米ラスベガスにあるハーツのカウンター=2019年3月(共同)
【ニューヨーク=中山修志】米レンタカー大手のハーツ・グローバル・ホールディングスが22日、米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請し経営破綻した。創業100年を超えるレンタカー業界の老舗だが、近年は米ウーバーテクノロジーズなど新興のライドシェア勢に押されて業績が低迷していた。新型コロナウイルスの影響による旅客需要の減少が経営悪化に追い打ちをかけた。
ハーツは22日の声明で「コスト削減と資金確保に努めたが、収益回復の見通しが立たず、米政府の支援も得られなかった」と破綻理由を説明した。
同社は1918年創業で、32年に米シカゴで初めて空港内に店舗を開いた。広い国土を飛行機で移動する米国人は、空港から車に乗って最終目的地に向かう場合が多く、空港内レンタルは同社の成長の原動力となった。レジャー市場の拡大とともに新興国でも業績を伸ばし、世界約150カ国にまでサービスを拡大した。最盛期の2014年12月期には110億ドル(約1兆1800億円)の売上高があった。
だが、ここ5年ほどはウーバーや米リフトなどのライドシェアサービスに利用者を奪われ、売上高はピーク時から1割以上落ち込んでいた。18~19年は2年連続で最終赤字で、経営不安説がささやかれていた。
同社は法的整理によって3月末時点で187億ドルあった有利子負債を圧縮し、全従業員の5割に当たる約2万人を解雇してコストを削減する。日本を含めグローバルの事業は継続する一方、保有車両の売却や約1万店ある店舗の統廃合を進めて財務を改善する。
だが、負債の圧縮と事業のスリム化が経営再建につながるかは不透明だ。ライドシェアの台頭でレンタカー事業はもともと下火だったうえ、新型コロナの影響が落ち着いた後も航空を含めた旅客需要が回復する保証はない。財務の改善のためにはデジタル分野への投資余力も限られる。
デジタル化の流れに遅れた老舗企業が新型コロナによって追い込まれるのは、米国で相次ぐ大手小売業の破綻と同じ構図だ。だが、ネット通販が独り勝ちの小売業と異なり、自動車サービスでは成長株だったライドシェア勢も総崩れとなっている。
外出制限に加え、車両の共有や閉鎖空間が敬遠され、ウーバーとリフトの4月の利用客は8割近く減少した。デジタル技術を駆使して需給をマッチングし、格安サービスを提供する事業モデルが成り立たず、それぞれ約2割の人員削減に追い込まれた。
「所有から利用へ」の流れの中でカーシェアやライドシェアが急成長し、若者を中心に自動車離れが加速した。米ゼネラル・モーターズ(GM)は16年にカーシェア事業に参入するなど自動車メーカーも新サービスに動いたが、同社は4月にサービスから撤退を決めた。新型コロナは新旧の業態を問わず、「移動」にまつわるビジネスに難題を突きつけている。