黒川検事長 辞職で幕引きするな
2020年5月22日 02時00分
賭けマージャンが週刊文春に報じられた黒川弘務・東京高検検事長が辞表を提出した。前例のない定年延長の当事者だった。同様の規定を入れた検察庁法の改正も、もはや政府は断念すべきである。
政権の見識も問われる問題といえる。緊急事態宣言下で、黒川氏は産経新聞記者と朝日新聞社員と賭けマージャンをした-こんな週刊文春の報道を黒川氏は法務・検察の内部調査で認めた。
森雅子法相は訓告の処分をしたが、比較的軽い処分だ。果たして国民の納得は得られるか。森氏が「賭博罪」の言葉を用いたように、刑事責任もありうる問題だ。検察官は起訴・不起訴の権限を振るう。不問に付すに等しければ今後、同種の賭博事件は起訴できない-そんな覚悟を持って、検察は厳正に調べるべきである。
さらに大きな問題は、やはり定年延長である。検察庁法では六十三歳で退官する旨を定めている。人事院も国家公務員の定年延長の規定は検察官に適用されないとしてきた。解釈の余地がない確立した規定だったはずである。
ところが、政権は一月末、黒川氏の定年延長を閣議決定した。法学者らは「違法」の疑いを指摘したが、首相は「解釈の変更だ」と。むろん、それだけで異様な人事が合法になるはずがなく、定年延長の規定を入れた検察庁法改正案によって「後付け」で整合化を図ったとされる。
そもそも政権が認めた人物に限り、定年延長をする「特例」を設ければ、おのずと政権に忖度(そんたく)する検察官も現れよう。恒常的に指揮権を発動しているようなものだ。あまりに危うい。
法案は既に先送りが決まり、黒川氏の人事の「後付け」すらできなくなった。にもかかわらず政権は依然、「特例」人事の法案をあきらめていない。政権が法の趣旨を曲げているのは明らかだ。かつ法相は定年延長の対象者が黒川氏以外にいなかった旨を国会で認めていた。ならば、これを機に法案の撤回、断念を強く求めたい。
検察ナンバー2の前代未聞の不祥事である。黒川氏が定年を過ぎてもその要職にいたのは、まさに政権による強引な“人事”によるものだった。つまり首相をはじめ内閣の責任は大きい。
閣僚らの不祥事のたびに「任命責任」の言葉を使う首相が一度もその責任を果たさないのは不可思議である。これほど明白な任命責任はないのだから、今度こそ、そのけじめをつけねばならない。
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