台風15号上陸から半年 農業被害 爪痕深く
2020年3月9日 02時00分
昨年九月の台風15号が県に上陸してから九日で半年。大規模停電や断水などのほか、第一次産業にも甚大な被害をもたらした。農業では強風で倒壊したビニールハウスの復旧が遅れ、就農再開が遅れている人もいるなど復興は道半ばだ。 (中谷秀樹)
成田市久井崎でサツマイモの栽培や育苗を営む五木田寛治さん(69)は、台風15号で所有するビニールハウス三十四棟のうち三十二棟が倒壊や破損。県内では珍しいサツマイモの苗を育てるためのハウスで、全国のホームセンターや農家に年間二百万本出荷している。出荷時期は五~六月で作物被害はなかったが、「この仕事は自然のリスクは避けられない宿命だが、これほどひどい被害はなかった」と振り返った。
業務用ハウス一棟の設置費は中型(幅四・五メートル、長さ五十メートル)で百二十万円ほど。五木田さんは銀行に千八百万円の融資を取り付け、年明けから再建や修繕に当たり、三月中旬からの育苗シーズンに間に合わせた。国や県などの復旧支援策で費用の八割程度は助成される見込みというが、四百万円ほどは自己負担となる。
県によると、台風15号の農業被害のうち、ビニールハウスなどの被害は四百九十ヘクタールで約二百三億円。八街、富里、旭各市など内陸部が多かった。県は被災農家を支援するため、ハウスやガラス温室などの再建や撤去費用について、国の三割~五割の補助に県と市町村が上乗せする形で最大九割負担。防災対策でハウスの金属パイプを太くするなど補強費について国と県で費用の半額を助成すると決め、予算二百六十九億円を計上。昨秋から市町村を窓口に申請を受け付け、九千件を想定している。
ところが、支援の効果は十分に行き届いていない。県内最多で五千棟近くのハウスが被害を受けた八街市は、助成を希望する四百件のうち、現時点で申請に必要な見積書の提出は百程度にとどまる。同市農政課は「金属パイプなど資材不足や、依頼殺到の設置業者がパンク状態になるなど、複合的な理由で復旧計画が固まらない人が多い」と説明した。
八街市は全国有数のスイカの産地で、特にハウス栽培は出荷が五月と早く高値が付く。だが、今年はハウスの苗植え時期に再建が間に合わず、他産地と競合する露地栽培のみとする農家も複数いるという。市の担当者は「今年の作付面積は減り、生産者の収益も落ち込むだろう」と声を落とした。
他の作物でも同じ傾向がみられ、JA山武郡市(山武市)によると、農家から「ハウスを再建できず稲の育苗ができない」といった窮状が訴えられている。五木田さんは「自分の場合は苗を待っている顧客の存在が原動力だったが、金銭面の負担で農業を諦める人も出てくるだろう。後継者不足にも輪を掛けるのでは」と複雑な表情を見せた。
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