アフリカではいま、ドローンが新型コロナウイルスの検査サンプルを運んでいる

世界初のドローン医療スタートアップ、Zipline。東アフリカのルワンダで約4年にわたって血液サンプルを輸送してきた同社のドローンは、新型コロナウイルスのパンデミックとなったいま、アフリカや米国で新型コロナウイルス対策に必要な血液サンプルや医療物資を運んでいる。

Zipline uses drones to carry coronavirus tests

PHOTOGRAPH BY SELASE/ZIPLINE

新型コロナウイルスの感染拡大によって、世界の航空システムの大部分が止まってしまった。航空旅客の需要が激減したせいで飛行機が地上に並び、航空会社の収益は大損害を受け、航空機の生産ラインもストップしている。

これに対してガーナでは、新型コロナウイルスの感染拡大を食い止めるために新しい“航空機”が飛び立っている。新型コロナウイルスの検査サンプルを、1,000カ所以上の医療施設から首都アクラや同国第二の都市クマシの研究所へと運ぶ、米国のスタートアップZiplineの小型ドローンだ。

人が介在しない輸送システムの強み

パンデミックは多くの企業を“コンフォートゾーン”から追い出した。自動車メーカーは人工呼吸器を製造し、旅客機は貨物を運んでいるのだ。

しかし、Ziplineの場合は、この危機によって自社の強みを生かせるのだと、同社の最高経営責任者(CEO)ケラー・リナウドは言う。ルワンダで輸血用の血液を運ぶために16年に運用が始まった同社のサーヴィスは、インフラもほとんど必要なく、人対人の接触も最小限で済む。

「人間が介在しない配達システムが、突然これほど重視されるようになった理由は明確でしょう」とリナウドは言う。Ziplineのシステムに滑走路は必要ない。配送センターからカタパルトを使ってドローンを発射しているからだ。

同社の配送センターは、北はブルキナファソとの国境から南は大西洋岸まで、ガーナ全国に4カ所ある。各センターには運転や組み立て、修理、保管のための輸送コンテナがいくつか置かれている。オペレーター(操縦者)が機体腹部に重量4ポンド(約1.8キロ)以下の積み荷と新しいバッテリーパックを載せたら、そのまま離陸だ。

翼幅約3.3mの翼をもつ発泡フォーム製のドローンは、いったん離陸すると時速約100kmで空を飛ぶ。飛行可能距離は100マイル(約160km)だ。目的地に到着すると、ドローンは高度約12mまで下降し、クルマの駐車スペース2台分ほどの広さの落下ゾーンを目がけてパッケージを投下する。パッケージには紙製のパラシュートが装着されているので、落下速度はゆるやかだ。

その後ドローンは基地に戻る。機体後部の小さなフックを、ふたつのA字形フレームの間にかけられたナイロンコードに引っ掛け、バンジージャンプのように着陸するのだ。

ガーナでは、新型コロナウイルスの検査サンプルが、地方の医療施設から配送センターに送られている。Ziplineは4月17日、首都アクラに向けて4回のフライトを実施し、計51の検査サンプルを配送した。各行程の所要時間は1時間弱だ。さらに4月18日には、ガーナ第二の都市クマシに向けたサーヴィスも始まった。リナウドによれば、同社は現在、毎日必要なだけのサンプルを搬送できるようサーヴィスを拡大中という。

検査サンプルのほかにも、Ziplineは未使用の検査キットや手袋、マスクなどの防護用品、ワクチンやがんの薬といったものをドローンで運んでいる。リナウドいわく、これは住民が病院に行かずとも必要なものを簡単に手に入れられるようにするためだ。

住民が病院に行くと、新型コロナウイルス感染の危険に晒される。こうして感染者が増えると、不足しがちなリソースを圧迫する恐れがあるのだ。なおZiplineは、ルワンダでも同様のサーヴィスを展開している。

母国の米国でも運用開始

リナウドは何年も前から、米国の領空でZiplineのドローンを飛ばす許可を求めてきたが、パンデミックがその可能性を開いてくれそうだ。同社はノースカロライナ州でもガーナと同じように、新型コロナウイルスの検査サンプルや個人用防護具(PPE)の輸送、そして病院に近づきたくない人向けの医薬品配送ができるとリナウドは考えている[編註:Ziplineは5月末にノースカロライナ州での運用を始めている]。

ノースカロライナでは、過去にもこうした取り組みがあった。同州運輸局は19年から、ドローン企業のMatternetと運送会社のUPSと手を組み、州都ローリーのウェイクメッド病院とその周辺施設間で輸血用の血液を運んだ。このときは、4つの回転翼をもつクワッドコプターを使うことで、クルマなら30分かかる距離を3分のフライトで運べるようになったという。

関連記事ドローンを使った医療検体の輸送、米国初の商用サーヴィスが開始

Ziplineもまた、同様の強みを発揮できるはずだ。「わたしたちのサーヴィスの価値は、スピード、低コスト、そして信頼です」と、リナウドは言う。

ドローンを使った輸送なら、交通状況を心配したり、人間のドライヴァーを見つけたり、車両を確保したりする必要がないと、ノースカロライナ州運輸局でドローン・プログラムを運営するベイジル・ヤップは説明する。「どんな地上の輸送サーヴィスよりも、空を使うほうが速いですから」

ノースカロライナ州運輸局とZiplineは、もともとこの秋にも配達プログラムを開始する計画だったが、パンデミックのために開始が前倒しとなった。ヤップは言う。「現行の医療物流システムの負担を軽減できるものなら、どんなことでも助けになるでしょう」

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パンデミックの時代、ゲーム業界では名作のリメイクが求められている

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TEXT BY JULIE MUNCY
TRANSLATION BY NORIKO ISHIGAKI

WIRED(US)

Tony Hawk's Pro Skater

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ここでやはり、重要な点に触れないわけにはいかない。新型コロナウイルスのパンデミックである。いつ終わるとも知れない自己隔離や自宅待機が続き、誰にとっても状況は厳しくなっていく。

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パンデミックの影響で悪化した経済は、今後数年にわたりゲーム業界にもさらなる影響をもたらすだろう。今年、開発や流通を巡る技術的な問題によりリリースを中止したり、企画自体がストップしたりしたゲームは、この先も長く連鎖する影響を及ぼすことになる。そうなれば、少なくとも当面は一から新しいゲームをつくるよりも、既存のゲームに手を加えて新装版にするほうが実現可能な選択肢となることは、想像に難くない。

過去への再訪にも意義はある

世界全体が集合的なトラウマと向き合っていくにあたり、ゲーム業界もリスクのある題材を避け、できるだけ安全策をとると考えられる。かつてのヒット作を再生することがいちばん安全に思える場合はあるだろう。

確かにしばらくはそれもいい。しかし、新たなゲームプレイやグラフィックで昔のゲームをアップデートさせることに焦点を当てていれば、本当の意味で新しいものを創造するよりも、繰り返し使い回していくことを重視する時代におのずとなってゆくのではないか。

結局のところ、リメイクは人をほっとさせる懐かしい食べもののようなものだ。そして困難に直面した人が求めるのは、まさにそれなのである。

懐かしく心地いい食べものも、ノスタルジーも、一概に悪いわけではない。過去への再訪も意義のある企画になりうる。「ファイナルファンタジーVII リメイク」のように、しかるべき手を加えれば可能なのだ。同作は過去の技を発掘する一方で、それを評価し直し、そこから新たな意味をつくりだすことに成功している。

それでも、これから待ち受ける厳しい数年のあいだ、ゲーム制作を取り巻く経済的事情から、新しい大胆なオリジナル作品をつくろうとする試みがあまり評価されなくなるかもしれないのは、少し残念でもある。歴史の流れにおいて現時点ではすべてがそうだが、未来は不透明だ。しかし、リメイクに慰めを見出す人にとって風向きはいいのかもしれない。リメイク作品は当面まだまだ出てきそうだ。

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