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映画テーマパークの元祖で遊ぶ! 周防正行監督『カツベン!』ロケ地・東映太秦映画村

 東映、松竹の撮影所が並ぶ京都・太秦は、日本の時代劇映画の聖地。毎日、なにかしらドラマや映画の撮影が行われている。京都で最初の撮影所は、1910(明治43)年に二条城の西南隅櫓(せいなんすみやぐら)の向かいに建てられた「二条城撮影所」だが、それから16年後の1926(大正15)年。当時、大スターだった若き阪東妻三郎(『雄呂血』1925)が自身のプロダクションを設立。その撮影所として竹藪を切り拓いて作ったのが「阪東妻三郎プロダクション撮影所」。いまの 「東映京都撮影所」だ。

なにやら美味しそうな匂いのする『カツベン!』のメインキャストと周防正行監督。2019年12月公開予定(撮影:関口裕子)

 今回、この東映京都撮影所で、周防正行監督が大正時代を舞台にした映画愛に溢れる新作 『カツベン!』を撮影中と聞き、うかがった。“カツベン”とは、 “カツ丼弁当”でも、便秘にまつわる事象を映画にしたものでもなく、サイレント(無声)映画時代、様々な役の声を一人で演じた“活動弁士”の略。活動弁士が演じて、観客を泣かせ、笑わせた無声映画はいつしか“カツベン”と呼ばれるようになった。そんな活気に満ちた黎明期の映画周辺で働く人々を描くという『カツベン!』からは、なにやら美味しそうな匂いが漂う!

 さて、せっかく東映京都撮影所に来たのだから、その周辺の散歩も楽しみたい。取材時間までまだ間がある。散歩するなら撮影所に隣接する 「東映太秦映画村」に決まりだ。

映画テーマパークの超老舗、東映太秦映画村へ

 入るのは東映京都撮影所の正門横にある撮影所口から。このあたりではタイミングがあえば、撮影に訪れる俳優さんを見かける可能性もある! 

東映京都撮影所正門横にある東映太秦映画村入場口(撮影:関口裕子)

 東映太秦映画村内のエリアは大きく2つ。「アトラクション広場」と「時代劇オープンセット」。しばらく塀に沿って通路を歩くと、「忍者修行道場 刀でGO!!」や「からくり忍者屋敷」、「手裏剣道場」など子どもに大人気な忍者関連の施設が並ぶ「アトラクション広場」に到着。「忍者衣裳貸出処」では、1000円で忍者装束をレンタルできると聞き、「よっしゃ! 着替えて気分を出してみよう」と思いきや、身長140センチまでの制限あり。子ども用だった(恥)!

「手裏剣ハイスコア選手権」のイメージ。アトラクション広場では「あおぞら忍者教室」も開催中(提供:東映太秦映画村)

 映画村内には、たくさんのカフェやレストランがある。このエリアにあるのは、「忍者カフェ」。忍者の扮装した子どもたちをからくり忍者屋敷や忍者教室で遊ばせながら、大人はカフェで休憩といった感じでも活用できる。映画村、大人にも子どもにも優しい設計となっているのだ。

あの時代劇のあの場所が!江戸のオープンセットは必見

 続いては「時代劇オープンセット」のエリア。ここには江戸の街並みを再現した「江戸の町」、明治時代の町の一画を再現した「明治通り」、映画の女神がシンボルの「中央広場 映画の泉」などがある。映画の泉の傍に建つ「映画文化館」(1階は京都太秦美空ひばり座)には、映画の歴史を深く知ることができる貴重な資料が多数収められている。見どころの多い映画村だが、ぜひここを見る時間もスケジュールに入れておいていただきたいと思う次第。

オープンセット江戸の町の俯瞰図(提供:東映太秦映画村)

 江戸の町のオープンセットには、本当によく映画やドラマに登場する「日本橋」や、江戸の目抜き通りのセット「三丁目通り」、江戸時代にあった歌舞伎の劇場を再現した「中村座」、江戸随一の遊郭を再現した「吉原通り」、運河が商店裏まで入り込んでいた様を再現した「港町」、幕末ものには必須な「池田屋」、武家屋敷の門を再現した「長屋門」、人気テレビ時代劇「銭形平次」の親分宅を再現した「銭形平次の家」などのセットが、いつでも撮影可能な状態で建っている。

 『るろうに剣心 京都大火編』(2012)では火の海となる京の町として、『銀魂』シリーズ(2018)では銀時が営む便利屋「万事屋 銀ちゃん」のあるかぶき町として撮影されたほか、綾瀬はるか主演の『本能寺ホテル』(2017)や阿部寛主演の『のみとり侍』(2018)などにも登場した。ちなみに団体入口として使用されている建物も実はオープンセット。江戸城などの大手門として使われているので要チェック。

三丁目通りにはこんな商店も(撮影:関口裕子)

 三丁目広場や白壁通りでは観客参加型の「ちゃんばら辻指南」、中村座前では「大江戸大道芸」や、中村座内では3Dマッピングとアクションを融合させた「激突!忍者ショー『サスケ』」、中村座から吉原通りまでは花魁がお練りを行う「おいらん道中」(11月までの日祝のみ)などのショーが開催される。それらに出演するのは時代もの強い東映の俳優さんたち。彼らが映画村内を案内してくれるイベント「おもしろ散策ツアー 俳優さんといっしょ!」に参加して、演技や撮影について、直接質問してみるのもここならではの楽しみ方だ。

ちゃんばら辻指南とおいらん道中(提供:東映太秦映画村)

 そんな俳優さんたちの衣装に刺激を受けたら、時代劇の扮装にチャレンジ! 時代劇オープンセット内の「扮装写真館」では、手軽に時代劇衣装の写真撮影が可能。団体入口横の「スタジオマーケット」2階にある「時代劇扮装の館」では、映画村内を衣装のまま歩ける、レンタル着付けスタジオがある(大人も子どもも利用可)。楽しみは身も心も浸ってこそ! 旅の記念にぜひ!

『カツベン!』の撮影現場を訪れてみると

 さて『カツベン!』。大正時代の映画館「青木館」を舞台とする本作は、そんな東映太秦映画村のオープンセットの一画を飾り替えて撮影されていた。憧れの無声映画の活動弁士になりたい俊太郎(成田凌)と、女優を目指す梅子(黒島結菜)の不思議な出会い。黎明期の映画興行師や泥棒が繰り広げるとんでもない騒動。そこに俊太郎を追う警察、俊太郎を拾う小さな町の映画館主夫婦(竹中直人、渡辺えり)らが加わり、映画と共に人々が生きる様を描く。タヴィアーニ兄弟の『グッドモーニング・バビロン!』(1987)やジュゼッペ・トルナトーレの『ニュー・シネマ・パラダイス』(1988)を彷彿させる(超える?)、笑って泣ける感動エンタテインメントになるのではないか。

竹中直人、黒島結菜、周防正行監督、成田凌、渡辺えりの後ろに見えるのがその青木館(撮影:関口裕子)

 周防監督は、なぜ無声映画時代の映画人を描く映画を撮ろうとしたのか? 「無声映画の時代に、活動弁士という、映画を解説しながら見せる人がいた。これは世界でも日本だけの文化。映画の始まりの物語をエンタテインメントとして知っていただき、映画の歴史を感じてもらいたいと思った」のだそう。

青木館がある商店街。江戸の町が大正の商店街に飾り替えられた(撮影:関口裕子)

 オーディションで周防監督は、3カ月にわたり男女それぞれ100名、計約200名に会った。そのオーディションで「弁士として映画を解説できる力が感じ取れたのでキャスティングした」と太鼓判を押された成田凌は、「周防組で初主演はこの世界の人間なら誰もが羨むこと。それに周りも誰が主演でもおかしくない皆さん。それをプレッシャーと思わず、安心感と信頼に代えて、這いつくばってでも真ん中に立っていようと思います」と応える。

 女優に憧れる梅子のキャスティングについては、黒島結菜が「駆け出しの女優を演じる初々しさと可愛らしさを持っていた」からだと語る周防監督。黒島は「あまりオーディションに受かることがなかったので、なんで私だったんだろうと不思議に思っていました(笑)。皆さんと良い作品を作ることは、私の女優人生の貴重な経験になっていくと思います。撮影、頑張ります」と腑に落ちたよう。

梅子役の黒島結菜と俊太郎役の成田凌(撮影:関口裕子)

 そんな二人を、『Shall we ダンス?』(1996)から周防組で絶妙なコンビネーションを見せ、今回は青木富夫、豊子夫妻を演じる竹中直人と渡辺えりが見守る。いや、見守るというより、「場は作るからその中に居場所を見つけて」とでもいうように二人で勝手にテンションを高め、場を作っていく。「私の役どころは全部、渡辺えりが知っています。私は婿養子だそうです」といじける竹中に、渡辺は「あなた、ちゃんと台本を読んでいないだけ(笑)。私は芝居小屋の娘で、うちの小屋に団十郎が出たのが自慢。長女なので婿養子をもらったけれど、子どもができなくてイライラしてる」とスパっと応える。

青木富夫役の竹中直人と妻・豊子役の渡辺えり(撮影:関口裕子)

 渡辺はNHK土曜ドラマ「アシガール」(2017)のファンだったことを明かし、黒島を「テレビで見るより、ずっと華奢で可愛い。共演できて嬉しいわ」といじるが、黒島はまだうまく答えられない。撮影は始まったばかり。このような関係がクランクアップの頃に、どう変わっているか、楽しみだ。

時代劇でおなじみ「あの団子」をついに発見!

 『カツベン!』のキャスト発表会見も終わり、映画村も閉村時間となるというアナウンスがあって、慌てて退出しようとする筆者に面白い情報が入った。事前に「撮影所の近所で、散歩で小腹が減ったときに食べる、適当なものがあったら教えて欲しい」と聞きまわっていたのだ。最後に教えてもらったのは撮影所の門の斜め前にある 「京菓子 太秦庵 ふたば菓舗」

看板には「京菓子 太秦庵 ふたば菓舗」と書いてあるが「うずまさふたば」に改名されたようです(撮影:関口裕子)

 豆大福が名物とのことだが、こちらで扱っている三色だんご。どこかで見たことないだろうか? そう。時代劇に“消えもの”として出てくるお団子やお饅頭は、こちらで作られているのだそう。とはいえ、ひょいとスタッフが訪れて、「三色だんご10本ください!」というわけではない。事前にその作品にはどんなだんごや饅頭が合うのか打合せ、当日に間に合うように仕上げるのだとか。もちろん試作もするとのこと。

「時代劇ファンに捧ぐ」のポップのついた三色だんごとつぶあん入り豆大福(撮影:関口裕子)

 時代劇に思いを馳せながら、食べる三色だんごは格別。出来立ての「つきたてこもち おけそくさん」や「栗赤飯」、「名代喜三郎もなか」もとてもおいしそうだ。おみやげにもぴったりな品々。『カツベン!』の取材で訪れた東映京都撮影所周辺散歩を、ちゃんと美味しい匂いで締めくくることができて、満足、満足!

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