海兵隊からミサイルへ 久保田正広

西日本新聞 オピニオン面 久保田 正広

 本紙には載らず、他紙で読んで深く考えるニュースもある。最近では「B52爆撃機 米本土拠点に グアム配備を終了」。4月中旬の動きだ。

 B52は大型の戦略爆撃機。空母と並び、米軍の存在感を示す象徴的な兵器である。

 中国や北朝鮮に対する抑止力の一環として米領グアムに派遣されてきた。今後は米本土の基地から必要に応じて飛来してくるという。

 その理由は、米側発表によれば「より機動的に運用するため」。だが実態は中国の圧力に押し出されたに近い。中国のミサイル能力が向上し、グアムも安全圏でなくなったとかねて指摘されていた。

 4月初旬の別の報道によれば、米軍のインド太平洋軍司令官が米議会への報告書で(1)グアムの防空・ミサイル防衛体制強化(2)沖縄から台湾、フィリピンを結ぶ第1列島線へ地上発射型ミサイルの配備-などを求めたという。

 要は「グアムはもう危ないので、中国に負けないミサイルを配備して」ということ。米軍の予算確保の思惑もあろうが、米国で練られる対中戦略の方向は示されている。

 こうした米軍の戦略見直しを利用しようという動きが、日本国内にある。沖縄県が米軍基地の整理・縮小を探るために設けた有識者会議が3月末に出した提言書だ。

 中国のミサイル能力向上でグアムよりも地理的に近い沖縄の基地は脆弱(ぜいじゃく)性を増し、在沖米軍主軸の海兵隊も新たな作戦構想をまとめつつある。海軍との連携をより重視し、分散・小規模化した組織に変わり、航空やミサイル攻撃の拠点を離島などに確保することが主要目標になるという。

 そこで、沖縄の有識者会議は提案する。「海兵隊やその訓練を本土の自衛隊基地やアジア太平洋各地に分散させるのは理にかなっており、日本全体で議論すべきだ」と。

 現状では九州を含む本土の自治体や住民にとって海兵隊の受け入れは容易ではなかろう。ただ沖縄が抱える過重負担を考えると、一度は正面から向き合うべき提案である。

 米軍戦略の変化は新たな負担をもたらす可能性もある。沖縄の地元紙、琉球新報の社説は「海兵隊が分散されても攻撃型ミサイルが配備されては元も子もない」と書いた。

 鹿児島県の奄美大島から沖縄県の宮古島、石垣島にかけて陸上自衛隊の配備が進み、ミサイル部隊も新設された。米軍内には、この南西諸島に中国に対抗する中距離ミサイル配備を求める声もある。

 いま米軍基地問題といえば「沖縄の海兵隊」が思い浮かぶ。それが変わっていく予感がする。 (論説副委員長)

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