カレーですよ4650(新宿 新宿中村屋総本店 グランナ)「香取薫×中村屋グランナ コラボレーションディナー」後編。

前回のエントリーで、こりゃあ長すぎるかな、と前菜とスープ、それに青菜で構成されたプレートの話までで一旦お話を切りました。もちろんここからがカレーとメインディッシュです。


さあ、ついにカレーへ行きましょう。


「牡蠣カレー」
さて、カレーです。香取先生の日印折衷オリジナルレシピである牡蠣カレー。これはひとくちスプーンを含むとそのあとはただひたすら無言になってしまうような、素晴らしいおいしさのひと皿です。少し前に香取先生のお教室、キッチンスタジオペイズリーが主催した「ラクシュミー食堂」というイベントにご招待をいただきました。そこで提供された牡蠣カレーがおいしくておいしくて仕方がなかったんです。バカみたいでイヤなんですが、美味しくて仕方がなかったくらいしか書きようがないんです。なんというか、舌と脳みそを美味しさという鉤爪でいっぺんに鷲掴みされる感じ。
このレシピは香取先生が30年ほど前にNHKの番組「きょうの料理」の「きょうの料理大賞」というアワードで部門優勝を獲った時のものなのです。インド人は貝を食べないということ、年配の方がインドカレーと聞いて尻込みしてしまうこと、そういう部分にフォーカスして誰もがスパイス料理が好きだ、面白い、と思ってもらえるような料理を!と想いを込めて作ったレシピです。和風出汁ベースだったり、牡蠣はソテーしてあったりと手がかかっています。甘さと旨味と奥の方からすこしやってくる辛さ。醤油、バター、牡蠣なんてもう逃れようのないうまさに決まっているし、甘く仕上げたカレーソースにプチトマトが弾けて酸味が加わるこの楽しさといったらありません。薬味のミョウガと青じそにもやられるなあ。じょうずだなあ、こういう持っていき方。このプチトマトもちゃんとその味に意図を感じる酸味強いものをチョイスしてあり、いちいち隅々まで楽しませてくれるんですよ。そのことに圧倒されるひと皿です。


メインプレートです。

これがまた面白かったんだよ。北インド、南インドの料理をいくつかチョイスしてバランスを作り出し、同じプレートに同居させている凝ったものです。

「石崎料理長のララマトン」
パンジャーブ州名物の料理、ララカレー。その意味にはパンジャービー語で「じっくりスパイスで炒める」というものがあるそうです。料理としての構成は、大きめのかたまり肉が入り、なおかつカレーソースは挽肉を使うキーマカレーに仕立ててあるというもの。これがもうなんというか、面白かったなあ。ララマトンは他でも何度か食べていたのですが、石崎料理長のララマトン、おいしい。実に美味しいです。上品かつパワー感じる味わいで、とても好みのものでした。ちょっと西洋料理のテイストも感じる調整が素晴らしいんです。マトンの良い香りとそれを悪いクセにしない、クセではなくアクセントに抑え込む力量はすごいの一言。妙高のかんずりを隠し味に入れたのだとか。そのセンスにシビれます。
そしてね、面白いというのはなんなのかと言うと、当たり前といえば当たり前なのでしょうけど、この石崎料理長の手になる「ララマトン」がきちんと「中村屋の味」になっていること。
どうお伝えすればいいのかな。圧倒的なものを感じるんです。現地のものではないものの、かの地のコックさんたちがが作ったものを食べて知っているララマトンと照らし合わせると、間違いなく「ララマトン」というものに仕上がっているんですよね。当たり前です。ララマトン自体、ココナッツ仕立てやトマトを使うもの等、料理人が変われば味もスタイルもある程度の幅を持って変わると聞いていますけれど、とにかく中村屋のDNAを強く感じる味に仕上がっているんですよ。これは間違いない。なんという不思議な体験だろう。素晴らしいなあ。

「チェッティナードゥーのベジタブルクルマー」
これも大変に素晴らしかった料理。好みで言えば野菜好きのボクにとってはちょっと夢のような美味しさで、今回の白眉と感じました。好みで言えば一等賞です。
南インドの野菜のココナッツ煮というべきものです。しかし、ベジオンリーであるにも関わらず重いというのとは違う強い満足感感じる味付けと香りがあるんです。ちょっとオリエンタルな香り、クローブやシナモンかしら。野菜の潜在能力が強く引き出してかつその上にまたもう一枚、別の美味しさのレイヤーがあるのを感じると言いましょうか。とにかく素晴らしいひと皿なのです。ココナッツをクラッシュしたフレークがたくさん入っていて、それをセミドライという感じのところまで煮込んであります。ココナッツのクセはどこかに消えており、甘くふくよかな香りと味だけが上手に残って、塩とスパイスが上手にその輪郭線を描いてくれていて、この料理の存在感が強く出ます。ドライタイプの野菜カレー、サブジなどに目がないボクが夢中になったひと品。ごはんなしでボウル一杯食べてみたいです。ああ、おいしい!!もうダメだ。おいしすぎる。

メインプレートのサイドディッシュも素晴らしいものでしたよ。

「アールーピヤージ」
これがもうシンプル極まりない料理なんですけど、とんでもなく美味しくてやめられないと悲鳴をあげたひと品でした。北インドの家庭料理です。このチョイスも香取先生の面目躍如ではないかしら。とにかくいいジャガイモ料理で、ジャガイモという素材をこれでもかと目一杯、元から持つ素材の美味しさを引っ張り出す面白さ、楽しさがありました。途中コリアンダーシードがガリっときてジャガイモのふくよかさとコリアンダーシードの爽やかでとても良いコンビネーション。おや、でもこれは隣にあったベジタブルクルマーからかな?どっちだろう。これも聴き逃してしまったな。実はこれの調理がすごく繊細で難しいものらしいんですよね。

「ムグルカリサラダ」
ナッツのアクセントが心地よい、優しい味わいのサラダです。繊細なサイズコントロールのきゅうりのダイス刻みで食べやすさと穏やかな印象を作っています。ピーナッツとキュウリという組み合わせと細かく刻んだやり方が面白い。穏やかな味で刻みのサイズも小さいのでカレーと混ぜることも可能なんですが、味が優しいのでカレーに飲み込まれてしまうことと、水分が多く出ているので混ぜないようにしたほうがいいかもと感じました。カレーに混ぜるよりもお皿の上の主役たちのあいだあいだで食べてリセットをかけるのに使うのがいいね、これは。お皿の上で別のスプーン上に乗せるというプレゼンテーションも洒落ていたし、その役割としても他の料理に水分が回ることがないようにという細やかな気遣いがあってそういう部分まで嬉しくなります。

「ラエーター」
ヨーグルトサラダ。そう呼ぶ人が多いと思いますが、あれはなんだかモヤモヤするんです。だってサラダはあまりカレーやらナンやらにかけないから。このラエーターはとても好みです。オレンジとグリーンのオイル、これはスパイスの香りが写してあるやつで、香ばしくておいしいんです。ちゃんと手を入れてある、美味しくしようという意図を感じるラエータには心から嬉しくなるね。

「コリアンダーライス」
これ、面白かった。こういうのは初めてだった。良かったんです。コリアンダーリーフとコリアンダーシードが入るライスでした。パンジャーブの肉料理とチェッティナードゥーの野菜料理をつなぐ役割を担うポジション、と香取先生。なるほどととても納得がいきました。


さて食事も全て終わって、デザートと飲み物。

「柚子と紫蘇の白ワインシャーベット」
ホッとしたと思ったら、また目を見開いてしまいます。青じそを使った大人っぽい味のシャーベット。すごくさっぱり仕上がっていて美味しいというよりも口中が気持ちいいという風に感じられるものです。まさにコースの締めを上手に勤めるバイプレイヤーでした。最後まで油断ない完璧な締めを得て天にも登る気分で食事を終えました。きちんと美味しいコーヒーをいただきながら、脳裏で反芻。しかし落ち着かない。情報量が多すぎて追いつかないのです。

シャーベットとコーヒーでクールダウンしながら思いを巡らせます。とにかく刺激と学びが多く、こんな素晴らしい時間がなぜわずかな金額で手に入ってしまったのだろう、と訝るばかりでした。1万円をあえてわずかな、と言いました。そう言いたくなるぐらい価値のあるものだったから。

少し前に旅した香取先生の思い出、北インドのかなり田舎、山奥といってもいいような地域の話し。
結婚まえの女性に食べさせてあげたりするお祭りの時の揚げ物を、昼から調理をスタートさせて、夜、真っ暗になっても揚げ続けるという旅の途中のエピソード。

ジャガイモの食べ比べの面白さ。南インド、チェッティナードゥーのフレーバーと北インド、パンジャービーの家庭料理の中で一番リッチに調整、調味をしたフレーバー。この食べ比べなどそうそうできるものではないでしょう。それが先ほどのコースの中で楽しめてしまうという驚き。むしろ本国ではなく東京だからこそ、新宿中村屋のこの場所だからこそ、それができてしまったのだという気づきと驚き。

平らな石板とスパイスを叩くための石というミルのセットの形状からわかってくる、ハーブやスパイスの砕かれ方、潰され方。そこから考えるその地方でのスパイスやハーブがどれくらい、どういう形で加工されて料理に使われ、それがどういう効果となるか、というものを目の前で見て実践して知った知的な満足や楽しさ。今晩の牡蠣カレーに添えられた、たたき大根、それがこの話に繋がるという楽しさ。

こんなお話しばかり聴いて彼の地に想いを馳せながらとる食事。なんという豊かなものだろうと思います。
何よりも舌と頭のサポートを香取先生の言葉がやってくださるというこの贅沢。代え難いものでした。

ディナーの2時間を目一杯楽しんで感じたことは、きちんと味わう楽しさ、というものでした。
説明を聞き、理由を知り、それを元に舌で探ってゆく面白さ。フレンチなどでは当たり前にあるけれど、スパイス料理、インド料理の世界ではまだまだ足りない要素でしょう。
こういうものを当たり前にインドレストランなどで体験できる世界が東京にやってきたのなら、それはまさに辿り着くべき、本当の意味でのアッパークラスのインドレストランなのだと思います。
つまり、ジャケットを着てタイを締め、靴を磨き上げて女性をエスコートする。そんな時のレストランのチョイスでフレンチとイタリアン、中華以外での選択肢としてのインド料理。そういうポジションをインドレストランが東京という街で得られる日を、実はボクはずっと夢見ているのです。

当日から数週間ほどはちょっと全体の感想というのがまとまらない気分でした。情報量が多すぎて、ね。
でも、こうやって思い起こして書いていると、だんだん整理ができてきて、緻密さと大胆な意図とが交錯する実に面白い構成だったことが浮かび上がってきます。

この日はお席で食事を楽しんでいらっしゃった二宮総料理長と、陣頭に立ち指揮をとり、その司令塔としての役割を果たしつつ、ディッシュアップを出てゆく料理すべてをチェックし、なおかつメインディッシュの担当までを全うなさった石崎料理長、そして心から大好きな、香取薫先生。中村屋のスタッフの皆さんとキッチンで腕を振るったペイズリーのお二人の先生。みなさんに感謝をいたします。

カレーダンニャバード。カレーをありがとう。


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