荒れる米国 トランプ氏の責任重い

2020年6月2日 07時15分
 警察の暴力への抗議行動が全米で荒れ狂っている。トランプ大統領は国民に平静さを取り戻すよう呼び掛けるところなのに、逆にあおるような発言をしている。その責任は重い。
 路上に伏せさせられた黒人男性の首を白人警察官がひざで押さえ付ける。男性は「息ができない」と訴えるものの、警官は聞き入れない−。
 中西部ミネソタ州で男性が死亡したこの事件の映像が流れるや、抗議デモが全米に広がった。一部が暴徒化して略奪や放火も相次いでいる。
 二〇一四年に丸腰の黒人青年が警官に射殺された「ファーガソン事件」を契機に、米司法当局は警官にボディーカメラを装着させるなどの対策を進めたが、警官の暴走は後を絶たない。
 ただ、今回の抗議活動の規模は、公民権運動の指導者だったマーチン・ルーサー・キング牧師が暗殺された一九六八年以来とも評される。新型コロナウイルスの感染拡大で広がる社会不安。人々の怒りが沸騰する下地が出来上がっていたのだろう。
 コロナ禍は低所得者の多い黒人やヒスパニック(中南米系)住民に対し、より深刻な被害をもたらす。感染率や死亡率は白人に比べると目立って高く、人種間格差を浮き彫りにした。
 しかも雇用情勢は極度に悪化し、失業保険の申請件数は四千万件を超えた。
 今回の事態にトランプ氏は民主党の知事や市長の対応を手ぬるいとして、連邦政府の軍投入も辞さない姿勢を見せた。
 暴徒には「略奪が始まれば発砲が始まる」とツイートした。これは六〇年代に人種差別的な白人警察幹部が、黒人社会取り締まりに臨む姿勢を語ったのと同じ表現だ。事態の沈静化を図るどころか、暴動を挑発していると批判されてもしかたのない発言である。
 多民族社会の米国では、大統領は人種間の融和と協調を説くべきだが、逆に分断をあおるのがトランプ流だ。白人労働者層を中核とする支持層受けするとみなしているのだろう。
 南部ジョージア州の州都アトランタはキング牧師の生誕地である。黒人女性のボトムズ市長は「これは抗議行動ではない。キング牧師の精神にも反する。単なる暴動だ」と述べ、デモ参加者に帰宅を促した。
 よほど指導者にふさわしい振る舞いである。

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