米中対立深刻化 自由な香港死なせるな

2020年6月4日 07時39分
 中国が香港の「一国二制度」を事実上葬り去る「国家安全法」導入を決めたことに対し、米国は厳しい対抗措置を発動する構えだ。何よりも肝心なのは、自由な香港を死なせないことではないか。
 中国の全国人民代表大会(国会)は五月末、香港の自治を奪う「国家安全法」を採択した。
 同法は、共産党政権転覆や中国分裂活動などを禁じる。香港の議会である立法会の審議なしで、今夏にも施行される見通しだ。
 共産党政権に批判的な言動を取り締まることが最大の狙いだ。香港では毎年六月四日に天安門事件の追悼集会が開かれてきたが、香港警察は今年初めて不許可とした。今後は民主化を求める反中デモなども違法とされ、厳しく摘発される恐れがある。
 中国は香港返還の際に、「一国二制度」の下で五十年間、香港の「高度な自治」を認めると表明した。これは中英間の約束だっただけでなく、国際公約でもあった。二〇一四年の雨傘運動以降、香港で再燃し続けた民主化要求デモに危機感を抱いた中国が、一方的なやり方で公約を反故(ほご)にするなら、国際社会の信頼は得られまい。
 貿易摩擦やコロナ対応などで中国との対立が深刻化している米国のトランプ政権は、香港に認めてきた関税やビザなどの優遇策を廃止する制裁発動を示唆した。
 優遇策は香港の「高度な自治」が前提であるから、今や廃止やむなしとの理屈は理解できる。だが、制裁を科しても、香港問題を「核心的利益」とする中国が同法を撤回する可能性は低い。香港を大陸と同一視しての制裁発動は、中国が強行しようとする「一国一制度」を逆に助けることにもなりかねない。
 何よりも懸念されるのは、貿易総額世界七位、新規株式公開調達額世界一位の経済都市である香港を「死に体」にしてしまう危険性があることである。
 香港には米企業千三百社が拠点を置く一方、海外からの対中直接投資の七割は香港経由である。香港の衰退は米中のみならず、世界にも負の影響が大きい。
 しかも、習近平国家主席の香港強権統治とトランプ大統領の対中強硬策は、共に国内求心力を高める狙いが強いように映る。
 米、英、豪、カナダは先月末、香港への統制強化に「深い懸念」を示す声明を出した。日本も含め、国際社会が連携して中国の非に警鐘を鳴らし、自由な香港を守る努力を続けるべきだろう。

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