ローソンPB新パッケージの「わかりにくすぎる」という問題 ユニバーサルデザインの専門家に訊く

文=和久井香菜子
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Photo/Kyodo News/Getty Images

 ローソンは2020年春、プライベートブランド商品のロゴ・パッケージを刷新した。これまでの「ローソンセレクト」を「L basic(エル ベーシック)」「L marche(エル マルシェ)」の2つのブランドに一新したという。手掛けたのは国内外で幅広いクリエイティブを行うデザインオフィスnendoだ。

 確かにデザインは美しい。しかし店頭に並んだ商品を見ると、統一感はあるが何の商品だかわかりづらい。Twitterでも「前のデザインの方がわかりやすかった」という消費者の声が目立つ。

 筆者の和久井は、ライターと並行して合同会社ブラインドライターズという、視覚障害者を中心とした会社を運営している。スタッフには、中心視野が欠けていて焦点が合わない人、全体的にぼやけて見える人、トイレットペーパーの芯から物を覗いているように見える視野の狭い人など、さまざまな視覚の状態の人がいる。彼らにも見てもらったが、「非常にわかりにくい」「目的の商品を選べない」という声が上がった。

 視覚障害者にとって「見にくい」、ローソンの新パッケージ。どこに問題があるのだろうか。株式会社ユーディット(情報のユニバーサルデザイン研究所)会長であり、同志社大学客員教授の関根千佳さんに聞いた。

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関根千佳
1981年九州大学法学部卒業後、日本IBMにSEとして入社。93年に障害者のIT利用を支援するSNSセンターをトップに直訴して設立。1998年(株)ユーディット(情報のユニバーサルデザイン研究所)を設立、代表取締役に就任。内閣府・総務省・経産省・国土交通省など多くの省庁・企業・学会で審議会委員や理事を歴任。2012年同志社大学政策学部/大学院総合政策科学研究科ソーシャルイノベーションコース教授。2020年現在、同志社大・放送大・美作大客員教授の他、東京女子大、関西学院大で非常勤講師等を務める。「『誰でも社会』へ」(岩波書店)、「ユニバーサルデザインのちから」(生産性出版)、「スローなユビキタスライフ」(地湧社)の単著を始め、「情報社会のユニバーサルデザイン」(放送大学教育振興会)など共著多数。
http://www.udit.jp/

ローソンの新パッケージはなぜ「わかりづらい」のか

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ーー実際にローソンに行っていただいて店頭の商品を見てもらいましたが、いかがでしたか?

【関根】一個だけで見るとカワイイのですが、商品を選ぶ際のユーザーインターフェースの視点でいえば、ちょっと涙が出るような、残念なデザインだなと思いました。一言でいえば、視認性が悪いので、何の商品なのかわからないのです。理由として、まず商品名の文字が小さく、位置が悪い。イラストが小さく、中身が分かりづらい。問題はたくさんあります。

ーーブラインドライターズに在籍しているロービジョンのスタッフ3名に実際にローソンに行ってもらい、意見をもらいましたが、やはり「わかりにくい」「自力で買えない」「買い間違えた」ということでした。なぜこの時代に、このようなパッケージが自信満々に発売されるのか疑問です。日にもUDを推進・研究している団体はあるはずですが。

【関根】ユニバーサルな、分かりやすい包装を研究しているチームは、DNP(大日本印刷)やトッパン印刷をはじめ日本の中にもたくさんあります。JIS規格でも明確に定められており、「JIS S 0022包装―アクセシブルデザイン」ではこのようになっています。

4.1.1.1 文字及び画像
文字は,視認性確保のためにとりわけ重要な要素となる大きさ,書体,コントラスト及び色の組合せに配慮して見やすいものとする。絵文字などの画像は,容易に理解しやすいものとする。
4.1.2.4
誤認しやすい製品のための識別
包装製品を安全かつ有効に使用するためには,簡明な識別が重要である。誤認のおそれがある場合,包装には目につきやすい内容表示を必要とする。
https://kikakurui.com/s/S0021-2014-01.html

 見やすいパッケージを提供することは、企業にとって常識で大前提になっているはずです。ですからローソンのこれらの新パッケージは、問題だと思います。

ーーUDを推進するメリットはなんでしょうか。日本ではまだまだ「数の少ない障害者に合わせたサービスをすることは負担だ」という考えが大きいように思います。

【関根】ユニバーサルデザインは、障害者やシニアから、子どもや外国人、若くて健康な人にとっても、使いやすいデザインです。「障害者」と一口に言っても、さまざまな人がいます。障害のあるなしも、ゼロか100かで区分けできるものではありません。

 障害者などニーズの大きな人が使いやすいものは、他の多くの人も使いやすい場合が多いのです。例えば身長の低い子どもが下から見上げて読みやすいパッケージは、背の低い人や高齢者、車いすの人にも読みやすいかもしれません。遠くから読みやすいパッケージは、近寄ればもっと読みやすいから、ロービジョンの人や、視力に衰えを感じる40代以上の人にも読みやすいはずです。冷凍庫の扉などを長く開けなくても商品がわかるから、買う人だけでなく、棚に商品を陳列する店の従業員にもメリットがあるんです。

ーーローソンの新パッケージはイラストや文字が小さく細いので、ロービジョンの人には読めないようです。「紙パックのお茶は文字もイラストも小さく、見ても判断できずに手で取る必要があった」「冷凍品はなんなのかが全く分からず、片っ端から取り出して顔を近づけるわけにもいかないので、自力では買えないと思う」という意見もありました。

【関根】わかりにくいというのは最も問題です。例えばアレルギーのある人が、パッケージを見誤って別の商品を購入し、口にしてしまうことも考えられますよね。それから、「自力で買えない」のも大きな問題です。私の93歳の父は九州で一人暮らしをしていますが、家から近いコンビニが命綱です。同様のシニアはたくさんいます。

 パッケージの問題で自立できない人が出てくると、彼らを支えるサポートの手がより多く必要になります。ひとりでも多くの人が食で自立をすることは、世界最高齢国家の日本では欠かせないのです。デザインでそれが可能になるなら、安いものではないですか。

 加齢の影響が出るのは40歳以上ですし、日本は2005年以降、成人人口の半分が50歳を超えています。この巨大なシニア市場を敵に回すのは、企業として得策ではないはずです。納豆やハムなど、基礎的な食品が英語だけの表示というのも、どうかと思います。

ーーこの先、自分も加齢の影響が出ることを考えると、UDの浸透は急務と思えます。海外ではUDに関して何か取り組みがあるのでしょうか。

【関根】アメリカのリハビリテーション法第508条では、公的機関はUDのもの以外買ってはいけません。SDGsの中に「誰も残していかない」という基本概念があるので、UDじゃないものを作ってはいけないし、買ってもいけない。それは世界のルールになりつつあります。

 EUでも同じように「European Accessibility Act(EAA)」という法律があります。2018年に「EUに加盟しているすべての国はアクセシブルなICT(情報通信技術)以外は買ってはいけない」という法律ができました。ただしこれらは直接、食品に適用されてはいなかったと思います。

 ですがそんな法律で縛らなくても、食品は老若男女いろんな人が買いに来るのだから、UDは当たり前だよねという意識はしっかり根付いてると思います。食料品は公共インフラですから。少なくとも、その食品が何であるかという「情報」は、きちんと買い手に伝わるべきでしょう。

ーーところがローソンのwebサイトにも、「“地球上の誰一人として取り残さない” ことをキーワードに」「SDGsの推進に積極的に取り組んで」いるとあります。

 そこで私はローソン本社に、「新パッケージに多くの人が見にくいと声をあげているが、推進すると明言しているSDGsの視点からどうお考えか。監修は入れたのか」と問い合わせました。企業理念として謳うからには、商品開発に当然UDの視点を入れていなければいけないと思うからです。しかしローソン側からの回答は「貴重な御意見をありがとうございました。商品開発に活かして参ります」というもので、杓子定規な印象を受けました。

【関根】SDGsの中にUDが必須であるという意識が、まだ薄いのかもしれません。環境に良いもの、そして人間に良いものを作って売ることは、地球市民としての企業の責任だと思うのですが。有害物質は人の体を傷つけますが、UDでない製品や包装も、人の心を傷つけます。やはり企業としては良識ある行動をとってほしいと思います。今後を期待します。

ローソンPB旧デザインと新デザインを比較

ーー具体的に、パッケージの問題点を教えてください。

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【関根】たとえば、この写真は冷凍食品のコーナーです。上段には炒飯と五目炒飯があるのですが、パッケージの文字が一番上に書いてあるので、これが「炒飯」なのか「五目炒飯」なのかは、身長155センチの私でも、冷凍庫の扉を開けて手に取らないと分からないんです。店にとっては冷凍庫の扉をバンバン開けられることになるから、やめて欲しいでしょうね。「なんの商品か分からないから自分で買えない」という意見が出るのも頷けます。

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【関根】次にこちらの写真を見てみましょう。旧デザインの「パストラミビーフ」は、フォントも大きいし見やすい。一方、新デザインの「バラ焼豚」は字が小さく、読みにくいですね。「直火で仕上げました」というコメントを下につけるなら、もう少し商品名を大きく書いてほしいです。「パストラミビーフ」の場合「黒胡椒でスパイシーに仕上げた」というコピーは商品名より上に書いてあるので、棚の影に隠れることもありません。

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【関根】お惣菜の棚です。旧デザインの「ごぼうサラダ」「明太ポテトサラダ」「春雨サラダ」はすぐになんなのか分かりますね。でもそれらに挟まれた「8品目のさっぱり和風サラダ」は、何がサラダの中身なのかさっぱり(!)分かりません。具材に何が入っているのか、よっぽど目を近づけないとイラストでは絶対に分かりません。ロービジョンの人はまず読めないでしょう。アレルギーのある人も、裏面の原材料表記を注意深く読まなければ恐ろしくて買いにくいですね。

ーーサラダや表記に関しては、弊社のスタッフからも具体的に意見がありました。「袋入りサラダが何サラダなのかもわかりにくかったです。英語表記の商品もありました。私の英語力に問題があるのかもしれませんが、アルファベットのフォントも見づらいし、日本語訳も小さな文字だったので、どちらを読むにしても判別に時間がかかった」そうです。

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【関根】この写真も見てみましょう。旧デザインの「海老チリ」はイメージ写真が大きく一瞬で分かりますが、新デザインのものは下段の「筑前煮」も上段の「こてっちゃん」も、区別しづらいです。棚の商品の数が減れば減るほど、パッケージは後ろに倒れてしまいますが、そうすると「こてっちゃん」はギリギリ読めるけれど、その隣は何なのか全く分からない。要するに、棚に並べたときにどう見えるかという「リアルな環境でのユーザー評価」をやらないで作ってしまったのではないか? と思います。棚は奥が暗いのでかなりそばまで寄らないといけません。コロナに対応した政府の「新しい生活様式」の方針で、「買わないものには触らない」というのがありましたが、これでは無理ですね。

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【関根】こちらはどうでしょうか。旧デザインの「金のビーフカレー」は、すぐにカレーだと分かりますが、隣に置かれた新デザインの「プレミアムビーフカレー」は、タイトルが隠れてしまっています。何なのかがまったく分からないので、買いにくい。どうやら、赤ワインを使いましたということを言いたいらしくて、ワインの絵が描いてありますが、それも小さいですね。

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【関根】パッケージの裏面にも問題が隠されています。UDとしての問題は、買うときもですが、利用時にもっと大きくなるかもしれません。「ここから開ける」とか「電子レンジで」などの案内が、これまでは赤の表示で非常にわかりやすかったのですが、今回はデザイン重視で全て茶色一色になっており、「危険」といった情報が伝わりにくいのです。

 サラミなどはパッケージの裏側が透明になっていて、そこに文字が載せてあるため、原材料がほとんど読めませんでした。食品表示をきちんと読みたい消費者には、選んでもらえないでしょう。

ーー伝えるべき情報が伝わらないのは大問題ですね。アレルギーのことにしろ、命に関わる危険もあります。使いやすさという点では「いつも同じ物を買っているとデザインや色を覚えてくるので、だんだんと買いやすくなってくるが、これらはいつまでたっても目的の物を探すのに苦労しそう」という声がありました。

 一方、無印良品も同じようにシンプルなデザインですが、「見づらい」という意見は上がりません。無印良品の場合は商品名がゴシック体で大きく書かれていること、完成形の写真が大きく印刷されていること、商品名の配置が統一されているので、見るべき場所がわかりやすいことなどが理由です。拡大鏡を使わなくても文字が視認できたという声もありました。マイナスの意見は上がってこず、かなり洗練されたデザインであることがわかります。

【関根】無印良品は、文字の視認性もすごく高いし、商品が並んでいるときに見づらい印象はありません。

ーー私が公共放送の語学テキストを作っていたとき、ユーザーから「写真キャプションの文字が小さい」という御意見を本当によくいただきました。本文とのコントラストをつけるため、キャプションは小さくした方がかっこよく見えるのですが、でもそれがいかに配慮不足だったかを痛感しています。余白を大きくして文字や情報を減らせば、デザインはかっこよく見えます。しかしそれは果たして技術なのだろうか。誰もが使いやすい、誰もが見やすい、ユニバーサルなデザインを意識しつつ、かっこいい。これが現代に求められるデザインの技量ではないでしょうか。

【関根】そうですね。「デザインはカッコ良ければそれでいい」と考えている人たちもまだまだたくさんいます。でも、デザインが社会のインフラだとすると、やはり使いにくい人たちがたくさん出てはまずいという社会的通念は絶対に必要です。そのために私はこの20年間のあいだ、「かっこよく、美しいユニバーサルデザイン」を多くのデザイナーと追求してきました。

ーー私たちも、明日、事故や病気になって障害を負うかもしれません。その時に突然、自分でできなくなることばかりになったら、絶望は大きいでしょう。障害者を別の世界の人だと思うのは傲慢だと感じます。

【関根】たとえば色覚障害は、男子の20人に1人といいます。小学校のクラスに1人は必ず色弱者がいる計算です。子どもも、視野角が狭く、身長も低いので「見えにくい」層に入ります。今は元気な若い人も、夜勤明けで疲れていたり、スマホの見過ぎで目がかすんだりしますよね。そして私たちは、100%歳をとります。障害も加齢も、明日は我が身なのです。世界一の高齢国家である日本で、見えにくいという方が消費者の半数近くなることを考えれば、視認性やわかりやすさを無視するのは無理な話です。コンビニには子どもたち、外国人、背の低い方、シニア、たくさんの多様なお客様が来ます。ユニバーサルデザインを正しく理解し、推進してほしいと思います。

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