SNSでの中傷 防ぐ手だては熟議経て
2020年5月29日 08時24分
フジテレビが「テラスハウス」の制作と放映中止を発表した。番組に出演し、会員制交流サイト(SNS)で中傷された女性が死亡したためだ。SNS上で起きる問題の克服には熟議が必要だ。
番組は、若い男女が共同生活する姿を追ったもので人間模様の展開が軸だ。フジ系列の地上波で放映され、インターネット上でも動画配信されていた。
番組に出演していた女子プロレスラーの木村花さん(22)は二十三日、遺書のようなメモを残して亡くなった。自殺の可能性が高い。木村さんは番組での他の出演者とのトラブル後、激しい中傷を受けるようになった。
同様の番組は米英などでも放映されている。SNS上の中傷で出演者が自殺に追い込まれたケースもあり、類似の問題が起きることは予測できたのではないか。番組中止はやむを得ない。制作側には猛省を求めたい。
この問題では高市早苗総務相が「匿名での中傷は許し難い。制度改正を含めスピード感をもってやっていきたい」と述べた。
SNS上の中傷削除や発信者の情報開示は「プロバイダ責任制限法」が規定している。しかし現状では裁判に訴えても時間や費用がかかり被害者救済がスムーズに行われていない。情報開示の簡略化を軸とした制度改正なら、一定の理解はせざるを得ない。
韓国でもSNSをめぐって芸能人の自殺が相次いでいる。二〇〇七年には十万人以上の利用者がいるサイトに実名制を義務付けた。だが韓国最高裁で違憲判決が出た上に効果も薄く廃止された。
民主主義社会では言論の自由が保障されており、SNS上での他者への批判投稿を完全に排除することは難しい。だからといって度を越した中傷や差別を野放しにすることは許されない。加害者の多くは相手のダメージへの配慮が欠けている。安易な意識での投稿が悲劇の温床となっている。
一方、SNSを通じて社会の不公正や権力の横暴が明るみに出るケースもある。発信者の情報開示が政権批判や社会を正す動きを封じることになってはならない。ルールを改正するなら、どういった場合に投稿者の情報開示を簡略化できるのか議論を尽くすべきだ。
SNSは災害などで人命を救うこともあれば命を奪うこともある「両刃(もろは)の剣」だ。権力の不要な介入を排除しながら使いこなす高度な知恵が求められている。
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