ティトゥス・チジェフスキTytus Czyżewski,ブルーノ・ヤシェンスキBruno Jasieńskiの肖像,1920,キャンバスに油彩,写真:ウッチ美術館の厚意による;Kultura本部(パリ近郊メゾン=ラフィット),写真撮影:ヴォイチェフ・ワスキWojciech Łaski / East News;ユゼフ・オレシュキェヴィチJózef Oleszkiewicz,アダム・ミツキェヴィチAdam Mickiewiczの肖像,1828,ヴワディスワフ・ミツキェヴィチWładysław Mickiewiczによる寄贈,写真:クラクフ国立美術館

ティトゥス・チジェフスキTytus Czyżewski,ブルーノ・ヤシェンスキBruno Jasieńskiの肖像,1920,キャンバスに油彩,写真:ウッチ美術館の厚意による;Kultura本部(パリ近郊メゾン=ラフィット),写真撮影:ヴォイチェフ・ワスキWojciech Łaski / East News;ユゼフ・オレシュキェヴィチJózef Oleszkiewicz,アダム・ミツキェヴィチAdam Mickiewiczの肖像,1828,ヴワディスワフ・ミツキェヴィチWładysław Mickiewiczによる寄贈,写真:クラクフ国立美術館

ポーランド文学案内

筆者: Culture.pl
公開日: 5月 28 2018

読者の皆さんそれぞれの好みに合った作家をご紹介するために、Culture.plでは、歴史的背景の解説と、関心に沿った本の推薦の両方を兼ね備えた、特別の文学ガイドをご用意しました。

ポーランド文学は、その豊富な量と革新的な質において、最高の部類に入ることは間違いないけれど、ロシア文学やフランス文学といった主流からはやや外れるのは、言葉の壁のせいかもしれない。しかし近年、古典ならびに現代文学の優れた翻訳が着実に出てきており、読書愛好家は隠れた名作を発見できるようになった。以下の選択肢の中から、当てはまるものを選んでください。リンク先の記事を読んだら、あとは身近な本屋に駆け込むだけ。

あなたの文学プロファイルは?

a) 本を実際に読む気はないけど、大学のパーティで物知りだと思われたい。

b) 変わったもの、カフカ風のものに強く魅かれる。

c) 長篇小説のファン。お気に入りは『戦争と平和』。

d) 中世に夢中。宗教的手稿をよろしく。

e) 第二次世界大戦についてなら、いくら読んでも読み足りない。

f) 私はウェルテルさながらの憂えるロマンティスト。ゲーテ、プーシキン、バイロンに夢中。

g) 現存作家の本しか読まない。最新流行を知りたい。

h) 未来派宣言は暗記している。座右の銘はマリネッティとマヤコフスキーの言葉。

i) 象徴主義の詩人ボードレールやイェイツらを読みながら、アブサンをやるのが好き。

j) 本はエンタメじゃないと。SFやコメディ小説が読みたい。

ポーランド文学の始まり

ポーランド語で書かれた最初の文学作品は14世紀に現れた。この最初期の作品群は、ラテン語で書かれた作品群とは別の文学の伝統を発展させたが、中でも重要な作品は「神の母」に呼びかける聖歌『ボグロジツァBogurodzica(神を生んだ女)』である。

ポーランド・リトアニア共和国の成立により政治情勢が比較的安定すると、ヨーロッパの他国と接触の機会が増えた。16世紀ポーランドの芸術はルネサンスの特徴を持ち、特にイタリアの芸術家・作家からの影響が顕著だった。ヤン・コハノフスキJan Kochanowskiの作品は、のちのポーランド文学に不可欠となる詩的言語を発展させ、ポーランドのルネサンス文学の頂点に立つ模範とされている。コハノフスキは多作で様々な作品を執筆したが、中でも、幼い娘のウルシュラの死後に書かれた『挽歌』は、永遠に美しく悲痛な詩として際立っている。

ポーランドはヨーロッパの芸術とつながりを持ち、バロックから啓蒙主義に至るまでその文化の潮流を追っていた。

ポーランド文学の基調となったロマン主義

プロタズィとゲルヴァズィの会話,ヴォイスキが軽食を振る舞う場面,『パン・タデウシュPan Tadeusz』に寄せたミハウ・アンドリオッリMichał Andriolliの19世紀の挿絵,1986年刊行のKsiążka i Wiedza版
プロタズィとゲルヴァズィの会話,ヴォイスキが軽食を振る舞う場面,『パン・タデウシュPan Tadeusz』に寄せたミハウ・アンドリオッリMichał Andriolliの19世紀の挿絵,1986年刊行のKsiążka i Wiedza版

19世紀前半、ポーランドは前世代の価値観である啓蒙主義を大幅に否定し、ロマン主義の精神を文学と政治両方の分野で取り入れた。ロマン主義の精神はポーランド人の思想に永続的な影響を与え、この時代の代表的詩人アダム・ミツキェヴィチAdam Mickiewiczは現代ポーランド文化においても揺るぎない地位を誇っている。「ポーランドの国民詩人」として、ミツキェヴィチはプーシキンやバイロン、ゲーテ、シェフチェンコと肩を並べていると言えるだろう。ミツキェヴィチの『パン・タデウシュPan Tadeuszはナポレオン戦争時代を背景にした長篇国民叙事詩で、その冒頭部分は多くのポーランド人が諳んじることができる。戯曲『父祖の祭Dziady』はスラブ民族の土着信仰を題材に取り、ロマン主義が神秘主義や絶対者と結びついた非常に興味深い一例である。

ミツキェヴィチおよび同時代人のユリウシュ・スウォヴァツキJuliusz Słowackiとジグムント・クラシンスキZygmunt Krasińskiは預言者的詩人(wieszcz)として知られ、その作品はポーランドの政治的困難に関する熟考を精神の高みへと押し上げた。

長大な歴史的叙事詩が好きなあなたへのおすすめは…

19世紀末から20世紀初頭にかけて文学界に小説の二大巨匠が現れた。ヘンリク・シェンキェヴィチHenryk Sienkiewiczとボレスワフ・プルスBolesław Prusの作品は、いずれも歴史的細部と明快で分かり易い散文が特徴である。

1905年にシェンキェヴィチはノーベル文学賞を受賞している。代表作に『クォ・ヴァディスQuo Vadis』『火と剣によってOgniem i mieczem』『大洪水Potop』『パン・ヴォウォディヨフスキPan Wołodyjowski』の三作からなる『トリロギア(三部作)Trylogia』がある。『トリロギア』は17世紀のポーランド・リトアニア共和国が背景で、『クォ・ヴァディス』はネロ帝時代のローマを舞台としている。冒険と英雄的行為をふんだんに盛り込んだシェンキェヴィチの作品は、三国分割の時代にポーランドの民族意識を維持するのに重要な役割を果たしたと言われている。

シェンキェヴィチが歴史的苦難を劇的に書き上げたのに対し、プルスの小説はその語り口や地理的描写の両方で正確を期している。レフ・トルストイの『アンナ・カレーニナ』のような社会を描く写実主義小説が好きな人には、プルスの傑作『人形Lalka』を是非おすすめしたい。19世紀末のワルシャワ社会を見事に描いた作品だ。プルスに見られる語りの視点や調子は当時としては画期的で、他に例を見ない。お見逃しなく。

20世紀初めの「若きポーランド」

スタニスワフ・ヴィスピャンスキStanisław Wyspiański,"Chochoły"(ホホウ:*冬の寒さから守るため庭木等を藁で囲ったもの。『婚礼』に登場。),1898,紙にパステル,69x107 cm,ワルシャワ国立美術館蔵,写真:ワルシャワ国立美術館蔵
スタニスワフ・ヴィスピャンスキStanisław Wyspiański,"Chochoły"(ホホウ:*冬の寒さから守るため庭木等を藁で囲ったもの。『婚礼』に登場。),1898,紙にパステル,69x107 cm,ワルシャワ国立美術館蔵,写真:ワルシャワ国立美術館蔵

20世紀初めの数十年間、ポーランドでは「若きポーランドMłoda Polska」の芸術が花開いた。この時期の文学は数段階を経て発展し、スタニスワフ・プシビシェフスキStanisław Przybyszewski、レオポルド・スタッフLeopold Staff、ボレスワフ・レシミャンBolesław Leśmian、ステファン・ジェロムスキStefan Żeromskiらによる優れた作品が生まれた。

スタニスワフ・ヴィスピャンスキStanisław Wyspiański『婚礼』はこの時期の代表作である。象徴主義の戯曲であり、農民や都市のインテリだけでなく、幽霊や幻想的な生き物も集う婚礼を描いたこの物語には、ポーランドの歴史や文化についての引喩が密に詰め込まれている。政治の停滞と「芸術のための芸術」という以前の理念を批判するこの豊かな戯曲は、ポーランド文学における金字塔の一つである。

戦間期における方向性の模索

ヤロスワフ・イヴァシュキェヴィチJarosław Iwaszkiewiczと犬のTropek(トロペク),1963,スタヴィスコにて,写真提供:スタヴィスコ美術館アーカイブ/ Fotonova / East News
ヤロスワフ・イヴァシュキェヴィチJarosław Iwaszkiewiczと犬のTropek(トロペク),1963,スタヴィスコにて,写真提供:スタヴィスコ美術館アーカイブ/ Fotonova / East News

1918年にポーランドが独立を回復すると、国の将来について様々な意見が対立し合うようになった。戦間期の文学もまた美学や影響の多様性を特徴としている。ゾフィア・ナウコフスカZofia Nałkowska『テレサ・ヘンネルトのロマンスRomans Teresy Hennert』は、独立したばかりの国のアイデンティティを形作ろうとして、見解や個性が衝突する様をありありと描いている。

1920年代にヨーロッパ各地に広がった未来派運動は、ポーランドではブルーノ・ヤシェンスキBruno Jasieńskiとアレクサンドル・ヴァトAleksander Watが作品に取り入れた。イタリア未来派のフィリッポ・マリネッティFilippo Marinettiやロシアのウラジミール・マヤコフスキーVladimir Mayakovskyが好きな人は、このダイナミックな都会的スタイルのポーランド版が気に入るだろう。ポーランドの未来派は、伝統を否定し、技術的未来を称賛することで、過去とは決別した祖国を思い描いた。ヴァトはのちに未来派から離れるが、1927年刊行の『失業者ルシファー(堕天使)Bezrobotny Lucyfer』は変わりゆく世界を捉えた辛辣なブラックコメディになっている。神を信じぬ近代社会の中で、無用のものとなったルシファーが、映画の仕事に就く物語である。

未来派が過去と決別しようとしたのとは対照的に、スカマンデルSkamanderグループに属する詩人らは古典的なイメージと伝統的な文学形式を取り上げた。スカマンデルの発起人であるヤロスワフ・イヴァシュキェヴィチJarosław Iwaszkiewiczとユリアン・トゥヴィムJulian Tuwimのこの時代の詩には簡素な美しさがあり、分かり易く、現在にも通用している。

奇妙な傑作をお探しのあなたには…

ブルーノ・シュルツBruno Schulz『行列/行進Procesja』,クリッシェ・ベール(ガラス版画),連作『偶像崇拝の書The Idolatry Booke』より
ブルーノ・シュルツBruno Schulz『行列/行進Procesja』,クリッシェ・ベール(ガラス版画),連作『偶像崇拝の書The Idolatry Booke』より

戦間期には多様な文学グループが混在したが、どの派にも属さない三人の作家たちがいた。この「偉大な革新者」とは、スタニスワフ・イグナツィ・ヴィトキェヴィチ(ヴィトカツィ)Stanisław Ignacy Witkiewicz (Witkacy)、ヴィトルド・ゴンブロヴィチWitold Gombrowicz、ブルーノ・シュルツBruno Schulzである。いずれも形式や社会関係の問題を取り上げたが、そのアプローチはそれぞれが全く異なっていた。

奇妙な傑作であるヴィトカツィの戯曲は、サミュエル・ベケットSamuel Beckett、ウジェーヌ・イヨネスコEugene Ionesco、ジャン・ジュネJean Genetらと関連する不条理劇の先駆だと考えられている。ヴィトカツィの作品は社会の慣習や期待から自由になりたいという欲求を扱っている。戯曲『狂人と修道女Wariat i Zakonnica』には数種類の(実際の性格というより)性格類型が、精神病院に一斉に会する。この施設に入院しているのは詩人だが、ヴィトカツィは、それぞれの登場人物を動かしているイデオロギー(精神分析や科学的実証主義など)は、どれもがいかに狂っているかを探っている。『靴職人たちSzewcy』では、ファシスト、共産主義者、貴族が互いに反目し合う様子、つまり政治的イデオロギーの衝突を寓意的に描いている。

ヴィトカツィについてもっと知りたい人はこちら(英語) 

ヴィトカツィと同様にゴンブロヴィチもまた、個人と、個人が社会的関係によって与えられる様々な「仮面」との関係を探った。『フェルディドゥルケFerdydurke』は、目が覚めたら学校時代に戻っていた男の物語を通じて、個であることと所属を同時に求める願望を描いた見事な風刺である。複雑な構造を持つ『コスモスKosmos』は、一見偶然と思われる一連の出来事と観測の中に意味を見出そうとする男の物語だ。人を惹きつけ同時に不安にさせるこの小説は、主人公が自分の周囲にますますありえないような関連性を構築するにつれて、意味と関連を見出そうとする私たちの行為の無意味さが露わになる。

シュルツの作品世界には詩的な美しさがあり、それは物質的世界と形而上学的普遍との関係を熟考する基盤となっている。手の届かぬ時間と失われた家についての物語は、想像力と体験の相互作用の中に現われる。シュルツはナチスの占領下にあった故郷ドロホビチで銃弾に倒れ、非業の死を遂げたが、短篇集『砂時計サナトリウムSanaorium pod Klepsydrą』『大鰐通りUlica krokodyli』を私たちに残した。是非読んでほしい。

第二次世界大戦におけるポーランドの経験と責任に関心がある人におすすめなのは…

第二次世界大戦の中心的な戦場となったポーランドは、文学もまた戦争の深刻なトラウマを抱えた。戦中および戦後まもなくの時期の文学が扱ったのは、両隣国から侵攻されただけでなく、ナチスの大量虐殺の現場となった祖国を持つ人々がかいくぐった体験である。

ポーランド地下組織のメンバーであったクシシュトフ・カミル・バチンスキKrzysztof Kamil Baczyńskiは1944年ワルシャワ蜂起で死んだ。彼が残した詩には、不確かで暴力的な未来を前にした若者の恐れと情熱が綴られている。詩人のアンナ・シフィルシチンスカAnna Świrszczyńska、タデウシュ・ルジェヴィチTadeusz Różewicz、ミロン・ビャウォシェフスキMiron Białoszewskiはワルシャワ蜂起を体験し、その作品にはそのトラウマが様々な形で現れている。ビャウォシェフスキは戦後、人生の大半を費やし、ワルシャワ蜂起の回想の執筆と編集に取り組んだ。その『ワルシャワ蜂起回想録Pamiętnik z powstania warszawskiego』では回想に付き物の物語的な筋を排し、その代わりに包囲された町の生活が事細かに書き留められている。

タデウシュ・ボロフスキTadeusz Borowskiの『皆さま、ガス室へどうぞProszę państwa do gazu』はアウシュヴィッツの悲惨な生活を描いている。強制収容所を生き延びたボロフスキは、率直な散文と緻密な描写でもって「優しさは衝撃的で、誰もヒーローではない」世界を書いた。戦後すぐに刊行された、ゾフィア・ナウコフスカZofia Nałkowska『メダリオンMedaliony』もまたナチスの残虐行為を扱っている。ナウコフスカがナチス犯罪調査委員会の一員として集めた戦慄の証言を短篇集にまとめたものである。

近年では、戦争を直接経験していない若い世代がトラウマの遺産に取り組んでいる。マレク・ビェンチクMarek Bieńczyk『トフォルキTworki』はワルシャワ近郊の精神病院が舞台で、現代の語り手の物思いが占領期のポーランドの生活の物語と溶け合っていくなか、記憶と想像力の関係が探られる。ピョトル・パジンスキPiotr Pazińskiの小説『ペンションPensjonat』『鳥通りPtasie ulice』も過去からのこだまと向き合っている。パジンスキの作品は亡霊の世界だ。喪失に対する悲痛な瞑想であり、ポーランドのユダヤ人の消えゆく言葉を慎重に称えたものである。

やや軽い読み物をお探しのあなたには…

 

ナチスの占領に続き、ソ連の傘下に置かれたポーランドの暗い文学の中には、奇妙な笑いのブラックコメディ小説も存在する。

SFファンにはスタニスワフ・レムStanisław Lemの作品をおすすめしたい。『ソラリスSolaris』『泰平ヨンの航星日記Dzienniki gwiazdowe』『ツィベリアダ(邦題: 宇宙創世記ロボットの旅)Cyberiada』などの長篇小説・短篇集がある。レムの物語の主人公たちは、しばしば未知なる生命体や状況に遭遇するのだが、描かれる世界には同時に現実味がある。作品はSFというだけでなく哲学的だ。レムの作品は、遊び心あふれる創造的な言葉の使用と、示唆に富む魅力的な物語の両方を兼ね備えており、愉快な冒険と不条理な笑いを求めている読者にも、他者との遭遇という独創的な哲学を探している読者にも、どちらにも最高に楽しんでもらえるだろう。

スワヴォミル・ムロジェクSławomir Mrożekもまた創作を通して同時代の社会情勢に言及した。1957年刊行の短篇集『象Słoń』は共産主義時代のポーランドの生活を風刺している。ムロジェクは日常生活の状況と権力の不条理さを際立たせ、イギリスのスペクテイター誌は「短い寓話…カフカの物語と似ているが、もっと奇妙で笑える」と評した。戯曲『タンゴTango』は、ヴィトカツィの『靴職人たち』で扱われたテーマのいくつかを再び取り上げた。『タンゴ』の場合は、政治的対立を機能不全の家族の物語として描いている。抱腹絶倒の物語として、またそれが書かれた時代を映し出すテキストとしても、ムロジェクの散文は楽しむことができる。

最低限の知識だけ押さえておきたいあなたは…

ヴィスワヴァ・シンボルスカ,フランクフルトにて,1997,写真:Elżbieta Lempp
ヴィスワヴァ・シンボルスカ,フランクフルトにて,1997,写真:Elżbieta Lempp

チェスワフ・ミウォシュCzesław Miłosz、ヴィスワヴァ・シンボルスカWisława Szymborska、ズビグニエフ・ヘルベルトZbigniew Herbert – 20世紀を代表するこの三大詩人を抜きにしてポーランド文学は語れまい。ミウォシュは世界で最も有名なポーランド人文学者であり、その豊かで哲学的な詩は、自身を取り巻く世界における霊的・科学的なものに対する真に迫った考察である。ミウォシュは研究者、翻訳家、散文家としても才があり多作で、1953年刊行のエッセイ集『囚われの魂Zniewolony umysł』は全体主義を扱った文学の古典となった。また『ポーランド文学史The History of Polish Literature』は英語圏でポーランド文学を紹介するのに非常に貴重な役割を果たした。シンボルスカは1996年にノーベル文学賞を受賞。スケールの詩人と言えるかもしれない。作品の中でしばしばマクロ的視点から対象の特徴を捉えたり、ズームアウトしてその周囲の広大さを露わにしたりする。ヘルベルトの知的な詩は倫理や歴史の問題を深く掘り下げ、道徳的であると同時に皮肉が効いている。

第二次世界大戦後に生まれたポーランドの「ニューウェーブ」の詩人は1960年代に脚光を浴びた。この「1968年世代」の中でも、アダム・ザガイェフスキAdam Zagajewskiとスタニスワフ・バランチャクStanisław Barańczakは特筆に値する。両詩人とも、現実社会を明快な言葉に皮肉を効かせて巧みに表現し、詩集のほか、エッセイ集や評論集も刊行している。バランチャクの『Breathing Under Water and Other East European Essays(水中呼吸とその他東欧エッセイ)』は亡命ポーランド人作家の体験と、東欧を形作りつつあった体制転換についての極めて興味深い考察である。

現代ポーランド文学の多様な声に触れたいあなたは…

ドロタ・マスウォスフカ,ポーランド文学の奇才,写真:Elżbieta Lempp
ドロタ・マスウォスフカ,ポーランド文学の奇才,写真:Elżbieta Lempp

ポーランドの将来を気にかけている人にとって、現代文学で多様な作品が次々と生まれていることは、これ以上ない良い兆候だろう。現代ポーランド文学の世界は広大だが、以下に傑出した作家を数人紹介したい。作品は英訳されており、世界中で評価されている。

アンジェイ・スタシュクAndrzej Stasiukは見事な散文で共産主義崩壊の状況を描写する。1994年の『ガリチア物語Opowieści galicyjskie/Tales of Galicia』では農村社会の消えゆく過去と不確かな未来を捉え、2005年の『ババダグに向かってJadąc do Babadag/On the Road to Babadag』では、しばしば無視されてきた「もう一つのヨーロッパ」の旅を細かに記した。

オルガ・トカルチュクOlga Tokarczukは物語の筋立てが巧みで名文家でもある。現代ポーランド文学において批評家の絶讃を受ける一人。1996年の小説『プラヴィエク村とそのほかの時代Prawiek i inne czasy/Primeval and Other Times』は神話化した人類の縮図と心理の機微を描く。

ミハウ・ヴィトコフスキMichał Witkowski『ルビェヴォ/Lubiewo/Lovetown』(2004)は共産主義からの転換期と、見過ごされることの多かった同性愛という二つの主題を、話し言葉を取り入れた機知に富む筆致で表現している。

ドロタ・マスウォフスカDorota Masłowskaは2002年刊行の『紅白の旗のもとでのポーランド・ロシア戦争Wojna Polsko-ruska pod flagą biało-czerwony/ Snow White and Russian Red』で一躍脚光を浴びた。ポーランド版トレインスポッティングとも言うべき作品で、無為な日々を送る若者グループの武勇伝を、主人公らのリズムとスタイルに完璧に合った語りで描いた。マスウォフスカの日常の話し言葉を捉える才能は2005年の小説『女王の孔雀Paw królowej / The Queen's Peacock』にも顕著で、ヒップホップのスラングを使い、メディアやポップカルチャーに批判の目を向けている。

執筆:Alena Aniskiewicz,LB編集,2013.12;日本語訳にあたっては、チェスワフ・ミウォシュ著,関口時正[ほか]訳『ポーランド文学史』(未知谷)を参照しました。2018.01

日本語訳:YA、2018.01


傑作は(もう)待ち望まない――1989年以後のポーランド文学

傑作は(もう)待ち望まない――1989年以後のポーランド文学

1989年以後のポーランド文学を一瞥するとただちに、それが、長い長い年月を経て初めて、思想的課題からも政治的課題からも解放されていることがわかる。では、それによってポーランド文学はより普遍的になっただろうか? やがて過ぎ去ろうとしている最近四半世紀間に、文学に起こったことを振り返ってみよう。


 


作家スタニスワフ・レムの肖像(1997年クラクフにて),撮影:Elżbieta Lempp

スタニスワフ・レムStanisław Lem:生涯と作品

ポーランドSF界の第一人者であり、哲学者、未来学者、エッセイスト。著作はリアリズム小説から風刺にまで及ぶ。1921年ルヴフ(現ウクライナのリヴィウ)生まれ、1946年からクラクフに住んだ。2006年3月27日死去。


 


Леопольд Бучковский, один из самых сложных польских авторов конца ХХ века и один из Непереводимых

The Untranslatables – Writers You Will Never Read

The following selection features writers who, even after decades of gruelling Polish classes, you won't have the slightest hope of deciphering.