さらに、今回の結果が実験室という人工的な環境によるものでないことを確かめるため、研究者たちは2018年3月下旬、マルハナバチのコロニーおよび開花前の様々な植物を大学の屋上に設置した。
このハチはヨーロッパでごく一般的に見られるもので、自由に遠くまで行って採食することも可能だった。それでも彼らは、巣から最も近い場所にある開花前の植物の葉に傷を付けていった。この行動は、4月も終わりに近づき、周辺の植物が開花するに伴って減少していった。研究チームでは、葉を傷付けるというハチの行動が、やはり花粉の豊富さに左右される証拠だとみている。
屋上でのこの実験は7月まで続行され、セイヨウオオマルハナバチのほかにもBombus lapidarius およびBombus lucorumという2種の野生マルハナバチが、開花前の植物にやってきて葉に穴を開けていったことがわかった。世界には250種以上のマルハナバチがいるが、著者らによると、どれくらい広くこの行動が見られるかはわかっていない。
「花を咲かせるための暗号を解いた」
植物は送粉者に食物を提供し、送粉者は花の授粉を担う。昆虫と花が相互に利益を得るこの関係は、およそ1億3000万年前から始まった。
しかし、タイミングが合っていないと互いに利益にならないため、コミュニケーションの方法が生み出された。
「それがこの研究で示されていることです」と、英ロンドン大学クイーン・メアリー校の行動生態学者で、Science誌に今回の論文の解説を執筆したラース・チッカ氏は言う。「ハチは言わば、こんなシグナルを出しているのです。ねえ、私たちには食べ物が必要だから、早く花を咲かせて。そうしたら授粉してあげる、と」
「非常に洗練されたコミュニケーションです」と話すのは、カリフォルニア大学デービス校の化学生態学者、サンティアゴ・ラミレス氏だ。同氏は今回の研究には関わっていない。「ハチは花を咲かせるための暗号を解いたようです」
しかし、解明できていない謎は残る。なぜ切り目を入れると開花させることにつながるのだろうか。チッカ氏はこうも問う。「植物にとって、早く開花することは適応度を高めることになるのか――つまり、より多くの子孫を残すことになるのでしょうか」
農作物増産にも期待
研究チームがハチをまねて金属製のピンセットとカミソリで葉に穴を開けたところ、通常よりも早く開花したが、ハチが傷付けた場合ほど早くはなかった。
「ハチは、私たちがまだとらえきれていない何かをしているんです」。同じくスイス連邦工科大学チューリッヒ校の進化生態学者である、共著者のマーク・メッシャー氏はそう話す。唾液腺から「化学物質または匂い物質を出しているのかもしれない。突き止めたいと考えています」
それがわかれば、農業に革新がもたらされるかもしれない。
ハチ研究者たちにとって驚きだったのは、今回の研究がスタートしたきっかけが、シンプルで古典的な行動観察だったことだ。
「チャールズ・ダーウィンはマルハナバチを追って回りました」とウィリアムス氏は言う。「マルハナバチに興味を持つ人なら誰でも、花の上にいる彼らを何時間も観察したことがあるでしょう。けれど恐らく、花の咲いていない植物に来ているところは見ていなかったのです」
そして、パシャリドゥ氏がやったのはまさにそれだった。そのことが、全く新しい現象の発見をもたらしてくれたのだ。
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