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 米国外交の迷走が極まってきた。感染症による今の国際危機は、米国の威信と指導力の凋落(ちょうらく)を決定づけた節目として後世に語り継がれるかもしれない。

 トランプ大統領の即興外交はかねて無定見だったが、コロナ禍を経てさらに悪化している。先週来、矢継ぎ早に繰り出したのは、拙策ばかりだ。

 世界保健機関(WHO)からの脱退を表明したうえ、主要7カ国(G7)首脳会議の枠組み変更を表明した。いつもながら唐突で一方的な動きである。

 「WHOに代わる組織はない」と国連事務総長が憂慮し、欧州連合も再考を促している。だがトランプ氏は引きつづき、WHOを中国の「操り人形」だとして責めたてる構えだ。

 G7については、米欧、カナダ、日本の現メンバーに、インド、韓国、豪州、ロシアを加えて9月以降に開きたい旨を示した。ここでも明確なのは中国への対抗心であり、包囲網としてG7を利用したいようだ。

 いまの「中国たたき」からは、冷戦期から米歴代政権が培ったはずの長期的戦略はうかがえない。11月に迫る大統領選挙へ向け、コロナ対応での自らの失策を覆い隠す思惑が透ける中国脅威論である。

 感染症対策に世界が結束すべき時に、国際機関や会合の枠組みを揺さぶる。そんな米国の身勝手さは波乱要因でしかない。米中対立を見つめる国際社会は、中国の強権と並んで、米国の独善にも厳しい目を向けざるをえないだろう。

 両大国のエゴのはざまで難しい立場に置かれたのは、香港の市民である。中国が自由を制限する国家安全法制に動き出したのを受けて、トランプ氏は「一国二制度」に反するとして制裁的な措置を示した。

 その中には、関税や渡航面で香港に対する優遇をやめて、中国本土と同じに扱うことも含まれるという。それでは香港の企業や市民までが苦しむことになり、結果的に「一国一制度」への動きを後押ししかねない。

 そもそも香港人が求める自由や民主主義などの価値観を、トランプ氏が理解している気配もない。G7の枠組みにロシアを加えるという発案も、根源的な疑いを抱かせるものだ。

 現状のG7は、クリミア半島を力で併合したロシアをG8から外してできた枠組みである。法の支配を尊重しない国と、どうして新たな国際秩序づくりを話し合うことができるのか。

 米国では人種差別を背景にした暴動が広がり、国内でも混乱が深まっている。協調を忘れた外交と、分断をあおる内政との両面でのきしみこそが、今年の大統領選挙の論点だろう。

連載社説

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