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 コロナ禍による授業の遅れをどうやって取り戻すか。文部科学省が先週、基本的な考え方を全国の自治体に示した。

 積み残した学習内容を次年度以降に繰り越してもよい旨を明記した。年度内の完了が原則としつつも、柔軟な運用に道を開く内容だ。かねて社説で主張してきたこととも重なる。

 大半の自治体が夏休みの短縮を考え、なかには2週間程度にまで削る予定のところもある。真夏の教室で感染症と熱中症の双方に備えるのは容易ではないし、児童生徒や教職員の疲労も気がかりだ。今回の通知の趣旨を踏まえ、無理のない授業日程を組んでもらいたい。

 土曜授業や7時間授業を検討している自治体もある。やむを得ない場合もあろうが、過度な詰め込みは子どもたちの理解の深まりを害する。所定のコマ数を消化することを目的とするような編成は避けるべきだ。

 今回の措置でも残る大きな問題がある。「繰り越し」の利かない最終学年への対応だ。通知は、分散登校を行う場合には他学年より手厚くするよう求めるが、それにも限界がある。

 入試も立ちはだかる。文科省高校入試について、▽地元の中学の授業進度をふまえて出題範囲を定める▽生徒が解答する問題を選べる出題形式を採り入れる、などの工夫を例示している。大学入試にも何らかの指針が必要ではないか。

 実施時期はどうか。窓を開けられない冬に密閉・密集を避けて長時間の試験を行うのは難しく、感染の第2、第3の波の到来もありうる。会場が用意できるかを早急に調べ、春先にずらすことも検討すべきだ。それは授業時間の確保にもつながる。

 大学の推薦入試などについては、萩生田光一文科相が選考を遅らせる必要性に言及した。そうでなくても現高3生は入試改革の迷走に振り回され、大きな負担を強いられた。一般入試を含む全体方針を速やかに示し、落ち着いて準備できる環境を整えるのが大人の責務だ。

 先週の文科省通知には、もうひとつ大きな特徴がある。

 授業は実習や協働学習に重きをおき、個人でできるものは家庭学習に回すとの考えを打ち出したことだ。時間数が限られるなか、内容の取捨選択が必要なのはわかる。だが、自学自習できるかどうかは家庭環境に大きく左右される。コロナ禍は経済の低迷をもたらし、多くの保護者は余裕を失っている。

 退職した教員や教育NPOの力を借り、インフラ整備を急いでオンライン学習も活用する。厳しい境遇にいる子を中心に、「学びの保障」を確実に実現しなければならない。

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