特別企画
TFの玩具を30年以上作ってきた國弘高史さんを直撃取材

“トランスフォーマーの神様”が語り尽くす! 変形ロボット開発秘話[第3回]

本企画は、タカラトミーが手がける「トランスフォーマー」(TF)の変形ロボットの魅力に迫る短期連載特集。変形ロボットを30年以上作り続けてきた、同社ボーイズ事業部の國弘高史さんに話を聞き、全3回にわたってお届けする。今回が最終章!

【目次】
第1回 TFトイ初期の苦労と“リベンジオプティマス”
第2回 TFの変形ロボットの作り方
第3回 國弘さんが選ぶ「お気に入り5選」

株式会社タカラトミー
ボーイズ事業部 シニアスペシャリスト
國弘高史さん
【PROFILE】
1960年生まれ。1984年にタカラ(現タカラトミー)に入社。1985年から現在まで、トランスフォーマーをメインに30年以上にわたって変形玩具を作り続けてきた。ファンの間で不屈の名作とされる、2009年公開の映画第2弾「トランスフォーマー/リベンジ」版の変形ロボ「オプティマスプライム」(「RA-01オプティマスプライム」)をデザインしたことでも有名

第3回 國弘さんが選ぶ「お気に入り5選」

今まで作ったTFの変形ロボットは400個くらい

――國弘さん、これまで何個の変形ロボットをデザインされてるんですか。

國弘 それが、自分でもわからないんですよね。2014年に横浜で「トランスフォーマー博」が開催されたじゃないですか。あそこで飾ってあるのを数えてみたんですよ。「自分が作ったのは、これとこれと……」って。その時が300個ぐらいやったから、今は400個ぐらいかな。もともと私が会社に入った次の年ぐらいに、「トランスフォーマー」のアニメ作品が始まったんですね。それで、入社2年目ぐらいから「トランスフォーマー」の制作チームに入って。

――1985年にスタートしたアニメ作品「戦え!超ロボット生命体トランスフォーマー」が放送されてる頃ですね。

國弘 その頃はイケイケで、スタッフは結構人数がいたんですけど、人気が少し落ちてきた時は、2~3人になった時もありましたね。そういう時は、ロボットアニメ「勇者シリーズ」の玩具を作ってました。シリーズ1作目の「勇者エクスカイザー」(1990~1991年放送)で「ゴッドマックス」を担当して……。それ以降、2作目の「太陽の勇者ファイバード」(1991~1992年放送)から、8作目の「勇者王ガオガイガー」(1997~1998年放送)まで、主人公機は全部担当しましたね。
1998年に「勇者シリーズ」が終わって、どうしようかなって言ってる時に「ビーストウォーズ 超生命体トランスフォーマー」(1997~1998年放送)のアニメがヒットして、玩具もすごい人気になってるから手伝うことなって。「ビーストウォーズネオ 超生命体トランスフォーマー」(1999年放送)ぐらいから、また「トランスフォーマー」に本格的に戻ったんです。それ以降はずっと、「トランスフォーマー」を作り続けていますね。

――すでに30年以上、変形ロボットのデザインに関わり続けている、まさに“変形職人”ですね。

國弘 そうですね。「トランスフォーマー」がなくなったら、会社で何したらいいんやみたいな(笑)。

――ではここからは、これまでデザインされてきた「トランスフォーマー」の変形ロボットの中から、國弘さんが特に気に入ってる製品を時系列に紹介していただこうと思っています。

國弘 いくつかパッと思い浮かんだものを持ってきました。

これまで手がけてきた300個以上の「トランスフォーマー」の変形ロボットの中から、特にお気に入りの製品を変形させながら説明する國弘さん

●國弘さんのお気に入りTFトイ 1
「C-78 ホットロディマス」
1987年4月発売

足と足の間にスペースを作りつつ、強度を確保

足と足の間にスペースを作りつつ、強度を確保

――これはかなり初期の製品ですね。

國弘 入社2年目ぐらいの頃に、主役っぽいキャラクターを1番最初に担当したのがこれですね。「トランスフォーマー」は、もともと「ミクロマン」や「ダイアクロン」から始まっているから、「ビークル」と「ロボット」のデザインはどちらも開発者自身が作ってたんです。でもこの時はアニメ映画「トランスフォーマー ザ・ムービー」(1986年公開)が先にあって、始めからキャラクターありきだったんです。

――実写版映画の変形フィギュア「ムービーシリーズ」の先駆けみたいな形ですね。

國弘 そういうものが初めてだったから、いろいろ制約があって厳しかったですね。これを作った当時は、とにかく強度を上げることをうるさく言われてた時期で、ロボットのほとんどは左右の足がつながっていたんですね。

――足の間に隙間があると、割れやすくなってしまうと。

國弘 それを何とか外したいなと思って。プロポーションを保って、2本の足が分かれているけれど強度が出るように考えたんです。足が開くのは、斜めのレールを搭載しているからです。それは結構簡単なんですけど、壊れないぐらいの強度を出すというのが難しかったですね。今見ると可動も少ないんですけど、当時としては斬新なことをやった製品です。

●國弘さんのお気に入りTFトイ 2
「ビーストマシーンズ ナイトバイパー」
日本未発売

「コブラ」モードからアッと驚く変形!

「コブラ」モードからアッと驚く変形!

國弘 これは「ナイトバイパー」という海外で発売された製品なんですけど、コブラ型の「トランスフォーマー」ですね。この前に「コラーダ」(「ビーストウォーズ C-30コラーダ」)というメキシコのガンマンみたいなプロポーションのものを作ったことがあったので、別のまったく違うものができないかなと考えて作ったのがこれなんですよ。変わった変形パターンがうまくできたので気に入ってるんです。蛇からロボットに変形するんですけど……。

「コブラ」の頭が後部に移動して、ボディが割れて腕が出現

「コブラ」の頭が後部に移動して、ボディが割れて腕が出現

――あれ? 足がないですよね。

國弘 これはね。こうすると……。

何と尻尾が足に!

何と尻尾が足に!

変形完了!

変形完了!

―――おおーっ!

國弘 ね、面白いでしょ。これは割と気に入っていますね。驚きのある変形。変形ロボやから、やっぱり変形が楽しいといいじゃないですか。

――こういう変形ギミックは、どのようにして考えるんですか?

國弘 メンバーそれぞれバラバラだと思うんですけど、私の場合はお題が来たら、しばらく席に座って資料をにらみつけているんですよ。で、何ができるんやろうと考えるんです。出る時はポッと出るんですけど、何も出てこない時は数日間何も出てこない。社内をプラプラうろついては、また資料をにらみつけてってことをしてると、ふと何かしら思いつくんですよね。

――ちょっと凡人には理解不能ですが(笑)、何かが降りてくるのをひたすら待つスタイルってことですね。

國弘 そうですね。で、思いついたら、そこからラフな絵を描いて、ほんまにできるか考えていく。「こうしたら面白いかなあ」とか「シンプル過ぎるかな」とか。で、飽きたらそこら辺にある玩具を、またいじったりしてね。

●國弘さんのお気に入りTFトイ 3
「変形!ヘンケイ!トランスフォーマー D-07 サイクロナス」
2009年1月発売

長い機首が特徴の戦闘機(右)から、抜群のプロポーションのロボット(左)に変形!

長い機首が特徴の戦闘機(右)から、抜群のプロポーションのロボット(左)に変形!

國弘 「ホットロディマス」を作ったのと同じ頃、「サイクロナス」という製品が発売されました。これは当時、新人の私についた指導員の人が作ってたんですね。それを数十年後に自分がリメイクすることになった。あの時、できなかったことができるかなって感じで。これもスレンダーなフォルムを再現しようと思って。そこで、以前のものでは背中側に折りたたんでいた機首を完全に見えなくしたんです。

――機首はどこに入るんですか。

國弘 ボディの中に入るんです。

――わっ、すごいですね! きれいになくなった。

國弘 とにかくこの部分だけをまとめてから周りを作りましたね。

――その過程は珍しいんですか。

國弘 どこがキモなのかを見つけるのは大事ですね。どこを乗り越えれば大体まとまるなというのはよく考えます。特にこれ、機首が長い戦闘機なんですけど、ロボットになった時に、この機首がそのまま背中に付いてると、何となくガクッて悲しくなるじゃないですか。だからそこをまず、何とかしようと思ったんですよね。

●國弘さんのお気に入りTFトイ 4
「AM-14 ディセプティコンビーコン」
2012年6月発売

ロボット変形時に、ビークルモード時のボディを見事に収納した名作

ロボット変形時に、ビークルモード時のボディを見事に収納した名作

――2012年に放映がスタートしたアニメ「超ロボット生命体 トランスフォーマー プライム」に出てくるザコキャラ「ビーコン」ですね。

國弘 これが出るほんの少し前に、「ファーストエディション」(「ファーストエディション ディセプティコンビーコン」)というのがアニメ開始前にティザー的に発売されているんです。それが発売されてすぐに、新規の「ビーコン」を少し小型の「デラックスクラス」で作るという話が回ってきたんですね。どうしようと思って。「ファーストエディション」よりも低価格にしなくてはならないから、普通だったらその分、簡略化されるわけだし。そもそも「ビーコン」は、量産型のザコキャラやから「ファーストエディション」を買ってくれた人は買う理由がないじゃないですか。でも、せっかく世の中に送り出すんだから、楽しんでほしいし手にとってほしい。じゃあ、「ファーストエディション」よりもっと似せることはできないかと考えた。
資料を見ていると、「ビーコン」は独特のプロポーションなんですよね。これは僕が勝手に言ってたんですけど、「エヴァンゲリオン」のような細いロボットにでかい長靴を履かせたようなスタイルだと。じゃあ、上半身をめっちゃスレンダーにしつつ、余ったものを全部足の内部にぶち込もうとやってみた。

※下記写真は、「AM-14 ディセプティコンビーコン」とデザインや変形機構は同じだが、シルバーカラーの「TAV28 グランドビーコンジェネラル」(2015年発売)を使用

「ビークル」のボディをパタパタと折りたたんで、すね部分に収納!

「ビークル」のボディをパタパタと折りたたんで、すね部分に収納!

――そうしたら、この「ビークル」の外装をパタパタとたたむ独特の変形様式が生まれたわけですね。こんな風にアッと驚かせる斬新な変形ギミックを取り入れた製品が唐突に登場するのも、「トランスフォーマー」の変形ロボットの面白いところですよね。

國弘 たまたまクルマがカクカクしたボディだったから、ボディを小さく折りたためたんです。丸いボディだと、そってしまったり、隙間ができたりしてしまう。偶然こういうプロポーションやったから、この変形スタイルが実現したんです。

●國弘さんのお気に入りTFトイ 5]
「MPM-5 ディセプティコンバリケード」
2018年4月発売

2018年に発売になった最高峰ブランド「マスターピース」の最新作。腕のボリュームが「バリケード」らしさを演出している

國弘 これも以前に、「ヒューマンアライアンス」(映画の人気トランスフォーマーの変形フィギュアと人間キャラクターをセットにしたシリーズ)というシリーズで発売されているんですけど、またさらに作るってことで。それなりのものを作らないといけないですからね(笑)。

――「ヒューマンアライアンス」は、今でもプレミア価格で取り引きされている人気のシリーズだから、身内にすでに手強いライバルがいる状態というか。

國弘 「ヒューマンアライアンス」版は、別の人が作ったんですけど、自分的にディテールの完全再現はできないけど、腕がやたら長い雰囲気は似せたいなと思って作ったんです。まあ何とかまとまったかなと思うんですけど。

――うまく表現されていますよね。「バリケード」らしさが出てるというか。

國弘 あとは細かいところですが、「ヒューマンアライアンス」ではできてなかったけど、タイヤのゴムの部分が劇中シーンと同じように割れるぞ、とか。「ヒューマンアライアンス」版は変形していたから武器は小さかったけど、こちらは「マスターピース」ブランドなので、別で付属できるから大きいぞ、とか。

――わはは。思った以上に「ヒューマンアライアンス」版をライバル視してますね(笑)。

國弘 そうそう(笑)。でも、そういうことですよね。同じもんをもう1回作っても仕方がないからね。「前はああやったな」というところを、フォローするみたいな感じですね。

映画第1作に登場する巨大な武器を再現!

映画第1作に登場する巨大な武器を再現!

――確かに付属武器は、サイズがめちゃくちゃ大きいですよね。

國弘 「トランスフォーマー」は、できるだけ「ビークルモード」になった時に、武器を付けるようにするじゃないですか。でもこれはあきらめました。付けるとカッコ悪いんですよ。大き過ぎて。あとこれ、危ないので軟質パーツを採用したんですけど、そのまま置いておくと自重で曲がってしまうから台を付けたんです。

――あっ、このディスプレイスタンドはそのためだったんですね(笑)。

武器用のディスプレイスタンドが付属。形状を維持するためだとは知らなかった!

武器用のディスプレイスタンドが付属。形状を維持するためだとは知らなかった!

――いろいろと見させていただきましたが、どれも独特なアイデアが詰まってますね。もう1度作ってみたいキャラクターはあったりしますか。

國弘 もう1度っていうと、どうでしょうね。でも、何といってもお子様向けやし、価格というものも決まってるから、全部盛り込める製品はないんですよ。できるだけアイデアを入れて、その中でいかにバランスを取れたかということやと思うんです。そう考えると、まあ、どっさりありますね(笑)。たとえば、細かい話になってきますけど、「勇者シリーズ」の「DXマイトガイン」は肩のジョイントが外れやすかったな~、とかってね(笑)。そういうことがあったら、「次からは気をつけよう」「丈夫な機構を考えよう」と思うようにはしています。

――ベストワンをあげるとすると?

國弘 もちろん“「リベンジ」版オプティマス”もそうですし、最近だと「ブラックアウト」もよかったかなと思っています。でもやっぱりベストワンは……無理! 選べないですね(笑)。 

――ちなみに、國弘さん自身が今後チャレンジしたいキャラクターはありますか。

國弘 かなり作ったからな~。依頼が来たら何でもやるよってスタンスですね。でも、まだ秘密なんですが、今かなりチャレンジングなプロジェクトを進めている最中なので、まずはそれをまとめようと思っています。2019年春にはシリーズの新作映画「バンブルビー」も公開されるし、玩具もいろいろ発売していくので、引き続きご期待いただきたいなと。あと、2019年は35周年なのでプロモーションもいろいろと準備していますので楽しみにしていてほしいですね!

河上拓

河上拓

「日経エンタテインメント!」から「月刊ムー」まで、エンタメやホビーを中心に幅広く活躍するマルチライター。トランスフォーマーなどの変形玩具、海外ボードゲームに詳しい。

記事で紹介した製品・サービスなどの詳細をチェック
関連記事
ページトップへ戻る