分数の性質として、
(1)分母と分子を、同じ数で割っても、その大きさは変わらない。
(2)分母と分子に、同じ数をかけても、その大きさは変わらない。

これらの性質を利用して行うことは、
「約分」と「通分」ですね。

まず、約分。
これは、上記(1)の性質を利用し、一つの分数に対して行うもので、
分数によっては、その結果は複数存在するため、
「これ以上約分できない状態のもの」を最終的な答とすることになります。
すなわち、約分には、ただ一つの答が存在します。
《例》
もとの分数… 36/48
途中経過… 18/24、6/8など(これを答とすると、不正解となります。)
最終的な答… 3/4

一方、通分というのは、
上記(2)の性質を利用し、二つ以上の分数に対して行うもので、
分母を最小公倍数にするという『きまり』が存在すれば、
答はただ一つということになりますが、
大きさの比較・たし算・引き算が目的であれば、
分母は必ずしも最小公倍数にする必要はないので、
答は無数に存在します。
《例》
もとの分数… 1/6 と 1/8
通分した結果… 『4/24 と 3/24』、「8/48 と 6/48」、「12/72 と 9/72」など(無数にあります)
※分母の最小公倍数を共通の分母とした場合、答は『』内のものとなる。

ところで、一つの分数に対して、(2)の性質を利用して行うこと、
すなわち、分母と分子に同じ数をかけて、等しい大きさの分数を作ることって、
何と言うのでしょう?
《例》
もとの分数… 2/3
等しい大きさの分数は… 4/6、6/9、8/12、10/15など(無数にあります)

分母と分子を、ある数でわって、数にすることを、分と言うのなら、
分母と分子に、ある数をかけて、数にすることなので、分と言うのか?

検索してみました。
ちゃんと「倍分」という語はあるのです。
約分・通分を算数の授業で習ったのに、倍分という語の存在に気づくまで、
なぜ21年もかかったのでしょう?

教科書にもなく、授業でも扱わず、受験参考書にも存在せず、
学習塾でもそんな言葉を聞いたことはありませんでした。
中学校や高等学校でも、「倍分」という語を使ったことはないのです。

これからは、「通分」に至る前に、倍分する問題をいくつか用意する必要があるわけです。
ただし、倍分というのは、本来答が無数に存在するため
条件を加えて、答が一つになるようにします。
「この分数を、分母が3倍になるように倍分しましょう。」
「この分数を、分母が24になるように倍分しましょう。」
「1/3を、分母が7倍になるように倍分しましょう。」
「1/7を、分母が3倍になるように倍分しましょう。」

だんだん慣れてきたら、
「すべての分母が、『6×8』になるように、これらの分数を、それぞれ倍分しましょう。」
「すべての分母が、『6と8の最小公倍数』になるように、これらの分数を、それぞれ倍分しましょう。」


倍分の先に、通分があるのです。

一つの分数の倍分をあまり意識することなくして、
通分を目的に「分母と分子に同じ数をかけて、分母をそろえましょう」という問題をいきなり出すのは避けましょう。