声なきけものの慟哭   作:ケイド6.5

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お待たせしました。こちらが第二話になります。
しかし早くもけふ2が再評価の方向に傾いてきていっぱいうれしいわ。わーるどでの設定も目から鱗の新情報多数、けものフレンズだ! 誰にも止められない!(CV:スーパーミュータント)

ジオウももう少しで終わり、新しく令和初のライダーであるゼロワンも始まるしまだまだ楽しめるぜ。

OP:慟哭の彼方


2:ほんのう/りせい

「最近、妙に鬱っぽいんじゃない? ねえ、どうしちゃったわけ?」

 

目の前にいた人物を見て、私は驚きを隠せなかった。

目の前にいるのは、忘れるはずもない見知った姿――ふかふかの椅子に腰掛けながらジャパリソーダをあおる私だった。

 

「お前は――」

「お前は誰だ、そう言いたいんでしょ? それよりももっと気づくべき事あるんじゃない?」

 

私が言葉を吐きかける前に、目の前にいる私はまるで私の考えを見透かしたかのようにそう返してきた。

そしてすぐに私はある事に気づいた。そう、声が出せるようになっていたのだ。

 

「……!? 声が……喋れる!?」

 

私はまたも驚きを隠せなかった。

今まで言葉通り吠えるか唸るかしかできなかったのが、他のフレンズたちやヒトと同じように話せるようになっていたのだ。

それだけではない、けもののそれに半ば変形しかけていた手も元の形に戻っていたのだ。

そして私が戸惑いを隠せず困惑している中、もう一人の私はニヤニヤと笑みを浮かべながら再び口を開いた。

 

「何をしたのかわからないってカオしてるね、そのカオマジ最高なんですけど?」

「うるさい! お前は誰だ、なぜ私と同じナリをしてる!!」

 

終始人を食ったように笑う目の前の私に対して、私は身構えながら声を荒げ問い質す。私の問いに対し、目の前の私は両手を広げながら軽やかに椅子から立ち上がりながら口を開いた。

 

「私はあんただよ。見てわからないワケ? 正確に言えば……あんたの心の闇、けものの本能ってってやつよ」

 

もう一人の私は終始笑みを浮かべながらそう返した。

心の闇、けものの本能……その言葉を聞いて私は確信を持った、目の前にいるヤツこそが度々頭の中から話しかけてきた元凶。そして私のこの呪いの源泉なのだと。そう考えた瞬間、私は考えるより早く行動に出ていた。

 

「ならば――狩るまでよ! お前を狩れば私はフレンズに戻れる!」

元に戻った手から僅かに爪を覗かせながら、私は一気呵成に目の前の私――便宜上、ヤミトラと呼ぶことにした――に対して爪を振り下ろした。

だが、それはあっさりと空を切っただけに終わった。

ヤミトラは軽い足取りで私の爪をかわしてみせたからだ……だが、私はこの程度で終わらない。二撃、三撃、四撃……私は絶えることなくヤミトラに攻撃を繰り出すが、ヤミトラは同じように終始笑みを浮かべながら踊るようにかわしつづける。

 

当たらない攻撃に、次第に私の中に苛立ちと焦りが募っていく。それだけ私の判断と爪の軌道が鈍っているということでもあった……そしてヤミトラに一撃を加えようとした瞬間、突然ヤミトラの姿が視界から消えた。

そして次の瞬間、私の背後からヤミトラの気配を感じた……私はすぐに振り返ろうとするも、それより早くヤミトラは私に抱きつく形で私の動きを封じた。

 

「くっ、離せ!!」

「離せって言われて離すと思ってるワケ? そるれに私、丸わかりなんだよ? あんたのことは何でもね……」

 

ヤミトラは私に抱きついたまま私の耳元で囁きかけ、私の右胸に指を這わせ緩やかに揉みしだく。

 

「っん……!」

「言ったでしょ? あんたのことは何でもお見通しだって……」

 

微かに上ずった声をあげる私。それを見たヤミトラは私に終始笑みを浮かべたまま耳元で囁きかけ、私の頬に舌を這わせる。

 

「っく、だまれ……!!」

 

私は赤面しながらも隙を見て彼女の頭をつかみ、そのまま力任せに透明な壁に目掛けて投げ飛ばす。ヤミトラは透明な壁に叩きつけられると僅かに呻き、彼女が激突した途端に壁に盛大なヒビが入る。

しばし肩で息をする私。壁に叩きつけられたヤミトラはそれから間もなく相変わらず笑みを浮かべたまま起き上がり、自らの唇に舌を這わせながら口を開いた。

 

「仔猫かと思ってたけど、やるじゃん……少しは楽しめそうね」

 

ヤミトラは私に対しにたりと笑みを浮かべたままそう口にすると、終始笑みを浮かべたまま指を鳴らした。

するとその瞬間、強い風が吹き荒れ周囲の風景を大きく歪めていく……私はその風の勢いに耐えきれず腕で目を防ぐが、風はすぐに止まった。

そして私はまたも驚きを隠せなかった……そこは私の閉じ込められていたあの部屋ではなく、あのヒトの匂いを追ってたどり着いたあの建物の前だったのだ。

それだけに止まらず外は星空と紅く輝く満月が照らしており、不気味さを漂わせていた。

そしてヤミトラはというと……建物にほど近い高い木々の太い枝に立ち私を見下ろしていた。

 

「くっ」

「どう? なかなかいい景色でしょう?」

 

私は歯噛みしながら樹上に立つヤミトラを見上げつつ身構え、ヤミトラは相変わらず笑みを浮かべたまま私を見下ろしていた。

その最中で私は妙な感覚に見舞われ続けていた……まるで、ヤツに全てを見透かしているかのような不愉快な感覚だ。

それに、他に気になることも沢山あった――ヤツの、ヤミトラのこの魔法じみた力の正体はなんなのか。そしてなぜ言葉を離せないはずの私が離せるようになったのか。だが今の私はそれよりも優先すべきことがある、それは目の前にいるヤミトラを狩ることだ。

 

「っ、おぉぉアァ!!」

 

私は全身に力を込め、力強く大地を蹴りながら樹上に立つヤミトラを仕留めるべく跳躍し、指を曲げ爪を露にしながらヤツを刈り取るべく一気に迫る。 だが、ヤミトラはそのまま倒れこむように自然落下で私の一撃をかわしてみせる。

私はそのまま大きく着地し即座に反転、大地を蹴って駆け出し落下したヤミトラにもう一度爪による攻撃をくわえようとする――だが、ヤミトラは何と私の目の前から姿を消し瞬時に私の側面に現れるとともに私の横腹めがけて強烈な拳を叩きつけた。

 

「ッがは……!!」

 

大きく呻き、臓腑から空気が絞り出される感覚とともに私は吹っ飛ばされ木にたたきつけられた……叩きつけられた拍子に木は大きく罅が入り、その威力のすさまじさからか盛大にきしみながら私が叩きつけられた箇所を起点にそのまま倒れ伏した。

私は呻きながらも立ち上がり、いつの間にか眼前に立っていたヤミトラをにらみつける。

 

「おー怖い怖い……中途半端な獣の癖にフレンズみたいに振舞っちゃってさ☆」

「うるさい……! お前こそ、私の姿で喋るなァ!!」

 

私は感情を露わにしながら爪を振るいヤミトラを切りつけようとする。しかしヤミトラは終始笑みを浮かべたまま後ろに跳んでかわしてみせる。

しかし私も黙っているわけではない――再び立ち上がり地を蹴り加速。今度は左右にずれながらヤミトラに接近を図り、今度は奴がやったように側面から仕掛ける。

しかし、ヤミトラは終始余裕さを崩さないまま笑みを浮かべたまま私の一撃を腕でガードしてみせた――まるで私の一挙一動を予測していたかのようにだ。

 

「っく……! なぜだ、なぜこうも――」

「私の考えが読めてるんだ、そう言いたいんでしょ?」

「!?」

 

私が毒づく中、ヤミトラは私の爪が食らいつく前に私の腕を奴自身の腕でガードしながらそう問うてきた。そしてその言葉に私はまたも驚きを露わにしてしまった。

ヤツと相対してからもまるで私は考えを見透かされているような感覚に見舞われたが、今のではっきりした……ヤツは明確に私の考えを読んでいると。

そして私に生まれた隙を見逃すほど、ヤツは愚かではなかった。

 

「そのカオ……図星でしょ!?」

 

ヤミトラは私に生まれた隙を見逃すはずもなく、歪んだ笑みを見せながら私の腹に拳を叩き込んだ。

 

「ッガ……!? 」

 

私は呻きながら吐き出しそうな感覚に見舞われながらよろめき大きな隙を晒してしまう。 そして追撃としてヤツはそのまま流れるように私の頭目掛けて回し蹴りを叩き込み、私はかわすこともできずにその回し蹴りを食らい大きく吹っ飛ばされ建物の壁に激突した。

 

「う、っく、ちくしょう……!」

 

頭がぐわんぐわんするような感覚に見舞われ、私は毒づく。目の前に映る世界が微かに歪んでいる。そしてヤミトラは私を見下したまま相変わらず歪んだ笑みを見せながら何か言っているが、耳がくぐもっているかのようにうまく聞き取れない。

ここまでしても、ヤミトラは私の上を常にいく……事実私は消耗し傷付いているが、ヤツは疲れひとつ見せず毛皮すら汚れていない。

このままではまた振り出しに戻るだけだ――私はアレを使うことにした。

私は低く身構えながらヤミトラを睨み付け、力を込める――同時に体の奥から力が沸きだし、私の瞳がより一層金色に輝き出す。 野生解放、フレンズにのみ与えられた最大の切り札だ。

 

「なるほど、野生解放か……」

 

ヤミトラはそんな私を見てもなお臆する様子すら見せず余裕そうに笑みを浮かべながら私に対しそう返した。

 

「ふん、今度こそその減らず口を塞いでやる……!!」

 

私はヤミトラに対しそう返すとともに、全身に力を込め再び駆け出した。

野生解放により大きく増した力を生かし、全身に力を込めて先程よりも勢いと速さを増しながら私は真っ向からヤミトラに襲い掛かる。

 

「だから――あんたのことは何でもわかるんだってェ!!」

 

ヤミトラは一瞬声を低くしながらも指を軽く曲げるとともに、しかし野生解放すらせずに真っ向から私に向かってくる。

小細工はなしだ、ならば正面からぶつかってやる。どうせ見抜かれるなら力で叩きのめしてやる――私とヤミトラは互いに相手の爪が届く範囲に近づき、そして互いに喉笛を目掛け貫手を繰り出す。

しかし、私も奴も互いに狙いを把握していたこともあり喉笛への一撃は首を逸らすことでかわし、互いに頬に切り傷をつくるだけに終わった。

無論、これで終わりではない。私はいち早くヤミトラを蹴って後ろに跳んで一度距離を取ったのち再び唸り声をあげながら突っ込んでいく。

 

今度のヤミトラは向かっていくことはせず、相変わらず笑みを浮かべて私を迎え撃つらしく構えた。

私は気にせず真っ向から再度突っ込み、再び爪による一撃を繰り出す。今度は下段から仕掛ける――ダメだ、再びヤミトラにかわされた。

私は負けじと追撃を繰り出すも、ヤミトラは相変わらず踊るようにステップを踏みながら私の追撃をかわしてみせる。

 

「あんたはァ、叶いもしない願いをォ、諦めきれずにィ、ムダな足掻きしてるだけにィ、過ぎなァい……」

「ッ!? ち、違うっ!! あのヒトたちは私に約束してくれた、私のこの呪いを必ず治してくれると! 諦めなければ必ず物事は叶うと!!」

 

 

私の追撃をかわしいなすたびに、ヤミトラは大仰そうな素振りをしながら私に煽りを飛ばしてくる。その言葉に、私はほんの僅かだか動揺を感じてしまう。私はその動揺を振り払うかのようにヤミトラに対し叫び、同時に高い回し蹴りを奴の首元目掛けて放った。

ヤミトラは呻き声をあげながら吹き飛ばされ近くの木に激突。奴を仕留めるチャンスはいましかない――私は即座に駆け出し、ヤツに引導を渡すべく急接近し、サンドスターを纏わせた爪をヤミトラに向けて振り下ろす。勝った、私はそう確信した……だがその考えはすぐに捨て去るハメになった。

 

「なっ……!?」

 

私は驚きを露にしてしまった――私の爪が振り下ろされる寸前、ヤミトラは私の爪が振り下ろされる寸前に私の手首を自身の腕で防ぐ形で抑えてみせたからだ。

私は力を込めてそれを押しきろうとするが、一行に押しきることができない。それどころかヤミトラは私の爪を防いだままゆらりと立ち上がる。 その顔には影が差しており、どこか不気味に感じられた――そしてヤミトラは静かに口を開いた。

 

「……『必ず治してあげる』、『諦めなければ必ず物事は叶う』――耳が腐るほど聞いたセリフだよなァァ!? うがァァァァァ-ッ!!」

 

ヤミトラが叫び、その直後に咆哮をあげた――その瞬間、ヤミトラが毛皮を突き破り異形の姿に変わるのがほんの一瞬見えた。

直後に突然雷鳴が鳴り響くと同時に強烈な風が吹き荒れ私の視界を一瞬奪う。 視界はすぐに回復したものの、私のいた世界は先程の紅い月に照らされた森ではなく雷鳴と風が吹き荒れる、まるで嵐の只中にいるような世界に変わっていた。

その直後にヤミトラが私に襲い掛かり、私は一瞬反応が遅れながらもその一撃を無理やり腕で防いだ――計り知れないほど重い衝撃が私の体全体に襲い掛かったのを感じ、そして私は奴の姿を見た。

……毛皮は中途半端に一体化し、肌が露出していた箇所も虎柄の毛皮に覆われ、その顔もまた黄色と黒の毛皮に覆われたというおぞましい姿。その姿を見て、私は私自身の成れの果てを見ているような気分に陥りかけた。

しかし、ヤミトラはそんなことで止まりはしない。 私の動きが止まったのと同時にがら空きだった腹に蹴りを叩き込み、私は後ずさってしまう。その直後にヤミトラは爪を露にしながら私に襲い掛かり、私は反応が遅れ守りに徹することしか出来なかった。

 

「ヒトってのは常にィ! 頭と心で別のこと考えてる生き物なんだよ!! 本当に呪いを治してくれるんなら、なんでヒトはあたしたちを見捨ててパークから出ていったのかなぁ!? あんたが追っているヒトにあんたを治せる保証なんかどこにもないよねぇぇ!!」

 

ヤミトラは叫びながら私に対し容赦のない爪の連撃に浴びせかけ、私は反撃しようにも相手の苛烈な攻撃の前に反撃すら仕掛けられず、一方的に防戦に追い込まれながら毛皮と体に大量の切り傷をつけられその度に痛みが体を駆け巡る。 

 

「もっとぉぉ!! 気楽になんなよ……! けものらしくさァァ!!」

 

その直後にヤミトラが咆哮をあげ、さらに勢いをつけて紫色の光を纏わせた爪を私の腕を切りつける。

 

「ッづぁ……!?」

 

計り知れない激痛に私は表情を歪めて声を漏らしてしまい、さらにガードも崩れてしまう。

さらに追撃として、ヤミトラは同様に紫色の光を纏った左拳を私の顔面に叩き込んできた……私はかわすことも受けることもできず、奴の拳を真っ向から食らう羽目になってしまった。

 

拳を受けた私は容易く吹き飛び、嵐のごとく荒れ狂う空間の中上下すらわからないままに落下しそのまま地に、いや虚空に叩きつけられた。

私は痛む体に鞭打って再び立ち上がる中、ヤミトラは悠然と飛び降りながら私の前に降り立ち再び対峙する。

私は荒く肩で呼吸しながら態勢をわずかに整えると、しばし私の右手を見やる。そして一瞬握りしめると、私の右手にほんの僅かにサンドスターの七色の光と紫色のオーラが迸った。

 

「それでも私は――私は、必ず呪いを乗り越えてみせる!!」

 

私は咆哮をあげながら全身に力を込め、大地を蹴って加速しヤミトラの懐目掛けて突っ込む。その右手に紫色の光を纏わせながら貫手のようにヤツの腹に狙いを定めて。

 

「な――」

「これで、終いだァァ!!」

 

ヤミトラは先程までの余裕さが嘘のように驚いた表情を見せ、私は叫びながら一気に奴のどてっ腹に貫手を叩き込んだ。

 

「ッがは……!!」

 

貫手を受けたヤミトラが苦悶の表情を見せ、大きく呻く。私の右手には肉を貫いた感触、生暖かさがそのまま伝わっている……私はそれに対して思わず顔を歪めた。

と同時に、周囲の嵐のような空間が次第に消えていき、最初に私とヤミトラが対峙したあの部屋へと戻っていく……そしてヤミトラは糸が切れたようにかくんと首と手足を力なくだらりと下げ、おぞましい姿から私と同じ姿に戻りながらそのまま事切れた。

 

「ッはぁ、はぁ――もう二度と、私の前に現れるな……!!」

 

私は荒く呼吸しながら事切れたヤミトラに吐き捨てるように言いながら、ヤツの貫いた臓腑の感触に表情を歪めながら引き抜こうとする……だが、その直後だった。

 

「――っはァ……」

「んなっ……な、なぜだ!?」

 

事切れたはずのヤミトラが呻きながら私の右手を突然掴んだことに、私は思わず恐怖を感じそう口にした。

そして事切れていたはずのヤミトラは私の右手を掴んだまま、ゆらりとその顔をあげた――その狂った笑顔に、私は先程とは比べ物にならないほどの恐怖を感じた。

 

「――どうよ……! 守るよりも狩るほうが百倍楽っしょ……!? ッヅァァァァ……!!」

 

ヤミトラはおぞましい笑顔を見せたまま、しかし苦しげに呻きながら私に対しそう言う。その最中に貫いたままの私の右腕を引き抜くどころか逆により深々と刺し貫かせて見せ、さらに苦しげに呻き声をあげる。

私は右腕を引き抜こうとするもヤミトラにがっちりと押さえられ、そして私自身今まで感じたことのない恐怖に見舞われ冷静さを欠こうとしていた。

そして、ヤミトラは再び私の顔を見据えながら口を開いた

 

「――けものはァ、狩るか、狩られるか……! 食うか、食われるか――それが基本ってもんでしょ……!! それにあのヒト……あれくらいの年頃なら簡単に狩れるし、さぞ肉も柔らくて美味しいはずじゃん……!!」

 

「や、やめろ……!! それ以上あの子のことを話すなぁ!!」

 

ヤミトラの吐いた恐ろしい言葉に、私は今以上に恐怖を感じた……それこそ、毛どころか体が震え上がるほどの。

私はそれを振り払うかのように叫びながら、ヤミトラに蹴りを入れその勢いをもって右手を勢いよく引き抜いた……血にまみれた私の右手からヤツの鮮血が飛び散る。

 

そしてヤミトラは血にまみれた腹部を押さえながらも後ずさり、しかし終始狂った笑みを見せながら再び口を開いた。

 

「あんたとの戦い……なかなか楽しめたじゃん。近いうちにまた会いましょ? Ciao……」

 

ヤミトラは終始余裕さを崩さないまま私にそう返し、そのまま黒い靄のように消えていった。

そしてその瞬間、世界が消えていった。

 

 

 

 

 

 

「ッグァ……!?」

 

 

計り知れないおぞましい夢を見たあと、私は跳び跳ねるように起きた……周囲を見るとそこは私が寝床にしていた洞穴だった。

そして入口を見てみると、朝日の光が差し込んでいるのが見えた……私は自分の体を確認する。 変異したままの手には血はついておらず、毛皮や体にも切り傷はついていない。ただ、心臓が異様に早く高鳴っていることと全身に夥しい冷や汗をかいているのがうかがえた。

私は息を整えながら天井を見上げる。 あれが夢であったことに安堵し……いや、しかしあの夢は妙に迫力があった。それこそまるであれが現実に思えるほどに。

だがわかったこともあった、私の頭から騒ぐ声の正体は夢の中で現れたあのもう一人の私――ヤミトラだということを。 あれがこの私の呪いの元凶、或いは呪いによって生まれたもう一人の私か。

だが今はどちらでも関係ない、いずれにしてもヤツはまた私の前に現れると言った――夢の中の話とはいえ、妙に現実感があったヤツとの邂逅は本当に起こりうる気がしてならなかった。

 

「……ヴ、ウゥ」

 

とはいえそれ以上に気味悪いのは私の体と毛皮にびっしょりとついた汗だ。 とりあえず水浴びしたい……あとのことはそれから考えよう。私は呻きながらも身を起こし、水浴びするべく洞穴を後にしていった。

 

 

 

 

 

の   の   の   の

 

 

 

アムールトラは洞穴から出るとともに洞穴から近くにあった澄んだ水の貯まった小池へと向かい、そのまま躊躇せずに飛び込んだ。

彼女は冷えた水の感触を楽しみながら、気持ち良さそうに目を細める。

だが、そんな彼女を見つめる者たちがいた……木々の奥、一本の高い木の枝に立ちアムールトラを見つめる二人の人影。

いずれも黒い外套のような毛皮を着た黒髪の少女――フレンズだ。

 

彼女らの正体は何者だろうか――?




キュルルちゃんが俺のいとこならなぁ~ド底辺でもお小遣いいっぱいあげちゃう。

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