肉に負けない風味のシイタケステーキの秘密

「なにこれ…。お肉みたい」。食べてみて思わずこんな感想が漏れました。シイタケをバターで焼くだけなのに驚くほどおいしい料理が出来上がります。ビールの当てにもおすすめです!

スーパーに行くと年中、栽培種のキノコが売られていますが、野生のシイタケの旬は春と秋。枯れた広葉樹の幹や切り株に生え、人工栽培が普及する前までは貴重なキノコでした。
今日はシイタケをステーキにします。キノコの旨味成分は核酸系のグアニル酸。以前にも説明しましたが、キノコに含まれる核酸が酵素によって分解されることで生成されます。この点を頭に入れて調理を開始しましょう。

シイタケのステーキ

材料

シイタケ…6個(1パック)
サラダ油…大さじ1
バター…10g
塩…適量


1.シイタケは汚れがついていたら拭き(気になる場合は水でさっと洗い流す)軸を手でとりのぞくか、包丁で切り落とす。軸は根元の部分をさわり、硬い部分をとりのぞく。

2.フライパンにサラダ油を敷き、ヒダの部分を下にしたシイタケを並べる。中弱火にかけ、ゆっくりと加熱していく。途中でフライ返しなどでシイタケを押さえ、ヒダの内側を焼くようにする。

3.5分経過し、うっすらと焦げ目がついてきたらバターを加える。さらに加熱し、ヒダの側にしっかりと焼き色をつける。反対側はさっと焼き、器に盛り付け、塩で味をつけるか、つけながら食べる。


シイタケステーキが肉に負けない秘密

シイタケは日本を代表する食用キノコです。固めたおがくずを使い、室内で栽培する菌床シイタケと、切った木を並べ、菌(種コマ)を植え付けて栽培する原木シイタケの二種類があります。今のように年中、生のシイタケが食べられるようになったのは菌床での栽培方法が確立されてから、最近のことです。

原木シイタケと菌床シイタケ、どちらが優れているか、というのは非常に難しい質問です。伝統主義者は原木シイタケのほうがおいしい、と言うでしょうし、菌床シイタケを栽培している人は原木に負けないと言うでしょう。どちらにもそれぞれの良さがあり、比べられるものではありません。今回はスーパーで簡単に手に入る菌床シイタケを使いました。

シイタケは普通、パックに入ってぴっちりとラップされた状態で販売されています。シイタケは水分蒸発が多く、鮮度が落ちやすいからです。購入してきた場合は野菜室ではなく、温度の低い冷蔵室、理想はチルド室で保存してください。
原木、菌床問わず、シイタケは土には触れずに育ちます。キノコ類は「洗ってはいけない」と言いますが、そもそもよく洗う必要性がないのです。もちろん、汚れが気になる、という場合はさっと洗っても問題なし。どっちだっていいのです。

洗うとキノコの香りがなくなる、という人もいますが、香り成分は表面だけに存在しているわけではありません。水を含むので洗わないほうがいい、という人もいますが、キノコは必ず加熱して食べるのでその水分は蒸発し、味にも影響ありません。

香りといえばシイタケ特有の匂いはレンチオニンという脂溶性の物質に由来します。レンチオニンは分子内に硫黄を含む成分で、香ばしく焼くと肉っぽい香りになります。そのためシイタケは肉の風味を引き立てるので、肉料理に使われることが多いのですが、このレンチオニンの香りは好みが分かれる匂いでもあります。

今回はバターを使うことで、その点をカバーしています。脂溶性の香り成分をバターという風味のいい油に溶かすことで希釈し、好ましい香りにするわけです。はじめからバターで焼くと早い段階で焦げてしまい、バターの香り成分も揮発してしまうので、はじめはサラダ油で焼き、時間差で加えるようにします。

シイタケは平らな形をしていません。そこで上から押さえつけながら焼くことで、焼き色がきれいにつきます。ポイントは冷たいフライパンから加熱をはじめること。キノコの旨味成分であるグアニル酸は、キノコに含まれる核酸が酵素によって分解されることで生成されることは冒頭で触れましたが、この酵素は40℃~60℃くらいの温度帯で活性化します。キノコは低温から加熱することで、旨味が引き出されるのです(参考『低温加熱で100%の旨味を引き出す「きのこのゆっくりソテー」』)。また、キノコはほとんどが水分なので、しっかりと加熱をし、それを飛ばしていくことで味も凝縮します。

工程も材料も少ない料理ですが「丁寧に焼く」という作業に気を使うべきことがかなりあるはずです。例えばフライパンの種類によっては中弱火が当たっている部分が熱くなり、周りの温度は低いかもしれません。その場合はシイタケの位置を動かして、焼き色がつくように調整する必要があります。また、ずっと火にかけていると温度が上がりすぎることもあるかもしれません。油が跳ねるようであればそれは温度が高すぎる証拠。そのときは火を弱めるか、フライパンを火元から外すなどして温度を調整する必要があります。

今の時期の涼しい風が吹く夕方に、丁寧に焼いたシイタケを当てにビールを飲むのは最高です。食材に対する愛情と敬意を持って、料理を楽しみましょう。


おなじみの定番料理が100種類以上! これまでご紹介したレシピを肉料理、魚料理などメニュー別にこちらのページにまとめました。
連載で取り上げてほしいテーマも募集しています。

この連載について

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おいしい」をつくる料理の新常識

樋口直哉

食の博識、樋口直哉さん(Travelingfoodlab.)が、味噌汁、ハンバーグ、チャーハンなどの定番メニューを、家庭でいちばんおいしく作る方法を紹介します。どういう理由でおいしくなるのか、なぜこの工程が必要なのかを徹底的に紹介し、...もっと読む

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    aaa3_25 椎茸食べたくなってきた🤤 約16時間前 replyretweetfavorite

    kaorun6 しいたけをバターで焼いてビール。最高の休日だ。| 1日前 replyretweetfavorite