京アニ放火逮捕 真相の徹底的な解明を
2020年5月28日 08時12分
三十六人が死亡した昨夏の京都アニメーション放火殺人事件で、重いやけどを負った青葉真司容疑者が回復し、殺人容疑などで逮捕された。本格聴取がようやく始まる。真相の徹底解明を求めたい。
理不尽な事件だった。京都府警によると、青葉容疑者は昨年七月十八日午前、京都市伏見区の京都アニメーション(京アニ)第一スタジオに玄関から侵入し、ガソリンをまいて火を付けたとされる。
鉄筋三階建てのスタジオにいた社員七十人のうち三十六人が死亡、三十三人が重軽傷を負った。各地から被害者への義援金として三十三億円余が寄せられた。
京アニの作品は、中高生の日常などをみずみずしく描き、国内だけでなく、アジアや欧米でも高い評価を得ていた。犠牲になったのは、日本のアニメ文化を支え続ける才能の持ち主たちだった。
青葉容疑者は事件直後に身柄を確保されたが、重いやけどで入院し、解明の開始は遅れた。府警が事件の二日後に取った逮捕状の執行は、勾留に耐えられる程度に体調が回復するまで待たざるを得なかった。新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言の完全解除を待つ必要もあった。
任意の事情聴取は行われた。昨年十一月、入院中の病室でのことだ。その際、青葉容疑者は「事件の三日前に、さいたま市のアパートを出る時から殺意があった」と計画性をにおわせた。
ガソリンやハンマーなどを用意して同スタジオへ向かったことが捜査で分かっており、聴取では、「いちばん大勢が働いている第一スタジオを狙った」などと大筋で容疑を認めたという。
聴取では、「(自分が応募した)小説を京アニに盗まれた」と、動機めいた供述もしたとされる。しかし、弁護士不在の簡単な任意聴取であり、今後本格的に進められる事情聴取で、動機や犯行態様を完全に解明してほしい。
ただ、被害者数が多く、容疑者の体調は万全ではない。介護を受けながらの聴取となり、長期化は必至だ。殺人罪などで起訴されれば裁判員裁判の対象。一般市民がこの異様な犯罪に向き合うことになる。供述の任意性が十分に担保される捜査も求めたい。
警察庁によると、京アニ事件は「犠牲者数では平成以降最悪の殺人事件」だという。日本が誇るアニメ文化を築き上げてきた人たちが巻き込まれたこの事件には、諸外国の関心も高い。公明正大で綿密な捜査を望む。
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