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「人工呼吸器をつながないで」

最もつらかったのはどんなときでしたか。

ヘイゼルさん:これが一番つらい、と思っても、それと同じくらい、あるいはもっと悲しい体験をして塗り替えられる。その繰り返しで、つらいシーンは枚挙にいとまがありません。

 ある50代のイタリア系の男性は、呼吸が苦しい状態に陥っていました。でも、廊下に響き渡るくらいの大きな声で叫んでいた。人工呼吸器を装着しないといけなかったのですが、看護師たちに大声で、涙ながらにこう懇願していたのです。

 「お願い、お願いだから人工呼吸器をつながないで! お願いだから、私を殺さないで!」

 何度も何度も、泣きながら訴えていました。すると、周囲の看護師たちも泣き始めました。人工呼吸器を装着したくない気持ちを痛いほど理解できたからだと思います。

 他の病院のことは調べてみないと分かりませんが、私が勤務していた病院では、人工呼吸器をつないで生還した例は1割ほどで、9割が亡くなっていました。人工呼吸器につながれるということは、死刑を言い渡されるようなもの。そのことをほとんどの患者さんが知っていて、彼も知っていました。だから泣いて拒んだのです。

 「お願いだから私を殺さないで」

 それが最期の言葉となり、彼は翌日に亡くなりました。

最後は皆、1人で亡くなっていく

ヘイゼルさん:こんなこともありました。ある女性の患者さんに死が近づいていました。彼女は私に「助けて」と言ってきました。息がほとんどできない中、泣きながら、「息子に連絡を取りたい」と懇願してきたのです。