「鬼滅の刃」プロも説明に困る人気ぶり 世代間のギャップも

アニメ「鬼滅の刃」公式サイト

 累計発行部数が6000万部を誇る人気マンガ「鬼滅(きめつ)の刃(やいば)」。人気を受けて、ヒットの理由を分析する記事も多く見かけます。ただアニメ化で人気になるのは当然で、異常ともいえる短期間の爆発的な普及の理由は、つかみ切れていません。そこでアニメやマンガの業界関係者に片っ端から聞き、考察してみました。

◇コミックス“完売” 予測上回る人気

 鬼滅の刃は、「週刊少年ジャンプ」(集英社)で2016年から連載している、吾峠呼世晴(ごとうげ・こよはる)さんのマンガで、「鬼」を「滅」ぼす「刃」を振るう少年の物語ですね。人を食う鬼を倒す「鬼殺隊」になった竈門炭治郎(かまど・たんじろう)が、鬼になった妹を元に戻そうと奮闘、次々と鬼を倒す……という内容です。

 2019年4~9月にテレビアニメが放送され、アニメが終了した1カ月後の11月ごろには、コミックスが書店から消える現象が起きました。アニメ化作品を数えきれないほど世に送り出し、コミックスの豊富な販売経験を持つ集英社の予測を上回ったことが、この事実から分かります。とは言え前代未聞というわけではなく、「ワンピース」や「デスノート」の話題になったころの瞬間的な売れ行きも相当なものでした。

 そして「鬼滅の刃」の人気が、アニメを起点にしていることに異論はないですよね。ただし、他にも優れたアニメがある中で、これだけのブレークをしたのはなぜでしょうか。理由について、業界関係者に聞くと「正直に言えば、分析できない」という声が続出したのです。原作マンガについて、同タイプの先駆作品を挙げながら辛口の考察をするだけの知識のある人でも、迷いの言葉を口にするのです。

◇天の時、地の利、人の和

 それでも取材を重ねると、その道のプロだけに、さまざまな考察がありました。

 アニメ制作を手掛けたufotable(ユーフォーテーブル)が、アニメ「空の境界」や「Fate」シリーズなど剣劇アクションの描写に長けており、さらに「鬼滅の刃」の和風と剣の世界にフィットしたという意見です。要は作品と制作スタジオの相性が良かったというものです。

 また「マンガとアニメのギャップ」が良かったという声もありました。原作マンガとアニメの取り合わせが良いからアニメにしやすく、かつ画が映える……というものですね。

 さらに、アニメの展開が、他のアニメに比べて極めてスピーディーで、今の若い子たちに合っているのでは……という意見もありました。出来の良さは一目瞭然で、まるでミュージックビデオみたい……という人もいました。

 あとはコミックスの売れ行きについて、ユニークなのは「応援効果」という考察でした。アニメの出来が良く、コミックスの売り上げが普通でギャップがある場合「我々(熱烈なファン)が作品を推す。そのためにコミックスを買って応援する」というものです。“推し”のアイドルを応援するイメージに近いといわれたら、「なるほど」と思います。

 そして、同作のプロデューサーの一人・高橋祐馬さんの名を挙げて「ヒットは制作の力と思いたい」と言う関係者もいました。ヒットの理由に監督ではなく、プロデューサーを出すのはあまりありませんが、私もその点は同意です。高橋さんは、宣伝担当として多くの作品のヒットにかかわり、アニメ業界で彼の名を知らない人はいません。着眼点も鋭く、一言で言えば「切れ者」です。アニメは一人で作るものではありませんが、ライバル会社にそう言わせること自体、なかなか重みがあるといえます。

 どれも納得のいく意見ですが、ただ出来が抜群のアニメがでも、必ずしも人気にならないのも、また事実です。大物クリエーター、人気声優を集めた鳴り物入りのアニメが、盛り上がらずに終わるのは珍しくありません。だからこそアニメにかかわる人たちは、作品作りに苦労するわけですが……。

 いずれにせよ「鬼滅の刃」がこれだけ売れたことは、誰もが認める事実です。それは、アニメ自体の出来の良さ、放送のタイミング、視聴者の求めるものを提示したなどの条件がそろったからで間違いないでしょう。「天の時、地の利、人の和」ということですね。

◇若い世代の動向は 世代のギャップも

 「鬼滅の刃」のコミックスの売れ行きを見るとき、累計発行部数でなく「コミックス1巻あたりの発行部数」で見るほうが、爆発力のすさまじさが分かります。

 2019年4月のアニメの放送開始直後は、コミックス1巻あたりの発行部数が平均約33万部(累計発行部数500万部)でした。2019年12月アニメ放送終了2カ月後(品薄状態)には平均約139万部(計2500万部)。そして今月の20巻発売時点では平均300万部(計6000万部)ですね。アニメ化でファンが増えるといっても、視聴率がない深夜アニメで、これだけのファンを捕まえるのは異様です。この短期での異様な爆発力は、ネットの拡散力そのものです。

 ここで気になるのが、そもそも今の10代の子供たちがどう見ているかです。そこで小学生と中学生、高校生の約10人に「鬼滅の刃」について、質問攻めにしてみました。

 予想通り「鬼滅の刃」の認知度は抜群で、質問した全員が「知っている」と答えました。どの子も「クラスの8割以上は知っている」という感じで、人気は男女を問いません。見たきっかけはアニメ派が圧倒的で「友達や兄弟に勧められた」というものが多く、かつ「アマゾンプライム」などサブスクの利用者ばかりでした。深夜アニメを生で見るのは厳しいので、お手軽という意味で納得できるところです。

 さらに驚いたのが「原作マンガは、連載誌でなくコミックス」という考えだったことです。連載誌であり、業界ナンバーワンの「週刊少年ジャンプ」で、連載をリアルタイムに追う気はないようで、「情報通の友達から教えてもらう」という感じでした。

 日本雑誌協会の「印刷部数公表」によると、週刊少年ジャンプの2019年1~3月(アニメ「鬼滅の刃」放送開始前)は約169万部。2019年10~12月(アニメ終了後)は約160万部でした。あれだけコミックス購入者が増えたにもかかわらず、連載誌の部数は減っているのです。

 子供時代にマンガ誌にどっぷりつかった30~40代の世代からすると、ジャンプの影響力は圧倒的でしたから、この肌感覚の違いは驚きました。情報の収集は、ネットを活用してはいるものの、バイラル(口コミ)が主力のようです。「鬼滅の刃」のネット記事も追っていましたが、そこまでシビアに調べるわけでもなさそうです。親子で楽しく話すという家庭もありました。中には、学校でアニメを話題にできないし作品を見たことはないけれど、学校外では友達から炭治郎の話が出るし、アニメの主題歌を歌えるという子もいました。

 若い世代で「鬼滅の刃」は“共通言語”にはなっているものの、個々の温度差が相当あるようです。マンガやアニメを追わずとも、みんなが話題にするから、情報は簡単に入ります。つまり、世代間のギャップはもちろん、動機などのバリエーションが多彩で考慮すべき要素が多く複雑です。分析が困難なのも仕方ないでしょう。

◇アニメはマンガの上位互換

 現在、アニメはマンガよりリッチな表現が楽しめる“格上”のコンテンツとして捉える「アニメはマンガの上位互換」という考えが浸透しつつあります。この考えの賛否はさておき、画が動き、声も付くのに無料で視聴できるアニメは、気軽に手に取りやすく歓迎されます。逆に言えば、お気に入りのアニメのコミックスは買ってくれても、連載するマンガ誌の購入につながらないのは、時代背景と無料コンテンツの強さを考えると仕方ないところです。

 ただ時代の追い風があるからといって、アニメ業界の未来が明るい……と言い切れないところに難しさがあります。アニメは、参入作品(ライバル)も多く、ヒットを当ててもゲームのような巨額のリターンがあるわけではありません。「鬼滅の刃」のゲーム化は発表済みですが、今なら爆発的に売れるのに開発に時間がかかります。そしてコミックスは飛ぶように売れても、その利益は出版社のものです。

 ビジネスとして見た場合、せっかくのヒットがあっても、肝心のアニメ会社にカネが落ちづらい構造があります。アニプレックスの場合、ソニーの決算で話題なるときは、本業のアニメでなく、ゲーム「Fate/Grand Order」だったりするわけです。今後ソニーの決算に「10月公開の劇場版アニメが大ヒットして……」と書かせるだけの収益を上げてほしいところです。

 そして「鬼滅の刃」の驚異的ヒットを見て、各社とも研究・対策をしてくるはずです。放送・配信チャンネルの増加、アニメ以外のコンテンツを増やすのは当然ですね。その結果としてアニメコンテンツの競争は激化し、ヒットの理由はより分かりづらくなるのではないでしょうか。

 それでも次の社会的ヒットをするアニメは、いつかは生まれてきます。ヒットが理由にしづらい人気アニメが続々と登場し、その時に初めて「この転換期は『鬼滅の刃』だった」となるのかもしれません。

ゲームを愛するものの、ゲームには愛されないヘタレなゲーマー。ゲーム好きが高じて、記者として兜倶楽部にも出入りし、決算やメーカーの各発表会、PS3の米国発表会、中古ゲーム訴訟、残虐ゲーム問題など約20年...もっと見る間ゲーム業界を中心に取材をする。合わせてアニメやマンガにも手を伸ばし、作品のモデルになった場所をファンが訪れる“聖地巡礼”現象も黎明期から現地に足を運ぶなどしている。マンガ大賞の選考員も担当しており、好きなジャンルはラブコメ、歴史もの。

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ゲームやマンガ、アニメなどサブカル分野を取材すること20年以上。現場から経営までの取材経験を元に、取材側から見える視点、今だから明かせる昔話、業界の矛盾などに切り込みます。ネット向け記事を執筆して多くの話題を提供した実体験を元に、記事を作る上での“仕掛け”なども明かします。記事の制作が効率優先のお手軽になりつつある現状を勝手に憂いつつ、情報の発信方法に悩む皆様の“助け船”になれば幸いです。

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