香港国家安全法 「一国二制度」を葬るな

2020年5月27日 08時55分
 中国政府は香港の社会統制を強める「国家安全法」の制定に乗り出した。香港の自由と民主主義を完全に踏みにじる危険な試みだ。中国が国際公約した「一国二制度」を葬り去ってはならない。
 香港に「国家安全法」を導入する議案は、北京で開催中の全国人民代表大会(全人代=国会)で提案され、閉幕日の二十八日にも可決される見通しだ。
 李克強首相は全人代の政府活動報告演説で、中国は「香港が国家安全を守るための法制度・執行メカニズムを確立し、(中国の)憲法で定めた責任を香港政府に履行させねばならない」と述べた。
 しかし、そもそも香港には憲法に当たる基本法があり、大陸の法制を適用するには香港立法会(議会)の議決が必要だと規定されている。これに対し、李発言は、中国の決める法制を香港に適用し、直接介入すると宣言したものだ。
 国家分裂や外国による干渉などに関与すれば処罰するとの内容も含む法案が採択されれば、中国の圧力ですでに形骸化している香港の「高度な自治」は息の根を止められることになる。
 香港の民主派議員らが「これでは一国一制度になってしまう」と反発したのは、杞憂(きゆう)ではない。だからこそ、新型コロナウイルスの感染拡大後、デモが沈静化していた香港で二十四日、数千人が参加する大規模デモが起こった。
 法案には別の危険性もある。中央政府が国家の安全を守る執行機関を香港に置けると規定していることだ。中国紙・環球時報は、スパイ取り締まり担当の中国国家安全部が香港に駐在するという香港の法律専門家の見方を報じた。
 その通りならば、共産党独裁の大陸と同様、香港でも政治活動や言論の自由が完全に失われる。
 新型コロナ対応を巡り極度に険悪化している米中関係へのさらなる悪影響も懸念される。オブライエン米大統領補佐官は「香港へ国家安全法制を導入すれば、米国は中国と香港に制裁を科す可能性がある」と、強硬姿勢を示した。
 米国は「一国二制度」を前提に、香港に関税やビザ発給などで優遇措置を与えてきたが、ポンペオ米国務長官は、その見直しにも言及した。このままでは、香港経済への打撃も大きい。
 何よりも、「一国二制度」は香港住民だけでなく、世界に向けた約束でもあった。中国はその原点に立ち戻り、香港を抑圧する法案を撤回すべきである。

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