夜。海沿い。
夏の風が吹き付けるビーチに、2人の20代くらいの女性が座っていた。
2人は、夜光虫が不思議な光を放つ海を見ながら、他愛もない話をしていて、その姿はとても楽しそうだ。
サリ、サリ、サリ……
定期的なリズムで、ビーチの砂を踏みしめる音が響く。
2人は、音が聞こえてくる方を探してキョロキョロと周りを見渡す。
やがて、音の出ている方向を探し当てて、そちらを向く。
灰色で人型をした、けれども背中から無数の棘のようなものが生えた化け物が、2人の方に近付いてきていた。
「オルフェノクだ!」
女性の1人が叫ぶ。
逃げようと、もう1人の腕を掴んで立ち上がろうとするが、砂に足を取られて転んでしまう。
「ぐぁぁぁぁ………」
オルフェノクが、動けない2人を見て歓喜の声を上げる。そして、2人を襲おうと右手を前に突き出した。
次の瞬間、オルフェノクが右から、凄まじい光に照らされた。
バイクのヘッドライトだった。
バイクは、爆音を響かせながらオルフェノクの進む方向に立ちはだかり停止した。
運転手はバイクから降り、ヘルメットをハンドルに乗せる。
長めの黒髪をなびかせる運転手は、女性たちと同じくらいの容姿の男だった。
「逃げろ!」
男は、背後の2人を逃す。
「貴様…無駄なことを……」
オルフェノクは男に向かって悪態をつく。
「無駄なこと?人助けは無駄じゃないぞ?」
男は言い返し、腰にゴツい金属質のベルトを巻きつけた。
男の右手には、ボールペンのような物体、「ヤークトライタ」が握られていた。
ボールペンをノックし、ベルトのバックル部分の右側面から挿入する。
すると、ベルトから
「standby!」
という電子音声が流れた。
「変身!」
男が叫び、先ほどボールペンを入れた方とは反対側、つまりバックルの左側面に位置するレバーを上に上げる。
「complete!」
再び電子音声が流れる。
ベルトから茶色い、しかし光り輝く線、フォトンストリームが発生し、体に巻き付いてくる。
やがて、フォトンストリームの間にゴツゴツとした鉛色の装甲が発生。
仮面の戦士、ヤークトが誕生した。
「お前が犯した罪、俺は知ってるぜ」
ヤークトはオルフェノクに対して言い放ち、その懐に突っ込んでいく。
ゴスッ!
ヤークトがオルフェノクのみぞおちに、強力なパンチを入れる。
「ガハッ……!」
オルフェノクは大きく後ずさりする。
バキッ!ガスッ!
ヤークトが間髪入れずに、回し蹴りを2発立て続けに食らわせる。
「ぐあああッ!」
オルフェノクが、痛さのあまり絶叫する。
「さぁ、これで終いだ!」
ヤークトは、ベルトの右サイドのアタッチメントから、棒状の武器、「ヤークトポインター」を取り出す。
ポインターの側面に、バックルの中央部から取り出した板ガム状の物体、「ミッションメモリー」をインサートする。
すると、ポインターはガシャ、と伸びる。
ヤークトは、そのポインターを自分の右足首のアタッチメントに装着。そして、ベルトのレバーを再び上下させる。
すると、ベルトは
「xceedcharge!」
と電子音声を流す。
ベルトから右足のつま先まだ伸びたフォトンストリームが発光。
やがて、ポインターに、ヤークトのエネルギー源である流動エネルギー、フォトンブラッドが溜まる。
「うぉぉぉぉっ!」
離れた場所から、ヤークトがオルフェノクに向かって走る。
オルフェノクまであと2.5メートルほどのところで、ヤークトが飛び上がった。
ヤークトは、空中でオルフェノクに向かって右足を向ける体勢になる。
次の瞬間、オルフェノクの動きが封じられた。
ポインターから放出された円錐状のフォトンブラッドの先が、オルフェノクに向く。
ヤークトが、フォトンブラッドを右足で踏み抜く。
ヤークトが、オルフェノクの体を貫いた。
オルフェノクが、ヤークトの背後で青い炎を上げる。
オルフェノクが灰化し、砂浜に崩れ落ちる。
事の一部始終を、離れたところから1人の女が見ていた。
「あれが…ヤークト…」
女は、「ヤークト」という言葉を噛みしめるように言った…