ヘアサロンはとりわけ人と人との距離が近い環境であり、濃厚接触は避けられない。スタイリストは指の腹で頭皮をマッサージし、理容師は客に密着して生え際を整える。
だが、そんな働き方に急ブレーキがかかった。新型コロナウイルスによって多くの国で理美容店が休業に追い込まれるなか、スタイリストと常連客の絆は一時的に絶たれ、店内の一体感や交流も損なわれた。
米アトランタからアラブ首長国連邦(UAE)ドバイに至る場所で、多くの人は美容師やブレイダー、カラーリストに頼って、自尊心のよりどころとなる対社会的なイメージを作り上げている。
しかし理美容業界にとって、髪はアイデンティティーや創造性の問題にとどまらない、ビジネスの問題でもある。世界各地で封鎖措置が緩和されるなか、サロンのオーナーや従業員も仕事に復帰しつつあるが、職場の様子は様変わりした。
英国のブレイダー、シャーディー・クライン・トマスさんが手掛けたヘアスタイル/Courtesy Sade Cline-Thomas
「まるで新しい店を開いたみたい」。そう語るのはカラーリストのマリア・ダウリングさんだ。1カ月の休業が明けた4月26日、自身の名前を冠したドバイの店を再開した。
封鎖中、休業に伴う金銭負担はスタイリストとオーナーの双方にのしかかってきた。ただ、あらゆる業界と同様、足元の状況は立地から企業構造に至るさまざまな要因に左右される。
大型チェーン店や資金力豊富な店はしばしばスタイリストを従業員として雇うが、業界の大半を占める独立系中小店は個人事業主に依存している。こうした場合、スタイリストはオーナーに使用料を払って店内の席を借り、オーナー側はこの使用料を自分の収入や諸経費に充てることが多い。
パリに店を構えるデルフィヌ・クルテーユさんは休業中、フランスの中小企業支援策のおかげで、賃料と公共料金の支払いを猶予されていた。従業員も国の部分的失業制度の一環で給与の84%を受け取った。対照的に、ドバイでは政府が中小企業を支援しなかったため、ダウリングさんは自ら人件費や諸経費を支払うことになった。
パリにあるサロン「デルフィヌ・クルテーユ」/Courtesy Hervé Goluza
在宅勤務の選択肢がなく、企業や政府の支援も得られない以上、スタイリストやオーナーにとっては職場復帰が前に進む唯一の道だ。
米ジョージア州のケンプ知事は、封鎖開始からわずか3週間後の4月24日に企業活動を再開する決定を下して物議を醸したが、アトランタの2カ所に理髪店を構えるユセフ・バーバーさんはこの変化を歓迎した。