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 新型コロナウイルスは、弱い立場の人々をさらに苦境に追い込む。紛争や迫害で住む家を追われた難民や国内避難民が、そんな悲劇に襲われ始めている。国際社会は、人間の命を守るための支援を続ける責務を忘れてはならない。

 ミャンマーの少数派イスラム教徒ロヒンギャが暮らす難民キャンプで今月、初めてコロナ感染者が確認された。隣国のバングラデシュにある世界最大級といわれるキャンプには、100万人以上が密集しており、爆発的な感染拡大が心配される。

 水や食料、トイレも不足する劣悪な環境は、コロナの影響でいっそう悪化している。バングラ政府はキャンプのある街を封鎖し、最低限の支援に絞った。国連機関やNGOも、国際的な移動や物流の制限、感染の危険などから、十分な活動が難しくなっている。

 ロヒンギャに限らない。中東やアフリカから欧州を目指す難民が収容されるギリシャのキャンプでも、感染が確認された。

 内戦が続くシリアでは避難先のキャンプでの感染を恐れ、破壊された故郷に戻る人が後を絶たないという。検査もままならない中では、難民の間での感染の実態すらはっきりしないのが現実だろう。

 もとより、増え続ける難民は国際社会が取り組むべき重要な課題だった。そこにのしかかったコロナ禍が、危機への対応を困難にしている。

 難民と国内避難民は、いまや合わせて7千万人を超す。その保護は国際法で定められた義務だが、難民の8割以上を受け入れているのは経済力の弱い中低所得国である。

 避難民が生まれるのは、紛争で政府が機能していない国が大半だ。医療体制が脆弱(ぜいじゃく)なうえ、国内の感染対策に追われ、難民対策に費やす余力はない。

 いま必要なのは、国連機関やNGOが現地での人道支援活動を続けられるように、国際社会全体で支えることだ。

 感染症に国境はなく、一つの国や地域で抑え込んでも不十分だ。別の地域で広まれば、感染の波が再び押し寄せる危うさを肝に銘じなくてはならない。

 日本はかねて人道支援に力を入れてきた。外交の柱に据える「人間の安全保障」は、国を問わず個々の人々の命と暮らしの保護に力点を置く。

 各国が自国第一主義に走るいまこそ、国際的な協力体制を築くための議論を主導したい。

 一方で日本は難民の受け入れが極めて少ないうえ、入管施設に収容された人々の処遇の悪さなども批判されている。国外だけでなく、足元を改善する必要があることは言うまでもない。

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