクザクと刺しました。うーん……
そしてランポッサⅢ世が死んでいる事を確認すると今度は凶器を調べ始めました。うーん……ありんすちゃんが真面目に捜査している姿になんだか違和感が……ゴホンゴホン。
「……なかなかきれいでありんちゅ」
宝剣は王家に伝わるなかなかの宝のようで柄や鞘には見事な宝石がはめられていました。ありんすは一通り宝剣を調べるとさりげなく懐にしまいました。
「……さすがにまずいだろ? ありんすちゃん、リ・エスティーゼ王国に伝わる宝剣だぞ?」
すぐさまキーノが注意をしますが……
「ありんちゅちゃ、べちゅに盗むんじゃないんでありんちゅ。持ってかえってイパイイパーイちらべるんでありんちゅ! きれいな宝石ついているからありんちゅちゃがもらっちゃうんじゃないでありんちゅ!」
必死に言い訳をするありんすちゃんをキーノは冷たい眼差しで見詰めます。
「……ま、それはさておき……ありんすちゃん、いったいどうやってこの事件を解決するんだ? いつものように推理するにしても情報が無さすぎるんじゃないのか?」
「大丈夫でありんちゅ。ありんちゅちゃにおまかしぇしるでありんちゅよ」
うーん……本当に大丈夫でしょうか? ありんすちゃんの『大丈夫』ってろくなことが無い……ゲフンゲフン……
ありんすちゃんは空間からアイテムを取り出して構えました。
※ ※ ※
「こりは『しょしぇのたんじょ』でありんちゅ! こりで生き返らすちぇば解決しるますでありんちゅ!」
なるほど! 確かに蘇生の短杖で被害者であるランポッサⅢ世を生き返らせれば簡単に犯人がわかるはずですね。うーん……しかしこれって探偵小説的にはどうなんでしょうか?
ありんすちゃんがワンドを構えて呪文を唱えると、なんとランポッサⅢ世が復活しました。
「……ううむ……ワシは……わたし……は……いっ……たい……ガゼフは……ガゼフはどこ……にいったのだ?」
「わたちは美少女めいたんて、ありんちゅちゃでありんちゅ。ありんちゅちゃがふっかちゅさせますでありんちゅ」
ありんすちゃんはランポッサⅢ世の懐から金貨を取り出すと自分のポケットにしまいます。復活させた報酬ですって。
復活まもなくのランポッサⅢ世が落ち着くのを見計らってありんすちゃんは訊ねました。
「王ちゃまはだりに殺されたでありんちゅか?」
ランポッサⅢ世は弱々しくラナー王女を指差しました。
「……何故だ? ……ラナー……いったいどうしてなのだ?」
ラナーは相変わらず茫然自失のままです。
「ラナー王女が犯人だと……なんという事だ! ラキュースに知らせなくては……」
慌てて走り出そうとする助手のキーノをありんすちゃんは止めます。
「……まちゅでありんちゅ。王ちゃまを殺ちた犯人はラナーでありんちゅ。しかし、ラナーが殺ちた王ちゃまは今生きているでありんちゅ。しるとラナーは王ちゃまを殺ちた犯人じゃなくなっちゃでありんちゅ」
「……う、うん?」
キーノは頭がこんがらがってきました。と、突然ありんすちゃんは宝剣を振り上げると──
「……こりで解決しるでありんちゅ!」
ありんすちゃんはランポッサⅢ世を再び殺してしまいました。
「……こりで犯人と被害者の死体しょろったでありんちゅ!」
得意そうなありんすちゃんに対してキーノは心の中で「……いや、犯人はありんすちゃんだから……」と突っ込むのでした。
うーん……仕方ありませんよね。だって、ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。