
【ワシントン=河浪武史】新型コロナウイルスで大打撃を受けた米経済は、外出制限の緩和で活動再開へ踏み出した。一部の州では飲食需要がゼロから5割まで回復し、最悪期は脱しつつある。ただ、過去10週間の失業保険の申請数は4000万件に達し、雇用悪化が止まらない。感染による米国内の死者は10万人を突破。感染第2波のリスクも拭えず、経済再生の道のりは長い。
ホンダなど自動車大手が生産拠点を置く南部アラバマ州。11日に外出制限を緩和し、飲食店の店内需要は徐々に回復してきた。予約サイト「オープンテーブル」のデータによると、5月初旬はゼロだった店内客は、3連休最終日だった25日に前年の5割まで戻った。経済再開で先行した南部のテキサス州やサウスカロライナ州も、客足はゼロから4割に戻った。
4~6月期の米国内総生産(GDP)は前期比年率換算で40%近いマイナス成長が予想される。28日発表した1~3月期のGDP改定値も、同5.0%減と、約11年ぶりのマイナス幅だった。7~9月期はプラス成長に戻りそうだが、足取りを把握するには「月次や四半期ではなく、日次や週次のデータが極めて重要だ」(国際通貨基金)。
ハーバード大とブラウン大の研究者は、全米の経済動向を日次ベースで算出している。新型コロナが拡大する前の1月初旬との比較で、4月初旬に33%減まで落ち込んだ全米の個人消費は5月10日には15.6%減まで持ち直してきた。外出制限を大幅に緩和したアーカンソー州は3.6%増とプラスに転換した。制限緩和を見送ったワシントン特別区は31.7%減と、個人消費は経済再開に大きく左右されている。
ホワイトハウスは「米景気は4月中旬が『底』で経済はこれから持ち直す」(ケビン・ハセット経済顧問)と主張する。ただ、多様な日次や週次のデータからみると、米政権が描くV字回復は思うように進まない。
例えば空の旅客数。米運輸保安局(TSA)が日次で集計する空港検査場の通過件数によれば、5月25日の旅客数は前年比86%減だった。95%前後の大幅なマイナスだった4月に比べれば「底」を打ったが、歴史的な低水準から脱していない。
米調査会社レッドブック・リサーチによると、週次ベースの大規模小売店の売上高は15日までの1週間で前年比42%減。消費者は百貨店のような人混みを避けており、米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は「ワクチンの普及などで消費者が安全を確信しなければ経済は完全復元しないだろう」と話す。
雇用情勢の悪化にも歯止めがかからない。米労働省が28日発表した失業保険申請数は、23日までの1週間で212万3千件と、前週(244万件)並みの高水準だった。新型コロナ感染が深刻になった3月半ば以降の10週間で申請者は4000万件を突破し、4人に1人が職を離れた計算になる。5月の失業率は20%超となる可能性がある。
経済活動の再開は新型コロナの感染拡大のリスクを伴う。外出制限の緩和で個人消費が持ち直してきたアーカンソー州では、15日に新規感染者数が292人と再び大幅に増加。ハッチンソン知事も「感染第2波に襲われつつある」と認める。
トランプ大統領は「米国は偉大な転換点にある」と、経済活動の再開を推し進める。11月の再選には、景気の立て直しが欠かせないからだ。ただ、調査機関オックスフォード・エコノミクスが経済情勢を基に得票率を予測したところ、同氏は35%にとどまり、民主党のバイデン前副大統領に惨敗するという。トランプ氏の焦りが拙速な経済再開につながれば、感染第2波で景気の復元は一段と遅れかねない。