第二次世界大戦の結果を承服しない唯一の国と宣言されちゃった日本ですが、このインパクトは日本の知的な敗戦と呼ぶべきものかしらなどと思ってる。
ではなぜこのモメントが来たのかというと、安倍政権に至る道筋というのは、日本の再武装化だったが、それと同時に日本はロシアを外交のダシに使うことで、ロシア(場合によってはロシア+中国)の周辺国との関係を構築し、結果的にロシアを丸裸にする試みを行っていたということだと私は考えますね。特に重要だったのはインド。
しかし、それに乗るロシア(場合によってはロシア+中国)ではないので、一つ一つ関係国を説得していって、最後に日本に戻って来たということではなかろうか。
私たちはいいかげん頭を使って考えないとならない。
イージスアショアを導入して、NATO事務所を開設して、米軍との行為の一体化を達成した日本と、その軍事組織のターゲットであるロシアとの平和条約とは何なのか。どうあれ限界のあるものに違いない。
と、その話は別途書いていくことにして、まずは、どのぐらいへんなことを言っている人がいるのかをメモしておくのも将来のためになるだろうからメモしておきたい。
スプートニク日本語版の記事についていたretweet。アカウント名が「カミカゼ」さんとは象徴的だなとクリップした。
いかにもバカだが、ロシアについて
- ロシアが欲しいのは日本の金だ
- 近い将来中国と心中するカス国家だ
- 東西冷戦で敗北した
- 欧州からアジア扱いされてる蛮族ども
という具合に、日本のメディアが書き散らしたことを実に忠実にコンパクトにまとめているという点で、なにか評価したい(笑)。
でまぁ、ロシアものについての大方の日本人の本音はこんなものでしょう。だってこういう風に教育してきたんですから。きれいごといってもダメ。
でもって、中国についても異口同音で語って来たけど、最近中国の大きさを否定できなくなって、中国崩壊論は流行らなくなった。
でね。明らかに間違いだらけのことを言い散らかした結果が現状であるという点を、日本は全体として省みられるのかというのが非常に重要だと思っているわけですが、リアルな推定をすれば、無理であると考えざるを得ない。つまり、今のところ、このチャンスを日本が活かせる可能性は限りなくゼロに近い。
私たちはここから考えないとなんないですね。
■ 満洲はやっぱりタブーらしい
さらに、興味深く思ったのは、やっぱり満洲はタブーらしいという点。
孫崎さんが孤軍奮闘して、ロシア外務省の見解について、間違いではない、日本の側の視点が歪んでいるという話をしている。
宗純さんがコピペされていたのをそのままお借りします(ここ)
孫崎 享 @magosaki_ukeru · 2019年1月17日
①現ロシアはソ連の国際約束を継承、⓶日本は米英など連合国と戦う、③米国はソ連の参戦を要請、④米英は見返りにソ連に領土を与える、⑤ヤルタ協定で千島はソ連と約束、⑥国連憲章で戦中戦後の領土移動を不変とすると決定、⓻日本にはポツダム宣言で受諾させ、桑港条約で千島を放棄させる、
第二次大戦末の状況について、日本人が十分理解していないのは、日本と戦っている米国がソ連の参戦を強く求めていたことです。ルーズベルトの関心は日本を打破するにあたり、米軍兵士の被害を如何に低くするか。それが原爆投下になり、ソ連軍の参加要請になっているのです。
北方領土問題は第二次大戦処理の問題である。第二次大戦処理の基本はポツダム宣言、国連憲章、桑港講和条約。日本は米側主導の大戦処理の方針を受け入れ、終戦、国際復帰したのだから、米側主導の処理がどのように行われたか、それを知る必要があり、それを前提に議論すべきでしょう。
日米の死者数は大雑把に、南方では日10人対米ⅰ、硫黄島では日5対米1、沖縄では日3対米1と米死傷者の割合が急増してきたのです。米国は日本を降参させたいが、本土決戦の被害があまりに大きい。それを避ける為に広島・長崎に原爆投下し、ソ連軍の参戦を要請したのです。
ルーズベルトは1943年 11月-12月テヘラン会議でスターリンに対日参戦を要請し、再度ヤルタ会談でも要請し、この時ルーズベルトから「千島をソ連領とするとの連絡してきたのです。この事情は『グロムイコ回顧録』(読売新聞社)に出ています。
全体として、だいたい正しいご発言といっていいんだと思います。
が、どこにも満洲がない。ソ連参戦の要請を、アメリカが本土決戦の被害を避けるためという理由にしている。
違うでしょうとシンプルに申し上げたい。ソ連の1945年8月の満洲侵攻、一部で通称「オーガストストーム」(8月の嵐作戦)と言われているそうですが、そのスケールをみれば、これは当時のアメリカ軍に1ヵ月かそこらでこれを実施する能力があったとは言えない。
ソ連はこの計画を欧州戦線の終戦が見えた3月に開始して、4月から7月一杯の4ヶ月かけて、欧州側の装備を1万キロ東に移動させ、もちろん部隊の編制も行った。非常に綿密に準備を行っていたことが今日知られている。
満洲侵攻の対象面積は、ベルリン以西の西欧州全域に匹敵するほど大きい。
関特演と1945年ソ連満洲侵攻作戦
これがアメリカに出来たのか。もちろん、なんだってやってやれないということは可能でしょうが、そのためには自分で100万人ぐらいの人間を調達する必要があり、かつ、そのためには膨大な装備が必要。フィリピン、沖縄でクロージングしている最中のアメリカ軍、しかも、陸の大規模な戦いの経験が豊富だとも強いとも言われてないアメリカ軍にこれが可能であると考えていた人たちは、多分いない。
さらにいえば、満洲の位置を考えれば、南から米軍が入っていって関東軍が降参するとは限らず、関東軍が北上するかもしれないわけで、その場合北側をなんとかしないとならない。つまり、いずれにしてもソ連の協力がなければ一定期間内に終結させることはできない。
ということで、この本の重要性がますますわかる。この本は、1945年8月の満洲におけるソ連軍の戦略的侵攻作戦に特化した本。
The Soviet Strategic Offensive in Manchuria, 1945: 'August Storm' (Soviet (Russian) Study of War Book 7) (English Edition) | |
DAVID M. GLANTZ | |
Routledge |
グランツさんはこれを冷戦終結後まもなく書いている。その序文の中で、いや本文の中でも、何度も冷戦期にソ連赤軍について、あるいは独ソ戦について非常にいい加減なことが言われていて、常にソ連赤軍を低く、低くいうのが習わしになっていて無茶苦茶な論がまかり通ってることに警告を発している。そんなのおかしいだろうというので、ソ連側の資料、ドイツ側の資料、英米が持っているのをあわせて独ソ戦について書き、その後、このソ連の8月の嵐作戦を再評価した。
グランツさんは百田直樹みたいなインチキ史家じゃなくて、アメリカ陸軍指揮幕僚大学を出た軍事史の専門家。
しかし孫崎さんをちょっと庇うと、この作戦の正確な記述とその意味を読むことは、現在の英米覇権下ではタブーなのではなかろうかという気もする。まだ、という意味だけど。なぜなら、この作戦の成功によって、中国共産党の勝利が俄然高まり、朝鮮の独立が可能となる条件が達成された、という意味を見たくないから。
(アメリカは何一つ寄与していないが、朝鮮の半分をよこせと入っていったというのが不都合な真実。何一つ用意してさえいなかったのは、軍はまったく朝鮮を調べておらず、後年国務長官となるラスクは、ナショナル・ジオグラフィックの朝鮮の地図を見て38度あたりをソ連との武装解除の境界にすることにした、というのが今でもNational Geographicの記事に残ってたりすることでもわかる。)
といってもまぁ、中国共産党が50年代に倒れたならともかく倒れず、今も倒れそうもないので、このへんの解明は普通に進むでしょう。
だから、躊躇しているとバカを見ると思う。
■ 関連記事
朝鮮の解放と朝鮮戦争レジーム
確かに、よーくよく考えれば欧州は畢竟東プロイセン問題(または1919ポーランド問題)、極東は結局満洲を誰が取るか問題ですからね。
それ以外にもドイツ騎士団問題とか言いたいですが。おほほ。
https://www.youtube.com/watch?v=D9LOlv_UeLU
この冒頭で発言の一部が紹介されています。
「残念ながら現在唯一真の愛国者と言えるのは、ルソフォビアだ。40年代のロシアの内戦では、ユダヤ人の大量虐殺が行われたが、ヒトラーにより解放されたロシアで自由を志向する人々でもこの対価は受け入れられないだろう。仮にユダヤ人ジプシーに対する殺戮が主目的でなければ、ロシアで人気者になったに違いない。」さらに、ロシアで裏切り者として有名なウラソフを英雄扱いの発言もありました。発言者のブイコフは、元大学教授(国際関係大学)、作家、ジャーナリストというインテリなのですが、これは一体どういうことかと上の討論番組でも議論されています。
番組で話されていたのは、ドイツで仮にこの発言があれば即座に逮捕されるだろう。発言自体、広く知られることにはならないだろう。ロシアでも、拘束しろという声は大きいが、むしろ議論を戦わせた方が良いのではないか。ということで、僕が思うには、この種の発言の放置はプーチンの意向を反映しているのではないかと。テレビの討論番組では必ず「リベラル」「キエフ政権支持のウクライナ人」「ネオコン支持の欧米人」が出てきます。彼等の主張は強烈で大声で喚いていますが、喚けば喚くほど視聴者の嫌悪感が深まるような構図です。議論を尽くしてどちらが正しいか国民が判断しろというふうに見えます。政権側に正当性に対し自信があるのでしょう。
仮に「北方領土問題」でも我が政府に正当性の自信があれば、ロシアと議論すればと思います。彼等には聞く耳がありますし、議論好きなので何時でも相手になってくれるでしょう。テレビ番組では未だかつて日本人の討論参加者を見たことがありません。一番拙いのは、相手の反論に対し逃げることです。正当性もないということで議論終了でしょう。