首相と訓告処分 責任逃れの度が過ぎる

2020年5月30日 08時40分

 賭けマージャン問題で辞職した黒川弘務前東京高検検事長の訓告処分は誰が決めたのか。安倍晋三首相は任命権者でありながら、法務省の判断だと繰り返し説明する。責任逃れの度が過ぎないか。
 賭けマージャンは刑法が禁じる賭博だ。人事院の懲戒処分指針は賭博をした職員は「減給または戒告」、常習的に賭博をした職員はさらに重い「停職」と定める。
 発覚前に自主的に申し出た場合などは処分の軽減もあり得るが、「職責が特に高いとき」や「公務内外に及ぼす影響が特に大きいとき」などは、逆に処分を重くする、としている。
 黒川氏の処分は人事院の指針ではなく、法務省の内規に基づく訓告とされ、処分が軽いとの批判が与野党や国民から噴出している。
 黒川氏は安倍政権との近さが指摘され、内閣は法解釈を変更して黒川氏の定年を延長した経緯がある。軽い処分は黒川氏をかばう政権中枢の関与を疑われて当然だ。
 しかし、首相らはそうした疑念を拭い去るような説明をせず、むしろ訓告にとどまった理由や経緯の詳細な説明を拒んでいる。
 首相の説明は「法務省が(稲田伸夫)検事総長に訓告が相当と伝え、検事総長も訓告が相当だと判断して処分した。森雅子法相から報告があり、法務省の対応を了承した」というものだ。
 「了承したわけだから、私もこの処分に責任を負っている」と言いながらも、処分を法務省や検事総長の決定とし、自らの関与を強く否定する発言である。
 政権中枢が黒川氏の処分を軽くするよう関与したのなら言語道断だが、仮に法務省の判断だとしても、処分が軽いと内閣が考えるのなら差し戻し、より厳正な処分を求めるべきではなかったか。
 首相は、黒川氏の定年延長でも法務省側の提案と釈明した。繰り返される自らの関与否定は、責任逃れとしか思えない。
 そもそもなぜ短期間の調査で黒川氏を訓告とし、多額の退職金を支給するのか、疑問は尽きない。
 辻裕教法務次官の黒川氏聴取は十九日に始まり、黒川氏の辞表提出と訓告処分決定は二十一日だ。短期間の聴取で全容が解明できたとは思えない。政権として幕引きを急いだのではないか。
 黒川氏の賭けマージャンを巡っては、市民団体や弁護士らが黒川氏と記者らを常習賭博などの疑いで告発している。通り一遍の調査でなく、捜査によって全容を解明し、処分を決めるべきである。

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