間借りカレーという名前はもう随分浸透してきている感があります。とはいえまだまだカレー業界に限っては、という括弧付きですが。それにしても最近ではメディアがその名前を使うことも多くあり、それによって知る人、興味を持つ人も爆発的に増えているはずです。
ひどく恐怖を感じています。
・カレーはブームなのか?
現在進行形でカレーブームというのはやはり続いているのかな、という感があります。
専門誌の季節ごとのいつも通り、毎年おなじみのカレー特集。とある専門誌では一度カレー特集をやらない事を考えた年もあったそうです。マンネリ、その気持ちもわかる部分があります。
一方、一般誌でのカレー特集のボリュームや内容が非常に質が高い年が何年か続いているという事実があり、それもカレーブームと呼ばれるものがある証拠なのではと考えます。去年の夏はおよそ食べ物、料理を扱うジャンルではないだろう、というような雑誌などが見事な特集を生み出したりもしていました。
・トレンドがあるの?
カレーのトレンドを教えてください、とテレビやメディアの出演時に言われることがあります。それこそ間借りカレー、ネパール料理、地方のカレーイベント、大阪スパイスカレーと数々あるのですが、わたしはメディアの方々が期待するような大きなトレンドはないと考えています。小さなはやりがさざなみのようにいくつもの場所で起こり、それが呼応しているのが今のカレー業界かな、と感じています。これはもう4~5年続いている感があります。
それとは別にトレンドなどという言葉では片付けたくない大きなうねりがやってきているのも事実。これはまた別に書きたいと思っています。
・アマチュアシーンの充実という要素。
そういう中で、いわゆるカレーマニアという人たちが存在します。調理、食べ歩き、各種研究、歴史検証等その幅は広いものがあります。
カレーという言葉。これはマジックワードなんです。
実は日本人の8割が考えるカレーのイメージは「内食」です。うちで作るもの、お母さんが作るもの、自分で作るものというのが多くの日本人の共通認識で、カレーを外食で食べるということをナンセンスだと感じ、理解を示さない層はまだまだ多いでしょう。
カレーの食べ歩きという趣味は都市部にしか存在しないジャンルです。ラーメンは個食、低価格(最近は色々になりました)、なおかつ自炊の場所にはありません。自宅に大型の寸胴鍋と高出力のコンロを持つのは趣味の範囲を超えることでしょう。インスタントラーメン等は別ジャンルと考えます。ちょうどその背中合わせにあるのがカレーだと考えています。
カレーマニアという人たちは世の中のそんな流れとは少し違うベクトルでスパイスを使う調理の面白さを知った層。専門書を手に入れて主にインドのスタイルのカレーを中心として調べ、作り、研究し、横でつながっていって食事会を開催したり独自の勉強会なども行われているようです。都市部を中心にたくさんのコミュニティが存在しています。専門書も本当にたくさん出版されています。
・マニアックな専門店、マニアックなメニュー。
そのような活況があり、なおかつ都市部という人口集中の場所でそれを当てはめてやると、普通の人が好むカレーライスというものとは違う、具体的にいうと固形ルウやカレー粉等の市販品をまったく使わないで、なおかつ一般向けとは少し違う方向を向いたカレー料理のニーズが少なからず存在することが浮かび上がってきます。そんなクセのある料理、カレーを出すマニアックな店なども、都市部、個人で小さくやるという条件であれば成立するようなマス、マーケットにもなっています。大変に面白い動きで、日本の食文化の変遷の中でもあとで特記されるような変化なのかもしれないと感じています。
・日本のインド料理の変化と「本物」とは何なのか論。
幸運なことにそういう流れの中でインド料理や南アジアから中央アジアまでの食に今まで以上に注目が集まっている現在の日本。大変に楽しい状況です。
わたしは個人的に「精神的鎖国」と呼んでいますが、外国や、日本の都市部への憧れを持たない人が増えているそうです。色々な理由があると思いますが、海外旅行に興味がない、都市部へ行く理由がない。そういう人達が多いそうです。が、しかし。わたしたちがいかなくても彼らはやってきます。わたしは自分の友人の1/3が外国人になるような時がやってくるとはよもや思っていませんでした。同年代の友人たちの子供はクラスに必ず外国人がいて一緒に遊んでいるそうです。
そういう時代、彼らは文化と食を持ってやってきます。外国人が経営、メニューも食べたことのないようなものが並ぶレストランは増えるばかりです。
カレーマニアの人たちはそんな中、「本物」を探し続けます。本物という言葉を使い、なんとかして現地そのものの料理を得ようと動き回ります。しかし努力虚しくその思いはなかなか叶いません。なぜならここが日本で、彼らにはインドの空気とインドの水、水っぽくない果肉の厚いトマトや牛糞を使うコンロや彼の地の川で泳いでいる生きた川魚を手に入れるすべがないからです。
・自由を手に入れた日本のインド料理。
そんなことをしている間に日本にやってきたインドのコックさん達は日本のトマトと東京ガスのコンロと水道水で「本物」を作り上げます。そして当たり前として日本の食材にベストな調理調整とその店で一番たくさんきてくれる日本のお客さんの層に合わせたおいしいカレーを作り出します。それはインド人コックさんのオリジナルであるとともに「本物」と呼ばざるを得ない、そして新しいよいものとしてこの地日本で受け入れられ、進化していきます。
著名な料理家ももちろんそんなことは承知で、時代に合わせてどんどん勉強をし、研鑽を続けて「彼らの本物」を生み出します。情報が少なかった時代に自らが情報を取りにかの地に渡り、苦労して手に入れた価値ある手法やノウハウ。それを売りにした時代は終わり、しかしその土台を持っているからこそ生み出せるものを持ったまま、なお研鑽を積んだ料理家だけが時代に取り残される事なく今、その真価を見せてくれています。わたしの友人にはそういう尊敬すべきスタンスの料理研究家が何人もいます。
そんな幸せな進化を続ける日本のカレー。
そして迎えた間借りカレーの時代です。
・間借りカレーというもの。
ここまでの流れがあっての「間借りカレー」というスタイルの台頭なのかな、と思っています。
「間借りカレー」とても楽しいものです。ただね、これから。あしたからどう進むべきなのかな。
ここまでの間、例えば料理人になるにはむかしは辻調に行く、営業店に修行に入る、などの方法がありました。最近だと料理研究家から転身する方もいるようです。逆もありますね。そして間借りカレーという道が新しく生まれました。
大阪では色々な国の料理や色々な店に影響を受けながら創造的で面白いカレーがたくさん生み出されました。聞くところによると大阪スパイスカレー、間借りのお店も含めたシーンではもう三世代目が登場する活況のようです。
そんな中で考えることがありました。彼らの中には少なからず大事なものが欠けているひとがいるのではないかと、少し心配になっています。それはすごく大事なものです。
色々な条件や色々な経験を持ってお店の間借りをして営業を始める方達。中には飲食の経験がない人も多くいると聞きました。
初めはそっと、仲間内だけで話を回して友達が食べにくるという可愛いものでした。ところが最近のようにメディアからもスポットが当たるようになります。そういうのは嬉しいことじゃありませんか。みんな嬉しい。そしてその翌日から知らないお客さんがたくさんやってくるようになります。ここから彼らは 未体験のゾーンに入って行きます。
見知らぬ人への接客。恐る恐る接客する相手はその人のことをこのあいだまで素人で、友達にご馳走しているようなアットホームな雰囲気を大事にしている人だとは知りません。だってそのお客さん達は友達ではないから。お客さん達は彼らのことをプロとして扱います。プロなのだから安定した味を、プロなのだから素早いオーダー受付を。プロなのだから値段に見合った味を、サービスを。
今度は違う顧客さんがきました。眼光鋭い物言わぬ客。同じ業種のプロです。同じプロなのにこの接客?同じプロなのにこの味?同じプロなのにこの内容でこの値段?取れないだろ、そんな値段。こんなんじゃ。そう言われるかもしれません。いえ、そんな親切なことはわざわざ言ってくれません。「そのうちつぶれるだろう。ほっておけ。」そう思っているかもしれません。
なぜか。なんでなのか。
なぜなら「間借りカレー」だろうがなんだろうが、お店というステージに上がったらその人はもうプロとして扱われ、それ以外の選択肢はないからです。それ以外ではない。プロなのです。
接客も知らねばならない。料理がなぜこの値段でこの内容か、問われれば納得させられる答えを用意せねばならない。法律や条例、決まり事を全て守らねばならない。税金も払わねばならない。何より懸念しているのは自分が何かミスをすれば借りている場所の家主に甚大な被害を与えてしまうこと。それを知って、責任を取る用意をして、その上で仕事をしなければならない。近所への配慮、お客の安全、清掃、衛生管理。
やっていることがプロと同じこと=店をやること、これを続けるならプロであり、当たり前ですが全てをやらねばいけない。そうですよね。
・決まり事があるならそれを守る。
・決まりごとは誰も教えてくれないから自分で学ぶ。
・自分ではない人の体の中に入っていくものを作っているということをいつでもはっきりと意識する。
ここが入り口。ここから始まります。味という話はもっとずっと先に進まないと出てこないものだと考えて始めるといいのかもしれません。
こんな言葉をSNSに投げました。そこから始まって、もやもやと考えていた「間借りカレー」のこと。それがこのエントリーを書くきっかけでした。
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カレーが好きとかあのシェフの仕事を間近で見たいとか言ってる人。その前にやることがあるでしょ。ホールを任されたらその仕事を完遂しなさい。あなたが崇拝するシェフの大事な店を毀損してどうするの。あなたの勉強なぞそのあとでしょ。しっかりしなさい。
#カレーツーリズム #カレーダンニャバード #カレーですよ
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たべあるきオールスターズ「食べあるキング」に参加しています。
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