京都アニメーションのスタジオ(京都市)で2019年7月に起きた放火殺人事件で、京都府警は27日、無職の青葉真司容疑者(42)を殺人などの疑いで逮捕した。青葉容疑者は重いやけどを負って入院していた。府警は医師の助言などから勾留に耐えられる程度にまで回復したと判断した。放火による火災では平成以降で最悪となった惨事は発生から10カ月余りで容疑者の逮捕に至った。
具体的な動機の解明が捜査の焦点となる。京都府警は取り調べを本格化し、事件の全容解明を目指す。
京アニは「涼宮ハルヒの憂鬱」や「映画 けいおん!」といった若者の青春を描く作品が人気を集め、国内外で高く評価されている。フリーランスが多いとされる業界にあって従業員を長期で雇用し、人材育成にも力を注いで日本のアニメをけん引してきた。
アニメ制作会社が東京に集中する中、妥協のない精緻な仕事ぶりで知られ、事件後は国内外から33億円超の義援金が集まるなどファンから愛されている。京アニはアニメーター養成塾の再開や新作映画の制作など再建に向けて歩みを進めている。
逮捕容疑は19年7月18日午前10時半ごろ、京アニの第1スタジオに侵入。ガソリンをまいて放火し、36人を殺害、34人を殺害しようとするなどした疑い。当時、スタジオ内には約70人の社員がいたとされ、33人が重軽傷を負った。
27日午前11時から記者会見した府警幹部によると、青葉容疑者は容疑を認め、「ガソリンを使えば、多くの人を殺害できると思い実行した」と供述したという。
青葉容疑者は発生直後に現場近くで身柄を確保され、府警は事件直後に殺人や現住建造物等放火などの容疑で逮捕状を取っていた。府警は青葉容疑者の容体が安定してきたほか、新型コロナウイルスに伴う政府の緊急事態宣言が解除されたことなどを踏まえ、逮捕に踏み切ったとみられる。
放火された京都アニメーションのスタジオ(2019年7月、京都市伏見区)
捜査関係者によると、これまで府警は青葉容疑者を任意で事情聴取。容疑を大筋で認め「どうせ死刑になる」「いちばん多くの人が働いている第1スタジオを狙った」などと話したという。
青葉容疑者は身柄を確保された際、「小説を盗まれた」と話していた。その後、事件前に複数の小説を京アニに応募していたことが判明。さいたま市見沼区の自宅アパートの家宅捜索では、京アニ関連の書籍や色紙などを押収しており、京アニとの接点を調べてきた。京アニ側は青葉容疑者の応募作品と同社の作品の間には「類似性はないと確信している」と説明している。
青葉容疑者は事件前、京アニ周辺で下見を繰り返したとみられるほか、身柄を確保された際には包丁を数本持つなど犯行の計画性がうかがえる。府警は青葉容疑者が京アニに一方的な恨みを募らせていたとみており、詳しい動機を調べる。責任能力についても調べる方針だ。