英雄王の凱旋   作:トミサト

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第36話 求める力

 モモン達は休憩を終えると、クライシス卿の屋敷を後にした。

 屋敷から出たモモン達は、引き続き王都内の市街地の視察を続けていた。

 暫く歩いていると、多くの露店が軒を連ねるエリアへと差し掛かる。

 

「ネイア殿。こちらは市場かな?」

「はい。モモン様。こちらは王都一の市場となっております。」

 モモンの質問にネイアは答える。

 

 モモン達の目の前には、人々の活気に満ちた市場が広がっていた。

 

(へぇ。順調に復興しているなあ。デミウルゴスが上手くやっているんだな。聖王国をメチャクチャにした時は、どうなる事かと思ったけど…)

 

「どうやら、順調に復興しているようだな。」

「はい。すべては魔導王陛下のおかげです。」

 

 ネイアの言葉にモモン―いや、アインズは僅かに罪悪感を覚える。

 

(まあ、聖王国を滅ぼしかけたのもこっちの計画なんだけど…。まあ、その後の復興支援もしているし、プラマイゼロって事で良しとしよう。)

 

 モモン達は、市場内へと入っていく。

 市場内に入ったモモンは、露店を廻り、その品揃えをチェックしていった。

 これが今日のアインズの視察目的だったからである。

 

 魔導国を建国して以降、モモンとして活動の必要がなくなり、ほぼ、ナザリック内とエ・ランテルの城内に留まって日々の業務を行っていた。

 たまに、モモンやナーベを引き連れて、魔導国内を視察する事は行っていたが、行動範囲は限られ、市場などに顔を出す事は出来なくなっていた。

 

(やっぱ、経営者たるもの市場調査は行わないとダメだよな。)

 

 現在、魔導国にはアンデッド以外に特産品と呼べる物はない。ドワーフ達を招き入れてルーン武器や防具生産、包丁や鍋等の生活必需品の生産に力を入れているがまだまだ特産品という程の代物には育ってきていない。

 ならば、魔導国にあるもので、他の国にない物を探し出し、それを提供すればいい。

 そう思ったアインズは、モモンという姿で視察を行えるこの機会に聖王国の

市場調査を行おうと考えていた。

モモンは一つ一つの露店を廻り、その品揃えをチェックしていく。

 

「ネイア殿。魚などの海産物があまり見られないが、聖王国の国民はあまり食べないのか?」

 露店を廻り、その事に気が付いたモモンはネイアに質問する。

 

「いえ、普通に食しますが、この付近では海が遠い為、あまり、市場には出回らないのです。出回っても干物とかが主になります。新鮮な海産物はこのあたりでは高級品です。」

「なるほど…」

 

(これは明らかなビジネスチャンスだ。つまり、魔導国で新鮮な海産物の流通経路を確保できれば、高値で取引が行える。流通経路は、ドラゴン等の航空便を使えばいい。)

 

 その後も市場を廻り、モモンがこれからのビジネスについて考えながら歩いている時だった。

 

 教会の鐘が鳴り始めた。十二時を知らせる鐘が。

 

 鐘の音が鳴る中、モモンの背後に何者かが忍び寄る。

 

 それに気づいたモモンがふいに後ろに目をやると、そこには、赤いローブを纏った悪魔の名を持つ者が立っていた。

 

 その手に弁当箱を持って。

 

 そして、その悪魔の名の持つ者が意気揚々と声を上げる。

 

 「モモン様‼どうぞお食べ下さい‼」

 

 

 

 時を同じくして、王都内にある親衛騎士団の訓練場の中央には、レメディオスが仁王立ちで立っていた。

 そんなレメディオスの前には、十メートル程の間隔をあけて、イビルアイ以外の青の薔薇のメンバー、ラキュース、ガガーラン、ティア、ティナが対峙するように立っていた。

 

「わざわざ、ここまで来てもらって悪かったな。」

 レメディオスが青の薔薇のメンバーに向けて声を発する。

 

「いえ、構いません。聖王国一の剣士の訓練に誘われたのですから。それでは如何致しましょうか?私からお相手させて頂きましょうか?」

 

「いや、お前達全員を同時に相手にさせて頂こう。」

 

「‼‼」

 レメディオスの言葉に、青の薔薇のメンバー、皆に衝撃が走る。

 

「おいおい。嬢ちゃん。これでもこっちは王国のトップを張っている冒険者なんだ。あんたにあたし達全員を相手にして勝ち目があると思うのかい?」

 

「無謀なのは承知の上だ。しかし、私はモモン様について行くために、強くならねばならないのだ。お前達全員を相手に勝てない様では、モモン様の足元にも及ばないだろう。」

 

「…そうですか。貴方がそのつもりであるならば、こちらは構いません。」

 

「おい!ラキュース。お前にはプライドってもんがないのかい。」

 

「ガガーラン。モモン様のテストで彼女の動きを見せて貰ったけど、剣術に関しては明らかに私よりは遥かに格上よ。そして、あなたよりも遥かにスピードは上だったわ。我々個人では彼女の訓練相手としては不十分という事なのでしょう。」

 ラキュースの言葉にガガーランは不満な顔をするが納得した。

 

「それでは、始めようか?」

 

「そうですね。それではこちらは魔法は一切使用しないで相手をさせて頂きます。」

 

「使用してもいいのだぞ。」

 

「いいえ。それでは余りにハンデを貰い過ぎです。」

 

「好きにするがいい。」

 そう言うと、レメディオスは剣を構える。

 青の薔薇のメンバーも皆、自分の武器を構える。

 

 そして、その場に、僅かな静寂が訪れる。

 

「いつでもかかってこい。」

 

「それでは、参ります!」

 レメディオスの言葉にラキュースが叫ぶ。

 

 すると、ラキュースとガガーランが同時にレメディオスへと駆け出した。

 最初にレメディオスの直前に到達したのはラキュースであった。

 ラキュースは、レメディオスの肩を突き刺すべく魔剣キリネイラムを突き出した。

 しかし、レメディオスにその剣筋を完全に読まれ、最小の動きにて躱される。

 その動きを見切ったガガーランは、刺突戦鎚を振りかぶり、レメディオス目掛けて薙ぎ払う。

 レメディオスの側面からガガーランの戦鎚が迫る。その間隔は、三十センチも開いてない程迫っていた。

 

(怪我しちまったら、後でポーションで治してやるよ。)

 レメディオスへの命中をガガーランは確信したガガーランは思った。

 

 しかし、次の瞬間、ガガーランの腕に痺れる感覚が駆け巡る。

 

 レメディオスがその戦鎚に比べれは遥かに細い剣で弾いたのだ。その剣筋は、白い光を放ち、レメディオスの体を一周する。

 戦鎚があと僅かで命中する寸前、レメディオスは体を一回転させ、自分の周囲一体を薙ぎ払う剣戟を振るった。

 その速さは、まさに光速。そして、その威力は、巨大なガガーランの戦鎚を弾き返す程の威力であった。

 戦鎚を持っているのがガガーランでなければ、戦鎚は弾きとばされていただろう。

 

 その剣戟に、後ろに回りこんで攻撃を仕掛けようとしていたティア、ティナが後退った。

 ガガーラン達も更なる剣戟を警戒し、後ろに飛び退く。

 

 レメディオスと一定の間隔を空けながら、前方にはラキュース、ガガーラン、後方にはティア、ティナが挟み込む形で皆、一時動きを止める。

 

「こいつは舐めてかかるとやられるな。さっきの動き見たか?あの攻撃スピードは人間の領域を越えてるよ。おそらく、武技〈流水加速〉を使用しているな。」

 

「ええ。他にも武技を発動させているかもしれません。」

 

「面白くなってきたじゃないか。」

 ガガーランの顔に笑みがこぼれる。

 

「なんだ?来ないのか?それではこちらから行くぞ。」

 レメディオスはそう言うと、背後のティア、ティナに一足にて飛び掛かった。

 

(青の薔薇のメンバーでは、この二人が一番速い。この二人の動きを捉えられないようではモモン様には一生追い付けない。)

 

 昨日、私はモモン様に今日の従者の任を解かれた。

 

 私は、モモン様に私は懇願した。

 

 しかし、それは叶わなかった。

 

 その時、モモン様は仰られたのだ。

 

「お前は要らない」と。

 

 その慈愛溢れる言葉に胸が熱くなった。

 

 モモン様は私の事を心配してそう仰られたのだから。

 

 モモン様を傷つけられる存在など、この聖王国にはいないだろう。

 

 それは、あのヴァンパイア共とて、同じだ。

 

 しかし、それはモモン様一人ならば、の話だ。

 

 モモン様に比べて我々は遥かに弱い。

 

 だから、モモン様は我々を配下にする事を拒んだのだ。

 

 モモン様は、我々の命を守ろうと。

 

 このままモモン様について行けば足手まといになる事は必然。

 

 そして、モモン様はその身を犠牲にして我々を守ろうとされるのだろう。

 

 だからこそ、レメディオスは、強く思った。

 

 (私が守るのだ。モモン様を。だから、強くならなくてはならない。モモン様をお守りできる程強く。)

 

 

 ティア、ティナの方向に駆け出したレメディオスは、ティアを補足する。

 そして、一瞬の内にティアの目前へと迫る。

 ティアは、その射程圏内から離脱しようと姿を消す。

 

 〈忍術……闇渡り〉

 これは、影から影への短距離転移を行うスキルである。

 ティアはそのスキルでレメディオスの背後へと廻った。

 そして、レメディオスの前方のティナと挟撃を仕掛ける。

 彼女達はレメディオスの腹部、背中に同時にその手に持っていたナイフを突き刺した。

 しかし、その挟撃はレメディオスの体に到達する前に、見えない壁に弾かれる。

 

 ティア、ティナはそれを確認するとすかさず飛び退き、レメディオスとの距離を空けた。

 

「何アレ?」

「おそらく、不落要塞。」

 

 ティア、ティナは次の攻撃に備えながら呟いた。

 

 不落要塞―武器の防護と受ける威力の無効化を行う上級スキルである。この世界で一部の天才のみが修得できると言われている武技だ。

 

「クッ、この体たらく、こんな事ではモモン様に呆れられてしまう…」

 レメディオスは、顔を歪ませて呟く。

 ティア、ティナの攻撃が見切れず、思わず〈不落要塞〉を発動させてしまった自分を責めた。

 

「おいおい。あれって人間か?」

 その光景を見ていたガガーランが呆れる顔をして言った。

 

「そうね。さすがは聖王国一と言う所ね。」

 

 その時だった。

 

―ドォォォォォォォォォン‼

 

 王都の市街地の方から爆発音が響く。

 

 そして、その後には市街地の中央付近から天に上る黒煙の狼煙が昇った。

 

「なんだのだ。あれは?」

 レメディオスは、その光景を見て言った。

 

「敵襲でしょうか?」

 ラキュースが続いて言う。

 

(今日は、モモン様が王都内を視察されている筈だ。もし、モモン様が狙われているとしたら…。モモン様にあの神々の武器を使用させる訳にはいかない‼)

 

 レメディオス達は、黒煙の昇る場所に向かって駆け出した。

 


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