ロシアの首都モスクワの病院の集中治療室で新型コロナウイルス感染症の患者を診察する医師(2020年5月17日撮影)。(c)Dimitar DILKOFF / AFP

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【AFP=時事】ロシアの一流医科大学の4年生、アレクサンドラさんは感染症の専門家になりたいと思っている。だが、大学当局から新型コロナウイルス病棟での研修が必須だと言われたとき、思わず尻込みした。

「これは任意の選択ではないのです。新型コロナウイルスは危険なのだから、選択の権利を与えるべきです」。ロシアの首都モスクワにある国立セチェノフ第一医科大学(I.M. Sechenov First Moscow State Medical University)」で学ぶアレクサンドラさんは語った。

 大学側の決定は、医学部4~6年生の学生を新型コロナウイルスの治療施設に送り、医療研修の仕上げをさせるというものだ。対象とされる中には21歳の学生もいる。

 

 自分がウイルスに感染する可能性、さらに家族も感染させる可能性がある研修を受けるか、さもなければ除籍される可能性に直面した医師志望の若者たちは、この決定に抗議している。

 ロシア保健省は4月27日、この措置を5月1日から実施すると発表した。法令によると歯科および小児科を含めた全医学分野の学生が対象で、「医療上の禁忌」がある場合にしか拒否できない。

 6年生のスベトラーナさんは「参加を拒否する学生は資格を得られなくなり、退学となる可能性がある」と話した。

 学生らは保健省に法令の撤回を要求するオンライン署名を開始した。インスタグラム(Instagram)では「強制労働」に反対する運動が進行中だ。

■「私たちはまだ医師ではない」

 ロシアで確認された新型コロナウイルスの感染者数は毎日容赦なく増え続け、6月1日の時点で40万人を上回っている。全国で多数のベッドが追加され、各病院に医療従事者を配置する措置も取られている。

 だが多くの学生は、宿舎の割り当ても完全な防護装備の支給も保証されない状況に置かれたくないと反発している。

 学生たちは退学などの報復処分を恐れて、匿名を条件にAFPの取材に応じた。アレクサンドラさんは「私たちはまだ医師ではない」と述べる。「まだ役に立たないどころか、かえって感染を広げる恐れさえある」

 野党勢力の指導者アレクセイ・ナワリヌイ(Alexei Navalny)氏と密接な労働組合「医師連合(Alliance of Doctors)」の広報を担当するイワン・コノバロフ(Ivan Konovalov)氏は、当局は医療従事者の不足を医学生で埋めようとしていると指摘する。

■医師不足

 背景には「ここ数年の医療制度改革のせいで多くの医師が辞めている」ことがある。この問題は複数の政府機関も警告しており、監督局は医療部門の「最適化」(削減を意味するえん曲表現)が、新型ウイルス流行下のロシアの医療を弱体化させたと指摘している。

 だがロシアで求められているのは医師の増員であって、削減ではない。ロシアでは軽症者のためのさまざまな臨時施設が設置されており、医療従事者が必要とされている。

 医療関係者が保管している名簿によると、これまでに新型ウイルス患者の治療に当たった医師100人以上が死亡している。コノバロフ氏は、このような困難な状況下でも、医学生に支援を求めることは解決策にはならないという。「最終学年の医学生でさえ、このような状況下で働いた経験はない」

【翻訳編集】AFPBB News

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