日本の物流を支えるのはトラックだ
Hiroko / PIXTA(ピクスタ)

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◆あるドライバーからの「告発」

 「トラックドライバーが一般ドライバーに知っておいてほしい“トラックの裏事情”」をテーマに紹介している本シリーズ。

 これまで数回に分けて、コロナ禍におけるトラックドライバーへの「差別」や「正義」を紹介してきたが、今回は筆者に届いたあるトラックドライバーからの告発をもとに、報道後も続くドライバーの苦悩を紹介していきたい。

 先に1つ言っておくと、実は今回取り上げる案件については、執筆するか否かかなり悩んだ。

 無事解決したことで筆者自身が満足してしまったこと、そして、会社が内部通報者を特定し報復に転じないかを危惧したことがその理由だ。

 が、今回の通報者から「全国には他にも苦しんでいるドライバーや家族がいるはず」と、記事掲載における全面協力・承認が得られたこと、そして今回のケースにおいては、むしろオープンにするほうが内部通報者の今後を守れること、また、先輩ジャーナリストたちに「どんなに扱いを小さくしても社会的利益を考えたら報じるべき」との後押しを受けたことから、こうして執筆に至っている。

 筆者の元にトラックドライバー「A氏」からメールが来たのは、4月の下旬ごろだった。

◆告発者は、大手メーカーの工場に勤務する家族を持つドライバー

「自分(A氏)がコロナ感染拡大地域を出入りしている長距離トラックドライバーという理由だけで、家族が勤め先の工場から出勤拒否に遭っている。同じような扱いを受けている人が構内に10人ほどいる」

 A氏の家族「B氏」の勤務先は、誰もが知る大手メーカーの工場。創業当時から続く熱いモノづくり精神や、労働者に優しい経営理念を掲げている優良企業で、ブルーカラーやモノづくりの現場を肌で知る筆者にとっては、正直驚きというよりもショックのほうが大きかった。
 
 A氏からメールが届く少し前、愛媛県にある公立小学校の校長や教育委員会が、トラックドライバーをしている親を持つ子ども3人の登校を拒否した「職業差別」がニュースで大きく取り上げられていた。

 筆者もこの出来事に対して記事を書いたのだが、それを読んでくれたドライバーやブルーカラーの読者数名から「自分も同じような職業差別に遭っている」という相談を受けた。

 A氏はそのうちの1人だ。

 事情を詳しく聞くと、B氏は同工場に非常に長く勤務している正社員で、4月中旬からコロナが落ち着くまで、「無期限の出社拒否」に遭っているとのことだった。その理由は、先述した通り、A氏が感染拡大地域を出入りしている長距離のトラックドライバーだからだという。
出勤禁止の間、B氏には会社から「(A氏は)いつ帰って来たか」、「別居しているのか」という確認の電話がかかってきていた。

◆さらに、給与補償は一切なし

 悪質なのは、命じられたこの出勤禁止期間を会社側が「年次有給休暇」として処理していたことだ。会社からの給与補償は一切ない。

 長距離トラックドライバーをするA氏は、自宅になかなか帰れず子育てはほとんどB氏に頼っている。学校行事もB氏が毎度有給休暇を使って参加しているため、今回の「有給強制消化」が今後の生活に大きな影響を及ぼすことは間違いない。

 家族に長距離トラックドライバーがいるという理由で出勤させず、さらにその休みを強制的に有給扱いにし、所得補償も与えない。

 「自分はこんな仕事だから何言われても仕方ないんですけど、周りがいろいろと菌扱いされるのは納得しないです」

 A氏の文体は、落ち着きながらも怒りに満ちていた。

 内容を確認・把握後、筆者は同本社の広報にコンタクトを取り、質問状を提出。期限内に文書での回答を求めた。質問の主な内容は以下の5点だ。