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日本野球よ、それは間違っている!

2020.05.23 更新 ツイート

高校球児は夏の甲子園中止をチャンスに変えろ広岡達朗

夏の甲子園大会が中止になった。今年の高校野球は春のセンバツも中止になったが、夏の全国選手権大会の中止は戦後初めてだ。

新型コロナウイルスの感染拡大で発令された緊急事態宣言は、5月22日時点で、甲子園球場がある兵庫県をふくむ2府40県で解除されている。しかし大会が開催されれば、各地の選手たちが甲子園球場に移動し、最長で約3週間の集団生活を送ることになる。高野連は選手や多くの関係者の感染リスクを考えて中止に踏み切ったのだろう。

 

これについて、各方面から「甲子園を夢見て頑張ってきた高校球児がかわいそうだ」と同情の声が挙がっているが、高校は野球だけを学ぶところではない。勉強が主体の基礎教育の場だ。

ところが最近の野球強豪校は野球が主で、勉強をおろそかにしているところが多い。私の知人の息子も大学付属の私立高校で野球部に入っていたが、部員は午前中だけ授業を受け、午後は日没まで練習だったという。とくに全国各地から少年野球のエリートが集まる甲子園常連校では、ほとんどが寮生活の野球漬けだ。高校は野球をするところで、勉強は二の次だったはずである。

だから夏の甲子園大会中止は、本来の高校生活を取り戻すいい機会だ。監督も選手も、春からの部活自粛でこれまでの勉強不足を取り戻し、真の高校生活とは何かを再認識したらいい。選手たちは甲子園に行けなくても、しっかり勉強すれば大学で活躍できる舞台はいくらでもある。

高野連はゆがんだ“聖地”の抜本改革に取り組め

そして高野連には、今回の苦渋の決断を機に「高校野球のあるべき姿」をじっくり考えてもらいたい。私がこれまで著書やこの連載で書いてきたように、全国各地に散在する野球強豪校の越境入学を禁止し、地域出身選手による郷土の代表が深紅の大優勝旗を争奪するという甲子園大会の原点に戻るべきだ。

こんなことをいうと「私立高校はどこから選手を集めても自由だ」とか「野球の発展を妨げる」と反論が出るだろうが、そんなことはない。高校野球が私立高校の広告塔になってはならないし、監督が正しい野球をしっかり教えれば、地元出身選手だけで強いチームを作ることはできる。

夏の甲子園大会中止を、新型コロナ対策の緊急措置だけですませてはならない。ここは一度立ち止まり、球児の聖地・甲子園大会の問題点を根本から見直すチャンスにすべきだ。

甲子園を知らない名選手はたくさんいる

一方で、夏の甲子園中止でプロ野球のスカウトたちがガッカリしているという報道があった。「甲子園大会の結果を見極めてからドラフト指名の順位を決める予定だったのに」というのだが、そんなスカウトは間違っている。

スカウトは全国を歩いて少年野球から素質のある選手を発掘し、その成長を見守っている。甲子園の結果を見なければ選手の力を見抜けないようではスカウト失格である。

第一、甲子園に出た選手が優秀で、出ない選手は二流というのも間違っている。どんなにいい選手でもチームが弱ければ甲子園に行けないし、地方予選敗退組でもプロ野球で活躍した選手はたくさんいる。金田正一、長嶋茂雄、稲尾和久、野村克也、張本勲、落合博満、江夏豊……数えればキリがないし、私も県立呉三津田高校時代は地区予選の決勝戦で負け、あと一歩で甲子園に行けなかった。

プロ野球はこの機会にCSを廃止しろ

プロ野球は6月末までの開幕をめざしている。だが緊急事態宣言が全面解除され、全国的に収束してからとなれば7月開幕も難しいかもしれない。昨年までならオールスター戦が終わる7月中旬から後半戦だから、前半戦が中止になった今年は事実上、後半戦だけのペナントレースになる。

すでに交流戦やオールスター戦の中止が決まっているが、この際、ポストシーズンのCS(クライマックスシリーズ)も永久に中止にしたほうがいい。新型コロナ対策の応急手当で日程をやり繰りするだけでなく、リーグ優勝チームが日本シリーズに出場できないような間違った制度を根本から見直すべきだ。

同じように選手たちも自主練習で開幕を待つだけでなく、今回のコロナが何を教えているかを考えなければいけない。私が若い頃から師事してきた実践哲学者で思想家の中村天風さんから学んだように、人間は生まれたときから外敵に抵抗する免疫力と、自分で病気やケガを治す自然治癒力を持っている。

しかしどちらも、加齢とともに弱くなる。新型コロナの感染者も中高年のほうが若い人より重症化する傾向にあるのも、高齢で体力が衰えたり、持病のリスクがあるとウイルスに対する抵抗力が弱くなることの表れだろう。

生活改善で「コロナの教訓」を生かせ

並外れた体力を誇るプロ野球選手も、若いうちは深夜まで飲み歩いても平気だが、年を重ねるととともに体力と技術が衰え、引退後に不摂生のツケが回ってくる。

私が西武の監督時代、選手たちに玄米などの自然食をすすめ、キャンプや遠征の宿舎で禁酒にしたのも、生活改善によってできるだけ長く現役生活を続けてもらいたかったからだ。

いま選手たちは外出を控え、自主練習を続けながら開幕を待っている。だが緊急事態宣言が全面解除され、公式戦が始まってもこれまでのような自粛生活を続けることができるだろうか。

3月末に阪神の3選手が新型コロナに感染したように、プロ野球界はファンに招待される会食や飲み会が多い。今後ペナントレースが開幕しても、夜の宴会を自粛することが自分の野球人生を守ることになると肝に銘じなくてはならない。

そしてこれは野球界に限らない。医療に頼るだけでなく、自分の命は自分の生活改善で守る覚悟を持たなければ、苦しかった「コロナの体験」を無駄にすることになる。

 

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第2章 達人たちの神業――投手編
●杉下茂 絶対ストライクゾーンに投げなかった「元祖フォークボール」
●稲尾和久 日本シリーズで巨人の伝統と誇りを粉砕した鉄腕
●金田正一 巨人ナインが“球界の天皇”を認めた理由 ほか

第3章 達人たちの神業――野手編
●吉田義男 私とは正反対だった「魅せるショート」
●張本勲 監督経験がないのが惜しい、正論を貫き続ける男
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第4章 西武監督時代――意識革命の主役たち
●江夏豊 プッシュバントで攻略した天敵
●秋山幸二 王と同じ日本刀の特訓で40本塁打の大爆発
●工藤公康 ドラフト会議の席で指名を決めた「坊や」 ほか

第5章 ヤクルト監督時代――“万年Bクラス”大化けの原動力
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●チャーリー・マニエル 「二度とお前を使わない」で奮起した赤鬼
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第6章 新時代の達人候補たち
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広岡達朗

1932年、広島県呉市生まれ。早稲田大学教育学部卒業。学生野球全盛時代に早大の名ショートとして活躍。54年、巨人に入団。1年目から正遊撃手を務め、打率. 314で新人王とベストナインに輝いた。引退後は評論家活動を経て、広島とヤクルトでコーチを務めた。監督としてヤクルトと西武で日本シリーズに優勝し、セ・パ両リーグで日本一を達成。指導者としての手腕が高く評価された。92年、野球殿堂入り。『動じない。』(王貞治氏・藤平信一氏との共著)、『巨人への遺言』『中村天風 悲運に心悩ますな』『日本野球よ、それは間違っている!』『言わなきゃいけないプロ野球の大問題』(すべて幻冬舎)など著書多数。新刊『プロ野球激闘史』(幻冬舎)が発売中。

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