閑散とした成田空港の出発ロビーに1本だけ長蛇の列ができていた。定期便欠航が続くベトナム航空の臨時便に妊婦や持病のある人を優先に300人弱が搭乗した(4月)
新型コロナウイルスの影響で仕事が減った技能実習生や留学生にとって収入が乏しい状況が続いている。国際定期便の運休も相次ぎ、望んでも帰国できない。
食料品などの支援物資を受け取ったベトナム人実習生フォンさん。抗がん剤治療を受けながら、一人暮らしを続けている(5月17日、千葉県柏市)
休職中のベトナム人実習生ファム・バン・フォンさん(33)のもとに支援物資が届けられた。フォーなどの食材2週間分だ。昨年に大腸がんが発見され、闘病中で新たな仕事も見つかりそうにない。「家族に仕送りもできない。来日費用の借金を返すために早く働いて、すぐに帰りたい」と打ち明ける。物資を手渡したNPO法人の日越ともいき支援会(東京・港)は、ベトナム大使館や一般市民からの寄付を募り、全国に届けている。
日越ともいき支援会が拠点とする浄土宗の寺院には、在日ベトナム人に送る支援物資の食料が並べられていた(4月、東京都港区)
コロナ禍に見舞われる前は、寺院のベトナム人僧侶ティック・タム・チーさんの法話を聞きに毎月多くの若者が集まっていた(2019年9月、東京都港区)
取り組みは埼玉県のカトリック教会で始まった。修道女に寄せられた食に困る一家の願いをフェイスブックで紹介したのがきっかけとなり、2500以上の希望者が殺到。彼らを支援しているのは、こうした民間の団体だ。
カトリック教会で普段は300人が集まるにぎやかなミサの日に、ひとり祈りをささげるベトナム人修道女のマリア・レ・ティ・ランさん(5月10日、埼玉県)
「宗教や国籍を問わず助けています」というランさんは入管施設やホームレスにも物資を届ける。手作りマスクにはベトナム語が添えられていた(5月9日、埼玉県)
近年急増する在日ベトナム人に対し、日常の相談から実際の支援まで対応できるコミュニティーが限られている。技能実習を監督する「外国人技能実習機構」は母国語相談センターを設けているが「家族や友人の信用が第一で、紹介がないと心を開きにくい」とイエズス会社会司牧センター(東京・千代田)のヨセフ・ニャー神父は話す。
箱詰めした食料品を教会から運び出すヨセフ・ニャー神父。つながりのある教会と連携し、1日で約500個を全国に向けて発送した(5月9日、埼玉県)
教会のマリア像にはマスクがかけられていた(5月10日、埼玉県)
公益社団法人ベトナム協会(東京・港)は駐日大使の要請を受け、地方で友好団体設立を呼びかける。日本政府による10万円の特別定額給付金の申請書類も翻訳しネット上で広める。小川弘行常務理事は「人手不足のときだけ都合よく使って切り捨てるのでなく、外国人にとって働きたい国であるためにはサポートが欠かせない」と訴える。
国際便の欠航により数カ月間ベトナムに返すことができなかった遺骨を帰国者に託す僧侶のタム・チーさん(中)。「生活苦で命を落とすことも想定される。支援は一刻を争う」と日越ともいき支援会代表の吉水慈豊さんは話す(4月、東京都港区)
文・写真 寺沢将幸