第三王女の婚約者   作:NEW WINDのN

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密と蜜

 

「何? ラナー達が向かったのは海の方だと?」

 報告を聞いたバルブロは首を傾げ、不思議そうに義理の父であるボウロロープ候を見る──いや、わかるように説明しろと目線で訴えているのだ──自分で理解出来ないこと、やれない事は人任せ。バルブロはそうやってこれまで生きてきた。教師の出した課題も全て丸投げ。その結果が今のバルブロなのだ。

 

(やれやれ、もう少し賢いとよいのだがな。まあ、頭が悪い方が操りやすいからヨシとするか·····)

 ボウロロープは心の中で娘婿に呆れつつ、自身の野望のためにはちょうどよいとほくそ笑む。勿論七大貴族筆頭であり、貴族派閥の長である彼は顔には一切ださない。貴族社会を生き抜くには腹芸など、アフタヌーンティーのスコーンのようなものだ。そう必須であり当たり前の事だ。

 

「複数の報告が入っているから間違いないだろう。私も、てっきり噂通りにバハルス帝国へ向かうと思っていたが。だから、その為にまず国境に近く、またナザリック候の領地でもあるエ・ランテルへ向かうと思っていたのだが、アテが外れたな·····」

「·····噂は噂でしかないのか?」

 バルブロは苦虫を噛み潰したような顔つきである。それもそのはず。今、王都に流れている噂は、彼にとっては最悪のものだ。今までバルブロに媚びを売ってきた貴族や商人達は、皆揃いも揃ってあっさりと手のひらを返すように姿を見せなくなった。

 

「くそっ! あやつら、ふざけやがって!」

 その代わりにやってきたのは、出世払いを期待していた商人達からの"請求書の山"である。 後払いにしていたのだから請求書が来るのは当然だが、量が尋常ではなかった。バルブロの歳費だけではまったく足りない。如何に贅沢をしていたのかわかろうものだが、バルブロにとっては日常であり擦り寄ってくるのが当たり前。返す必要などないと思っていた。

 勿論、王位を継いだ後はそれなりに便宜をはかるつもりではいたが。

 ちなみに、中にはご丁寧に利息までつけてくる者もおり、バルブロの王位継承はないと判断されたのは間違いがない。

 

「最近の王は、肩の荷がおりたようなリラックスした雰囲気をしておる。そして、瞳には何か決意めいたものを秘めているからな。噂はあながち否定できんぞ。ちなみにザナック王子やナザリック候には変わったところはないがな·····」

「うむむ·····それにしてもザナックが後継とは許せん。絶対に阻止する。認めないぞ!」

「当然だ。ザナック王子には良くない血が混ざっているからな。血の尊さが違う」

「この俺様こそが正統なる後継者なのだ。ザナックなど相手にならん。ましてや王族でもないナザリック候が後継など、父が認めても俺様は絶対に認めん。絶対に許さん」

 バルブロは大声を張り上げ、ドンと床を乱暴に蹴る。

 

「それは私も同意見だ。奴はいけ好かんからな。·····それにしてもエ・ランテルを通らないのは好都合ではないか? 供回りもほとんど連れていないお忍び旅だ。援軍が有り得るエ・ランテル近郊よりも、辺境の方がよいだろう」

「·····さすがだ」

「そこで·····」

「ふむふむ」

 どうやら二人の密談は続くようだ。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 そして、サトルとラナーは·····。

 

「サトル! 海ですよ、海っ!」

 珍しくテンションの上がっているラナーがいた。ちなみに彼女は、白いワンピース姿だ。ノースリーブからのぞく白い肌がとても眩しい。

 

「あ、ちょ待てよ·····」

 いつか"カッコイイセリフをまとめた本"で読んだカッコつけたセリフ回しをしてみたが、ラナーは聞いていない。履いていたヒールを投げ捨て裸足で浜辺を海へと駆けていく。

「だいたいそうやってはしゃぐと·····転ぶ·····ああ、言わんこっちゃない!」

 悟は後ろから追っていたが、その目の前でラナーはつんのめってしまった。

「きゃああっ」

 可愛い悲鳴を上げながら、ラナーは空中で前回りに一回転半。いわゆるローリングセントーンで海へと尻からダイブ! 

 

 ザッパーン! 

 

「いったああっ」

 お尻を擦りながら立ち上がろうとするラナー。

「ヴッ·····」

 悟の欲望の証が首を持ち上げ始める。

(下着·····透けてるし·····)

 白いワンピースの下にはピンクのフリルつき下着が透けて見える。

「サトルのエッチ。見てないで助けてくださいませ」

 ラナーは、ポチャンとまた上げかけた体を海に戻し、プウッと頬を膨らませながら右手を差し出す。

 

「あ、ごめん·····」

 悟は慌てて駆け寄り、差し出された手を握った。

「えいっ」

 しかし、それは罠だった。ラナーはその手を思いっきり引っ張って、悟を海へと引き摺り込む。

「うわわわわっ」

 顔面から海へと突っ込んだ悟は海水を飲み込んでしまった。

「うわっ、しょっぱい! ·····あれ、塩辛くないぞ·····」

 海水なのに、淡水である。何故かはわからないが。

「サトル、海の水はしょっぱくはないですよ」

「あれ、しょっぱいと聞いてたのに·····」

「騙されたのね。可哀想な、サトル」

 ラナーは、ずぶ濡れになった愛しい人をぎゅっと抱きしめ、そして唇を重ねた。

「ラナー·····」

 悟は、何か言いたげにしつつ口篭る。

「なに、サトル。言って?」

「う、うん。美女がビジョビジョだな·····と」

 普通なら冷たい空気がブリザガるところだが·····。

「なにそれ、サトル。おもしろーい。クスクス」

 ラナーは笑ってくれた。

「ああ、ラナーはなんて良い子なんだ」

 悟はラナーを抱きしめ、口づけを返した。

「あん、サトルのバカぁ·····どこ触ってるのよ

 ·····」

 自然とそんな甘い雰囲気になる二人·····。

 

 このまま甘い新婚旅行となるだろうか·····。

 






何とか間に合いました。
時間があまり取れず、最近の数話は少し短めになっております。
不定期に厚みをもたせるよりは、週一更新を守りたいそんな感じでございます。

また次回よろしくお願い致します。

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