新型コロナウイルスを「抗体」で治療する医薬品の開発が、いま急ピッチで進められている

新型コロナウイルスワクチンや治療薬の開発競争が激化するなか、異物から体を守る「抗体」を利用した医薬品の開発が進められてる。ワクチンより早期に開発できる可能性に加えて、治療薬としての効果も期待される抗体医薬品は、いまさまざまなアプローチでの開発が加速している。

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CHRIS GRAYTHEN/GETTY IMAGES

ワクチンが必要なんです」と、感染症対策に詳しい免疫学者のヤコブ・グランヴィルは言う。早口と巻毛が印象的な彼は、かつて科学者としてファイザーに所属しており、インフルエンザの万能ワクチンの開発を何年も続けてきた経験がある。

グランヴィルがサンフランシスコで立ち上げたスタートアップのDistributed Bioは、さまざまなワクチン接種プロジェクトの先頭を走っている。そして当然のことながら、新型コロナウイルス感染症「COVID-19」との闘いを支援するバイオ医薬品の開発にも熱心に取り組んでいる。

だが、意外なことがある。新型コロナウイルス(正式名称は「SARS-CoV-2」)のワクチン開発からは距離を置き、並行して進められている抗体医薬品の開発競争へと参入したのだ。

あえて抗体医薬品の開発を選んだ理由

グランヴィルは世界中の研究所のさまざまな研究チームと協力しながら、新型コロナウイルスへの対策を補完する手段として抗体医薬品の開発を進めている。ワクチンとは異なり抗体医薬品は、長期的に病気を防ぐことはできない。代わりに、体が感染を(一時的にではあるが)即座に撃退したり、差し迫った感染を予防したりできるようにする。

この決断には時間も関係している。「ワクチンの開発には非常に時間がかかります」と、グランヴィルは言う。従来の臨床試験では健康な人にワクチンを投与し、免疫を獲得できるか観察する必要がある。有効性の証明には長い期間待つ必要があるのだ。

モデルナのような注目されているバイオテクノロジー企業は、わずか数カ月でヒト臨床試験に進むことができた。それでも多くの研究者は、政治家や評論家が示している予防接種の実現までの楽観的なタイムラインに疑問を抱いている。

抗体治療の独自研究に取り組んでいるテネシー州のヴァンダービルト大学ワクチンセンター副所長のロバート・カーナハンは、「実用化までの道のりは抗体のほうが短いと思います」と言う。「すべての人に新型コロナウイルスに感染させるか、ワクチンを接種するかのどちらかです。抗体はワクチン接種が実現するまでの橋渡し役を果たせます」

抗体を活用する利点

ウイルスに暴露すると、免疫システムは異物から体を守るたんぱく質である「抗体」をつくり出す。これが世界中で新型コロナウイルスと闘っている人の体内で起きている現象だ。

症状が治まったあとに抗体は血液中に残り、将来的な感染を予防する。現在の医学では、COVID-19患者に回復した患者の血しょう(血漿)を輸血することで、有効な抗体を体内に導入することが可能だ。

回復した患者の血液を使って病気を防ぐ方法は、古くからある治療法である。これまでにも回復期血清は、中東呼吸器症候群(MERS)、重症急性呼吸器症候群(SARS)、エボラ出血熱の患者の治療に使われてきた。これまでのところ回復期血清は、COVID-19患者の回復につながることが確認されている。

ただし、大きな欠点がいくつかある。最も明らかな欠点は規模の問題だ。世界で回復期患者の血液の供給量は限られていることから、これまでに感染した人が自ら毎週献血したとしても、十分な量の血清を収集することは不可能である。血液の収集と分配のプロセスも複雑で、大きな労力を要する。

また、このプロセスの効率があまりよくないという問題もある。提供者の血液にはCOVID-19だけでなく、過去のさまざまな感染に対する抗体が含まれている。このため、実際にSARS-CoV-2を排除できる抗体は、血清中に多くは存在しないかもしれないのだ。

そこで回復期血清の理論を応用・改良したものが抗体医薬品である。人間の体内で産生されるCOVID-19の抗体に注目し、標的をさらに絞った強力でスケーラブルなヴァージョンをつくる。そして人間の腕から採血する代わりに、研究室で大量生産する。

治療プロセス自体も、血清の注入よりはるかに簡単なものになれば理想的だ。「外来治療で対応できるような皮下注射で投与できるかもしれません」と、免疫学者のグランヴィルは言う。

さまざまな開発アプローチ

とはいえ、そうした抗体医薬品の投与は現時点では仮説にすぎない。科学者たちの研究開発競争はせめぎ合いの段階にあり、どの種類の抗体治療がリードすることになるかはわからない。

すでに多くの科学者が効果のある抗体を特定し、COVID-19に対処できる証拠をつかんだと考えている。しかし、研究室の環境で有望に見えたとしても、やるべきことは山積している。まず、その抗体が感染した動物の体内で効果を発揮することを確認し、感染した人間の体内でも効果を発揮することを確認する。そのうえで、安全かつ費用効果の高い方法でタイミングよく大量生産できることを確認する必要があるのだ。

コネチカット州ニューヘイヴンの製薬会社クリオ・ファーマシューティカル(Kleo Pharmaceuticals)の共同創業者でイェール大学の化学教授のデヴィッド・シュピーゲルは、「さまざまなアプローチの数多くの研究が進んでおり、そのすべてが有望です」と語る。「まさに実験科学です」

実際に多種多様なアプローチでの抗体開発が進んでいる。免疫学者のグランヴィルが率いるDistributed Bioとシュピーゲルのクリオ・ファーマシューティカルは、どちらも合成抗体を開発している。骨粗しょう症の治療法を求めて合成抗体を開発した経験をもつ内分泌学者のモネ・ザイディが率いるマウント・サイナイ医科大学のチームも同様だ。

しかし、三者の開発アプローチは異なる。クリオ・ファーマシューティカルは、健康な人間の患者の血液を精製した市販の静注用免疫グロブリンを化学的に変化させることで、COVID-19だけに対処する物質をつくっている。「基本的に抗体を人工合成しているのです」と、シュピーゲルは言う。

これに対してグランヴィルはハイテク技術を駆使したアプローチをとっており、計算科学的な手法で適切な抗体を設計している。このアプローチをグランヴィルは、タンブラー錠の操作にたとえる。

「基本的にわたしが使う技術は、銀行強盗の映画でタンブラー錠のすべての組み合わせを試すようなものです」と、グランヴィルは言う。コンピューターは「数十億の変異ヴァージョン」を生成し、新型コロナウイルスを効率よく撃退できるように既存の抗体をカスタマイズする。

ニューヨークのザイディのチームはニュージャージー州のバイオテクノロジー企業GenScriptと協力し、コンピュテーショナル・モデリング技術を応用している。グランヴィルは変異前のSARSウイルスに対して非常に高い効果をもつ抗体を起点に開発を進めているが、ザイディは新型コロナウイルスの結晶構造を調べ、新型コロナウイルスがヒト細胞に結合するのを防ぐ効果が最も高い合成抗体をつくるアプローチをとっている。

ラマの抗体を活用するプロジェクトも

一方で、抗体を開発するために動物界に目を向けている研究者もいる。テキサス大学の研究者のダニエル・ラップは、抗体開発にまったく縁のなさそうなベルギーのラマに注目した。そしてベルギーのヘント大学と協力し、「ウィンター」という名の4歳のラマの血液中にあるナノボディが有望であることを発見した。

ラップとヘント大学の共同研究者は2016年以来、ラマの抗体によるMERSやSARSなどのウイルスの撃退を研究してきた。そして「ナノボディ」と呼ばれるラマの小さな抗体が、MERSやSARSなどのコロナウイルスを中和する効果があることが判明したのである。

COVID-19のアウトブレイクが起きると、彼らはすぐにこのラマの抗体がSARS-CoV-2に対して使えるか確認する研究へと移行した。「ナノボディは従来の抗体の約半分のサイズであることから、より安定しています。また、ナノボディはより大きな抗体が結合できないたんぱく質の一部に結合することができます」と、ラップは説明する。

なお、ラップによると、特殊な抗体の一種であるナノボディは、主にラクダ科の動物とサメが保有しているが、サメよりラマのほうが扱いやすいのだという。ラップの研究チームはラマから取り出したナノボディの塩基配列を決定したあと、研究室でナノボディの作成を開始し、COVID-19に対処できるように改良している。

すでに動物実験に進んたプロジェクトも

世界中の製薬会社や研究機関で、こうした数百ものプロジェクトが進行中だ。開発段階はさまざまだが、すでに動物実験に進んたプロジェクトもある。

グランヴィルとラップは、新型コロナウイルスに感染させたハムスターに開発中の抗体を投与し、反応が確認できるのを待っている段階だ。北京大学では生化学者の謝暁亮(シェ・シャオリャン)が、回復した患者のB細胞に基づく抗体医薬品のマウス試験を完了している。謝のプロジェクトと米国を拠点とする多くのプロジェクトで、7月と8月にヒト臨床試験が開始されることが見込まれている。

また、米国防高等研究計画局(DARPA)の生物技術室(BTO)の責任者であるブラッドリー・リンガイゼンは、資金を支援しているプロジェクトのうち少なくとも2件が、この夏にヒト臨床試験に進むと考えている。

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Regeneron Pharmaceuticals)は、6月に抗体カクテルのヒト臨床試験を開始する。同社は最近、秋の供給を目指していると投資家に発表した。グランヴィルは、Distributed Bioも同様のタイムラインになると考えている。「厳しい仮定ですが、すべてが順調に進んだ場合、9月に大量供給を開始できると思います」と、グランヴィルは言う。

大量供給の実現は、有効性だけでなく、規制の壁を乗り越えられるかどうかにも依存する。リンガイゼンは、合成または計算科学に基づいて作成される抗体よりも、ヒト抗体を使用するプロジェクトをDARPAは優先しているのだと言う。手法が実験的であればあるほど、規制のハードルに引っかかる可能性が高くなると懸念されるからだ。「ヒトの抗体ではないか、もしくはヒトに由来しない抗体の場合、規制プロセスにかかる時間が長くなる可能性があります」と、リンガイゼンは言う。

量産が課題に

ラホヤ免疫研究所では、免疫学者のエリカ・サファイアがさまざまな抗体治療の有効性と、低中所得国を含む世界規模での大量生産の可能性を評価するプログラムを実施している。抗体治療開発プロジェクトがクリアする必要のある壁のひとつに、抗体の有効性に加えて、抗体の簡単かつ安価な生産の実現がある。「大量生産ができないなら、世界的な治療法にはなりません」と、サファイアは言う。

「いまの大きな頭痛の種は製造です」と、グランヴィルは言う。「従来の方法で抗体を薬物として培養するには、恐ろしいほど時間がかかります」

そこでグランヴィルは、時間を節約できる可能性がある抗体生産手段をもつ別のシリコンヴァレーの会社と交渉中だ。しかし、スピードのために信頼性を犠牲にすべきかどうかは難しい問題である。「リスクは高くなりますが、うまくいけばヒト臨床試験へと進むタイムラインを2カ月ほど短縮できる可能性があります」と、グランヴィルは言う。

DARPAも生産拡大の問題を懸念し、厳選した抗体医薬品の大量生産に向けてバイオリアクターを使えるよう、アストラゼネカなどの製薬パートナーと協力している。リンガイゼンは、すべてが順調に進むと仮定した場合、2021年初めに生産拡大の準備ができると見込んでいる。

抗体研究者のなかには、開発中の抗体医薬品がワクチンより大幅に早く実用化できるかもしれないと考える人もいる。だがリンガイゼンは、ワクチンと抗体医薬品のタイムラインはそれほど変わらないと考えている。これに対してサファイアは、「楽観の程度は人それぞれですから」と言う。

ワクチンにない強み

抗体治療の価値は、ワクチン治療よりも早く抗体治療が実現できる可能性だけではない。人によっては、抗体治療はワクチンよりはるかに役立つのだ。

例えば、すでに新型コロナウイルスに感染している人にはワクチン接種は手遅れだが、抗体の投与はCOVID-19の治療に役立つ可能性がまだある。そして乳幼児や高齢者、そして免疫障害をもつ人には、ワクチンがあまり効果を発揮しないことが多い。こうした人にとって抗体治療は、待望の防御策となる。

そして、このことが開発の緊急性を高めている。急いで治療を実現しようとしている研究者たちは、時間的なプレッシャーを感じてもいる。グランヴィルが言うように「まさに全力疾走の最中」なのだ。

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人種差別に抗議を表明したテック企業には、「権力の横暴」を助長しているという矛盾が潜んでいる

黒人男性のジョージ・フロイドが警察官に暴行され死亡した事件を受け、大手テック企業や経営者たちは抗議活動への支持を相次いで表明している。だが一方で、各社のプラットフォームでは人種差別的な発言が実質的に放置され、警察による過剰な取り締まりと監視を可能にする技術を提供してもいる。こうした矛盾に批判の声も上がっている。

TEXT BY SIDNEY FUSSELL

WIRED(US)

Protesters Demonstration

ジョージ・フロイドが警察官に拘束された際に死亡した事件を受けて、抗議活動が数十の都市で活発化している。写真はホワイトハウス周辺での抗議集会の様子。DREW ANGERER/GETTY IMAGES

黒人男性のジョージ・フロイドが警察官に暴行され死亡した事件は、集団的な怒りと全国的な抗議デモを招いた。そして警察の改革を求める声が改めて高まると同時に、シリコンヴァレーのリーダーたちが異例の素早さで人種的公平性の支持に回る動きにつながった。

その動きへの反発もまた、素早かった。人々はいま、構造的な人種差別をなくすよう求める運動「Black Lives Matter(黒人の命も大切だ)」への支援を約束している多くのテック企業について、各社のプラットフォームで人種差別的な発言を防ぐことを怠り、場合によっては抗議デモの原因となった警察による過剰な取り締まりと監視を可能にしたとして非難している。

顔認識を警察に売り込むアマゾンの矛盾

アマゾンの最高経営責任者(CEO)であるジェフ・ベゾスは5月末、Instagramで作家のシェネクア・ゴールディングによるエッセーをシェアし、人種的トラウマの「根深さ」についてコメントしている。その翌日、アマゾンの公式アカウントは「黒人コミュニティとの連帯」についてツイートした。アマゾン ウェブ サービス(AWS)のCEOであるアンディ・ジャシーは「黒人の不当な殺害が許容されることを拒否するには何が必要だろうか?」とツイートしている

ところが、アマゾンは警察に監視ツールを提供している。そのなかには、顔認識を可能にすることで広く批判されている画像・動画分析サーヴィス「Amazon Rekognition」も含まれているのだ。

AI研究者のジョイ・ブオラムウィニのレポートによると、このツールは肌の色が薄い人よりも濃い人を誤認することが多いという。アメリカ自由人権協会(ACLU)は2018年、このツールが連邦議会議員を犯罪者と誤って認識し、しかも白人より黒人の政府高官を誤認する頻度が高いことを指摘している。

「『構造的な人種差別や不正との戦い』を支持するアマゾンのツイートは、“美徳シグナリング”を美徳そのものと履き違える教科書的な事例です」と、プライヴァシー学者でロチェスター工科大学教授のエヴァン・セリンガーは指摘する。「公民権団体だけでなく関連する株主らも、 マイノリティに深刻な脅威をもたらしている法執行機関に顔認識ツールを売り込むアマゾンを批判しています」

監視ツールの利用は「違法ではない」

AWSのジャシーは、従業員や人種間の平等を推進する多くの団体がシステムの法執行機関への販売に反対していたにもかかわらず、Rekognitionを擁護している。2018年の全社会議で、ジャシーは従業員に次のように語っている。

「もしシステムを導入したユーザーが国民の憲法上の権利を侵害していることが判明すれば、サーヴィスを利用できなくなります。民主主義国家においては、技術に関する指針や規制がどうあるべきか定めることを支援についても、政府の責務である場合が多いのです」

警察がこうした監視ツールを使うことを禁じる法律は存在しない。だが、ジャシーのコメントは、警察改革の努力を阻害するような欠陥が潜む考えを彼がもっていることを物語っている。監視ツールの利用は「違法ではない」から受け入れられるというのだ。

今回の抗議デモの発生を受け、トランプ大統領が「暴徒を追跡せよ」と法執行機関に命じたことが報じられている。こうして抗議デモへの対応の一環として、警察が監視技術を使用する懸念が再び浮上している。

この件についてアマゾンにコメントを求めたが、回答はなかった。

警察に位置データを提供するグーグル

グーグルのCEOであるスンダー・ピチャイも同じように、「黒人コミュニティと団結して人種の平等を支持していく」と5月31日にツイートした。しかし、グーグルもまた、過剰な取り締まり行為を支持しているとして批判を受けている。

公民権団体は、“ジオフェンシング令状”を可能にするグーグルの業務慣行を非難している。これは警察が捜査対象の地域のデヴァイスのデータをグーグルに要求することを許可するものだ。グーグルはまず、指定された地域内の電話機について匿名の情報を提供する。警察が容疑者を絞り込むと、グーグルは特定のデヴァイスに対応するユーザー名と位置データを提供するという流れだ。

ジオフェンシングが有色人種のコミュニティを狙い撃ちにしているという証拠は、ほとんどない。だが多くの人は、犯罪現場のはるか外側のデヴァイスが含まれているときに作成されたとして批判している。

ジオフェンシングは多くの場合、街路名や住所ではなく、GPS座標を用いて記述されている。そして範囲が広すぎる場合が多く、対象となる人数も犯行現場の近くにいると合理的に考えられる人数を優に超えているという。

警察がどの程度の頻度でジオフェンシング令状を要求しているのかは、明らかではない。だが、グーグルが自己申告した政府の要求に関するデータによると、2017年の10,000件が昨年は約20,000件に急増している。グーグルは今年1月以降、データ提供を求められた際に警察に最大245ドル(約26,700円)を請求している。

「修正第4条による保護が不十分であるがゆえに、GPSやテキスト、ソーシャルメディア、あるいはAndroid端末の検索データが裁判で証拠として使われる可能性があります」と、ブライヴァシー関連の非営利団体である「Surveillance Technology Oversight Project(STOP)」でテクノロジーディレクターを務めるリズ・オサリバンは語る。「大手テック企業が公共の利益を守るためにできることはもっとあるはずです。それなのに企業はそれを怠り、実際に正義を推進する可能性のある法案に反対するために多額のロビー活動費を使っています」

この件について当初はグーグルからコメントがなかったが、のちに同社の法務と情報セキュリティ担当ディレクターのリチャード・サルガドがコメントを寄せた。「わたしたちは法執行機関の重要な業務を支援すると同時に、ユーザーのプライヴァシーを精力的に守っています。開示されるデータの範囲を狭めながら法的義務を尊重できるように、特別にプロセスを開発したのです」

セールスフォースやRedditも矢面に

一部の企業は、非白人コミュニティへの過剰な取り締まりや監視を可能にすると批判されている製品を開発したことで非難されている。例えば、セールスフォースやGithubの公式アカウントが「Black Lives Matter」への支持をツイートすると、ネット上では両社が米国税関・国境警備局や米国移民・関税執行局と契約しているとの多くの指摘があった。

コミュニティベースのソーシャルネットワークアプリ「Nextdoor」の運営企業は、「Black Lives Matter」への支持をツイートした直後に批判を浴びた。Nextdoorのユーザーが有色人種の人たちを人種的に識別し、犯罪の言いがかりをつけているという非難に、同社の経営陣は数年にわたって直面してきたのだ。

Nextdoorは『WIRED』US版に対して、同社が人種差別的な発言を検出するアルゴリズムを導入し、ユーザーが他人を不審者として通報する際により詳細な情報を要求するようにしたと説明している。これにより、アプリ上での人種の識別が減少したという。「たったひとつの事案でも大きな問題です。今後も努力を続けます」

批判は警察改革を巡る懸念にとどまらない。オンライン掲示板「Reddit」の共同創業者兼CEOのスティーヴ・ハフマンは6月1日、従業員への公開書簡のなかで「Black Lives Matter」への支持を表明した。その数時間後、前CEOのエレン・K・パオは、Reddit上の人種差別的な荒らし行為を無視していること、そしてさらに深刻なことに白人至上主義から利益を得ているとしてハフマンを非難した。

そしてパオは、次のようにツイートした。「ずっと白人至上主義とヘイトを助長して収益化しているのに、BLM(Black Lives Matter)だなんて言えないでしょう」

2015年に暫定CEOだったパオは、特に悪質なサブレディットのいくつかを禁止するよう働きかけ、長年のユーザーからの反発を招いていた。これに対し、CEOとして彼女のあとを継いだハフマンは、「コミュニティが独自に誹謗中傷の適切な基準を設定する」という、より手のかからないアプローチを選んだ。

Redditの広報担当者によると、同社は人種差別的なサブレディットを禁止したほか、親トランプ派のフォーラムとして最も悪名高いサブレディット「r/thedonald」を開いた利用者には警告画面を表示するようにしたという。

トランプの発言を放置するFacebook

同様にフェイスブックに対しては、CEOのマーク・ザッカーバーグを含む幹部が6月1日の夜に公民権運動の指導者と会談したあとも、批判が続いている。ザッカーバーグは1日、同社が人種間の平等を推進する団体に1,000万ドル(約11億円)を寄付すると発表し、フロイドの死を撮影した動画がFacebookに投稿されていたことに言及した。

ところがザッカーバーグは、トランプ大統領の「略奪が始まれば銃撃する」というTwitterで警告ラベルが表示されたメッセージがFacebookに再掲載された問題について、行動を起こすことを拒んでいる。これに激怒した従業員たちは仮想ストライキを実施し、この判断への反対を表明した。

全米黒人地位向上協会(NAACP)の法的防御・教育基金や、公民権団体「Leadership Conference on Civil and Human Rights」、反人種差別団体「カラー・オブ・チェンジ」の指導者たちは1日の会合後の声明で、ザッカーバーグの判断を抗議デモの参加者に対する暴力と結びつけた。声明文は、ザッカーバーグが「有権者に対する弾圧の歴史と現状への理解を示しておらず、フェイスブックがトランプによるデモ参加者への実力行使の呼びかけを幇助していることを認めようとしない」としている。

フェイスブックの広報担当者は、「公民権運動の指導者たちがマークとシェリルと真摯に率直な意見交換をしてくれたことに感謝しています」とコメントしている。シェリル・サンドバーグは同社の最高執行責任者(COO)である。

パフォーマンスとしての問題意識

これらの動きを受けて、監視や人種差別を研究する独立研究者のクリス・ギリアードは次のように指摘する。「企業の行為は、ときに『パフォーマンスとしての問題意識(performative wokeness)』と呼ばれるものと見なしていいと思います。『黒人コミュニティを支持する』という声明を出したとしても、それは企業として最低限できなければならないことなのです」

「これらの企業の多くは、黒人の労働力を搾取したり、黒人を直接傷つける憎悪や過激主義を増幅させたりすることで利益を生み出しています」と、ギリアードは続ける。「もしアマゾンが本当に黒人の命が大切だと感じているなら、従業員を扱う方法を改善し、Rekognitionの販売をやめ、(カメラ付きドアベルの)『Ring』の販売を中止するはずです。フェイスブックが本当に黒人コミュニティを支持するなら、Facebook上で横行する白人至上主義を根絶するでしょうね」

新しく登場しつつある監視ツールに対しては、公正な利用を管理する規則が整備されていない。このため企業の方針は非常に重要になる。改革に焦点を当てた公民権運動と協調するか、あるいはそれに反対するか。政府の規制に従う代わりに、企業の幹部が法執行機関との関係をどのように位置づけ、解釈するかはさまざまだろう。

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