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バブル崩壊は大手行直撃
コロナは地方銀行に打撃
コロナショックの打撃は外出自粛などの影響を受けた飲食や宿泊、娯楽などの全国津々浦々の中小企業に及ぶ。金融機関への影響もこうした中小企業との取引が大半を占める地方金融機関に強く出そうだ。
バブル崩壊の時は大手銀行が打撃を受け、再編や業態転換が進んだが、コロナショックは、20年近くのタイムラグをもって地方銀行に経営統合などの動きを促す可能性がある。
大手23行の名前は全て変わった
長期信用銀行は消滅
筆者は今から38年前の1982年に当時の日本興業銀行(現みずほ銀行)に就職した。1980年代、大手銀行は世の中で最も安定した就職先として見られていた。
当時、都市銀行は13行、長期信用銀行3行、信託銀行7行を合わせ23行の大手銀行が存在した(図表1)。それから40年余り、当時の大手銀行でそのままの名前をとどめる銀行は1行もない。
最近の若い世代には、もうその名前さえ知らない人も多いのではないか。筆者が就職した興銀は、金融債を発行して産業金融を担ってきたが、長期信用銀行という業態さえも存在しない状況になった。
一方、地方銀行は、相互銀行だった第二地銀では比較的変化はあったものの、第一地銀については38年前と比べてほとんど当時から名前は変わらないままだ。せいぜい最近、いくつかの提携がある程度だ。
過去30年の地殻変動は大手銀行中心だったが、今回のコロナショックでは地域金融機関にその影響が波及する連鎖が起きやすく、今や、20年近くのタイムラグをもって地方銀行にも再編の動きが起きやすくなってきた可能性がある。
折しも5月20日には独禁法の適用除外を認める特例法が国会で成立し、地域での貸し出しシェアが高くても地方銀行の経営統合が特例的に認められることになった。このことも今後の地方銀行の地殻変動を示唆しているように思える。
資産デフレの直撃を受けた大手
償却負担軽くて済んだ地銀
大手銀行23行の再編のきっかけは1990年代以降のバブル崩壊だった。
地価や株価が急落、大規模な資産デフレに伴う巨額の不良債権が収益を圧迫、多くの銀行が資本不足に陥ったことが直接の引き金だったが、80年代以降、金融自由化が進み、市場で資金を調達し運用するようになったことによる不安定性も増していた。
なかでも長期信用銀行は、資金調達を市場で発行する金融債に依存していたため、調達に不安定さがあり、当時は金利コストが上昇したり流動性不足に陥ったりして、2行が経営破綻し、興銀も富士銀行、第一勧業銀行との経営統合で預金という安定した調達手段を持つ商業銀行への業態転換という選択肢を取らざるを得なかった。
バブル崩壊の打撃が大手金融機関の経営問題につながったのは、大きく4つの要因があったと振り返ることができる。
第1は、バブル期に大手銀行中心に大都市圏の再開発案件など、建設・不動産・大手流通のいわゆる「バブル3業種」への貸し出しが拡大したことだ。
第2に、不良債権の処理で大手銀行中心とした主力金融機関に負担が集まりやすい金融慣行があったこと。第3に大手銀行の預貸比率が100%を超える「ローン行」(貸し出しが預金を上回る)状態で、都市銀行なども短期市場での資金調達に依存する構造だったことだ。
そして第4に、持ち合いを含めた株式の保有の割合が大きかったことだ。
大手銀行はさながら、日本経済全体を反映した「インデックスファンド」のようなものだった。不良債権問題で信用に不安が生じると市場性資金の調達に制約が生じ、流動性不安という危機的状況になりやすかった。
これに対してバブル崩壊の地方銀行の経営への負担が比較的小さかったのは、大手銀行と比べると、上記の4つの要因が少なかったり逆だったりしたことがある。
バブル期は東京を中心とした大都市圏での貸し出しが中心であり、地方でのバブル3業種に対する貸し出しは限定された。もちろん、東京以外での主要都市での不動産高騰は起きたが東京圏ほどの規模ではなかった。
不良債権の処理では、メイン寄せといわれる主力銀行や大手銀行中心の償却負担に助けられていた面が大きかった。また地域金融機関はそもそも預貸比率が100%を下回る「マネー行」(預金が貸し出しを上回る)の状況だったから、資金繰りの問題が大手行に比べて起きにくかった。
株式の保有の比率も大手行に比べると低かったから資産デフレの影響を受けにくかったことがある。
異なるバランスシート調整
「売り上げ消失」で資本減
今回のコロナショックの打撃はどうか。下の図表は、バブル崩壊とコロナショックの影響などを比較したものだ。
バブル崩壊では不動産を中心とした資産デフレの影響がいわゆる「バブル3業種」を中心に大手金融機関の問題になった。
これに対しコロナショックは外出や営業自粛による経済活動の停止に伴う、飲食・小売・観光を中心とした中小企業の経営問題だ。
これまでの日本の危機はマクロ経済の状況の激変で大企業が相対的に大きな影響を受けるものだったが、今回は主に中小企業が打撃を受ける新たな形態だ。
中小企業の「コロナ7業種」問題
取引先が多い地方銀行に影響
コロナショックに対して売り上げ減少や資金繰りの脆弱性が強い業種として、財務状況から7業種、いわば「コロナ7業種」を抽出した。
それらは、(1)陸運業、(2)小売業、(3)宿泊業、(4)飲食サービス業、(5)生活関連サービス業、(6)娯楽業、(7)医療福祉、で、いずれも「face to face」の身近な生活関連産業であり、中小企業を中心に活動は全国津々浦々に及ぶ。
損益計算書上の損失から資本勘定の毀損(きそん)につながる要因としては、バブル崩壊時のように資産価格下落に伴う資本の減少よりも、売り上げ低下が長く続くなど時間経過に伴う影響を受けやすく、その結果、資金繰りに窮する破綻リスクが高くなる。
以上の状況を考えると、コロナショックの金融機関への影響は比較的、地方銀行などの地域金融機関に影響が及びやすい点に留意する必要がある。
その要因は以下の3点にある。
第1に、大手行はバブル崩壊後すでに大きな再編やリストラを済ませており、加えてリーマンショック後のグローバルな金融規制の影響を受けて資本の厚みが大きいのに対して、地域金融機関は体質強化が遅れていることがある。
第2に、コロナショックの影響を受けやすい飲食・宿泊などの「コロナ7業種」は地域金融機関の取引先に多いことだ。
第3に、地方銀行は国内の預貸収益の依存が高く、コロナショックの以前からマイナス金利などの超低利が長く続く影響を経営上も受けやすかったことがある。
コロナ以前から“構造不況”
特例法も再編活発化の要因に
今回、コロナショックに伴う信用コストの上昇の影響が地域金融機関中心に生じやすいだけに、コロナ危機を契機として地方銀行に再編も含めた経営改革の動きが起きやすい状況だ。
もともとコロナショック以前から、国内中心の預貸ビジネスの限界から地方銀行が構造不況に陥っている可能性が指摘されていた。
企業が資金余剰主体になって預貸ビジネスだけでは経営が先細りになる上、超低金利環境が続くなかで利ざやが縮小する厳しい収益環境にあった。
もちろん、コロナショックに伴いリーマンショック後と同様に一時的な貸し出しニーズが高まっているが、それが持続的なものとはなりにくい。
これに対して大手銀行の収益構造は、海外比率が比較的に高く、国内預貸ビジネスの度合いが低いこと、さらに預貸ビジネス以外の手数料ビジネスや関連分野での収益が増え、収益機会の多様化が進んでいる。
地方銀行の今後を考えると、コロナ対応だけでなく、構造不況の側面に対処して聖域なきリストラの観点から、コスト経費の見直しのためにも再編や異業種も含めた連携など、従来にはない発想での選択が必要になってくるだろう。
もちろん、合併も含めた再編だけで全ての問題が解決される状況にはない。いかに地域金融の中核という地域に必要なインフラ機能を維持するかという問題もあり、経営の独自性は維持したまま新たな連携で機能を充実させていくという発想も必要だ。
ただ信用金庫や信用組合のように上部団体がないなかで、こうした取り組みを個別行だけで行うことにはどうしても限界があり、今後、再編や連携の動きは活発化するだろう。
その意味でも独禁法の適用除外の特例法の成立は時代の潮流の大きな節目を示唆するものだ。
(岡三証券グローバルリサーチセンター理事長 高田 創)
※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら