台湾総統2期目 中国「優位性」への挑戦
2020年5月25日 02時00分
台湾の蔡英文総統の二期目がスタートした。蔡政権は新型コロナウイルス対策で成果を上げ、国際社会で存在感を高めた。民主的価値を守りながら中国との対話をどう進めるか、手腕が問われる。
中国が将来の台湾統一を視野に香港で導入した「一国二制度」について、蔡氏は二十日の就任演説で「受け入れない」と、従来通り拒否する姿勢を明確にした。
前任の馬英九政権が中国寄りすぎる政治姿勢だっただけに、蔡氏が「日米欧などの基本的価値観を共有する国々との関係を強化する」と、民主主義を重視する考えを明確にしたのは心強い。
共産党支配の中国との統一は明確に否定しながらも、蔡氏の基本政策は中台の「現状維持」であり、中国との対話促進である。
中国の圧力により、台湾と外交関係がある国は十五にまで減っている。だが、東アジア情勢安定のため、「現状維持」政策を堅持するのは賢明な選択である。
中国が香港の民主化運動を力で抑え込んできただけに、中華圏で香港と並ぶ「民主の拠点」である台湾への期待が高まっている。実現しなかったが、中国が強烈に反対する台湾の世界保健機関(WHO)へのオブザーバー参加でも、日米はじめ国際社会が支援した。
二期目の蔡政権が注目されるのは、中国が一党支配の「制度的優位性」と誇るような強権的な手法を用いずに、コロナ感染拡大を封じ込めた手腕への評価も大きい。
二〇〇三年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の流行を教訓に、蔡政権は複数の公衆衛生専門家を閣内に配置しており、彼らに感染抑止の指揮をとらせた。
蔡政権は、一月二十三日の中国の武漢封鎖に伴い武漢直行便を停止。中国全土からの入境禁止は日本より一カ月も早く、二月初旬に始めた。政府の指示により、民間企業も一月には消毒やマスク着用を従業員に徹底していた。
こうした迅速な措置を支えたのが、複数の台湾メディアが昨年末にいち早く「武漢で原因不明の肺炎発生」を伝え、警鐘を鳴らしたことである。中国の情報隠蔽(いんぺい)が感染拡大を招いたのとは対照的に、言論の自由が多くの台湾人の命を救ったといえる。
台湾のテレビ局による世論調査では、政府の新型コロナ対策に「満足」との回答が九割を超え、蔡氏の支持率は61%だった。経済再生などの課題もあるが、強い支持を追い風に、民主的な台湾を発展させる挑戦を続けてほしい。
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