声なきけものの慟哭   作:ケイド6.5

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前回の投稿より一か月近くかかっちまった。 
忍殺のナラクとフジキド、神ノ牙のジンガと神牙みたいな自分の中にある邪悪な存在と葛藤する作品すこ。
あと全3話を予定していると言ったな、あれは嘘だ。もう少し続きそうです。

OP:慟哭の彼方


1:おもて/うら

私は歩く、この終わりのない暗闇を――。

 

 

辺り一面が真っ黒な異様な世界。空も、光も、木々も、大地も、風やそれがもたらす匂いも一切がない黒一色の世界を私は歩いていた。

遠近の有無すらも図れず、まさに底無しの闇と言えるような世界。

あれからどれだけ歩いただろうか、私はすっかり息を切らし地べた、あるいは虚空かもしれないが――に座り込んだ。

いくら歩いても風景は変わらず、そもそも今立ってるのが地面なのかすらもわからない黒一色の暗黒に溢れた世界。 なんだ、私にピッタリの世界じゃないか――ここでなら誰にも気づかれずに消えていける。 このまま何もかも溶けて消えてなくなりたい、私はそう思いながら体を横たえた。

 そのついでに少しだけ、昔の事を思い返すことにした。私が長い年月を過ごしたあの建物と、そして危険な獣となった私の面倒を見てくれたヒトたちのことを。

 

 

 

 

の の の の

 

 

 

 

私がなぜ今の姿になったのかは、正直わからない。ただ鮮明に覚えているのは、サンドスターとともに黒い何かが自分にぶつかったこと。 それとかつて私と合ったヒトから聞いた「ビースト」という言葉だけ。

その時から私はこの忌まわしい姿になった――声も出せず、今のように頭の中から何かが囁きかけてくるようになったのもちょうどこのころからだった。

 私はたびたび、その頭の中の声に悩まされ理性を失うことがあった――日にちが立つにつれてその頻度は増していき、当時の私も今と同じようにその声で理性を失うことがままあった。

そして、私は最悪の事態を引き起こしてしまった――理性をなくした自分はフレンズの一人を瀕死の重傷を負わせてしまったのだ。

その時の光景は忘れようにも忘れられない――私が襲ったフレンズの手足はあらぬ方向に曲がり、いたるところに傷跡があった。そして体には多数の噛み傷も……その時、私はパークのヒトたちに押さえ込まれ、あの建物に閉じ込められた。

 

最初のころは訳も分からず、私はヒトすらも信用できずにあの狭い部屋に押し込められた事でヒトに対して明確な憎悪と敵意をあらわにしながら暴れまわっていた。

そしてそのたびにヒトは私を抑え込み、気絶させられてあの部屋に押し戻される――それの繰り返しだ。 

だがヒトは、暴れる私を抑え込み部屋に閉じ込めることはあってもそれ以外は私に対して乱暴は働かなかった――むしろジャパリまんもくれたし、遊び道具もくれた。 そして私が暴れまわったことで生じた怪我もすぐに直してくれた。

そんなヒト達を見るたびに、私の彼らに対する敵意は次第に薄れていった――話すことができれば、彼らに謝りたかった。

しかし、私はしゃべることができなかった――彼らの言葉がわかるだけに尚更、その事実が私を苦しめた。

そんな中、私はある意味印象に残るヒトと出会った。

 

 

 

の の の の の

 

 

「おーい、お客さんだぞぉ」

 

いつものように、私を世話しているヒトが扉を開けて来た。

言葉を話せない私は彼の声に反応するとともに身を起こし、現れた客人を見た――緑色の長い髪に蒼い瞳をした、優しげな雰囲気の女性だ。

確か、パークガイドというヒトらしい――前に私を世話しているヒトから聞いたことがあった。

 

「あぁ、こんにちは。貴女が噂のビーストさんですね?」

 

女性はにこやかな笑みを浮かべながら膝をつきながら、私に問うてきた。

しかし、私は見知らぬヒトをすぐに信頼するような女ではなかった……それは私自身がこの身の上を呪っていたのもそうだし、この部屋しか知らないというのもあったからかもしれない。

私はというと、目の前のヒトを見て微かにうなり声をあげ、身構えながら警戒していた――しかしそのヒトはそんな私に臆する様子すら見せずに笑みを浮かべながら口を開いた

 

「ふふ、そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。あ、そうだ! 良かったらジャパリまん、一緒にどうですか?」

 

そのヒトは柔らかく笑みを浮かべながらジャパリまんを取り出し、それを半分に割いて片方を渡してきた。

私はいぶかしんだ――このヒトは私を恐れてはいないのだろうか。なぜ私にここまで優しくしてくるのだろうか。 そんな複雑な思いが駆け巡る中、私は恐る恐る彼女が差し出したジャパリまんの半分を受け取ると、その一部を小さく口にした――なんてことはない、この部屋で出されるジャパリまんと同じものだ。微かに甘く柔らかな生地にカスタードクリームと呼ばれるなめらかで甘いものが入っているという、なんの変哲もないジャパリまんだった。

しかしそれを口にした瞬間、私はどういうわけか少しやさしい気持ちになれた。なぜかはわからなかったが……。

 

「おいしいですか?」

 

そのヒトは私に対し笑みを浮かべながら問い、相変わらず言葉の出せない私は微かに呻きながら頷いた。

感謝や親愛の言葉が頭に浮かんでも、言葉にできないのはやはりもどかしい……いつか話せるだけでもなりたいと思っていたが、そうならないのはもう確定しているのだが。

 

「ふふ、気に入ってもらって何よりです。――トラさん、確たる事は言えませんけど――あなたはきっと必ず元に戻れるはずですよ。トラさんの病気は――運が悪かっただけなんです。 まさかセルリウムが入り混じったサンドスターを浴びるなんて……完全に予想外でした」

 

そのヒトは私を見据えてそう言葉を返した。

運が悪かった、なるほど確かにそうなのかもしれない……しかしセルリウムがどうとかサンドスターがどうとか言っていたが、私にはあまり理解できなかった。 

私はヒトの言う「かがく」という魔法じみたことについてはあまりわからなかったが、おそらくパークで働いている彼女が言うのであるのだから間違いないだろう。

 

「でも、必ずここにいる人たちがあなたを治す方法を見つけて見せますからね! 私は管轄外ですけど、私も微力ではありますがビーストさんの呪いを治すの、お手伝いしますね」

 

そのヒトは私に対し笑いかけながらそう返し、私も釣られて笑みを浮かべた。

私自身も確証はなかったが、彼女は信用できると判断した――彼女はここで私の面倒を見てくれているヒトと同じく、私を恐れず信頼してくれていると。そして彼女なら、私のこのビースト化なる呪いを解いてくれるかもしれないという確証を持った。

それからというもの、彼女はたびたび私に会いに来ては色々と話してくれた……相変わらず言葉を出せない私はただ呻きながら頷くか首を振るくらいしかできずもどかしさに悩まされたが、それすらも気にならないほど彼女との会話は非常に楽しいものだった。

 

これが、私の中にある人に抱いた光の記憶。

だが、彼女とはまるで正反対の人間がいたのも事実だ。

 

 

 

 

 

ある日、いつも閉じ込められている部屋で昼寝をしていると、私はいつも世話してくれているヒトと聞いたことのない声のヒトが口論しているのが聞こえ眼を醒ました。

 

私は恐る恐る透明な壁からみてみると、私の世話役のヒトが別のヒトと言い争っているのが見えた。

世話役のヒトたちとは違い、全く優しそうに見えないヒトだった。黒い毛皮を着て腕には銀色のキラキラしたブレスレットみたいなものをつけた、私ですら嫌悪感を持ち、無意識に毛を逆立て微かに威嚇するほどの。

 

 

 

「――あの子を道具にしようってんですか!? ふざけるのも大概にしていただきたい!あの子も立派なアニマルガールだ、それを戦争の道具にしようってんですか!? そんなの人道に反する行為だってあなたとてお分かりでしょう!!

「法などすぐに変わる。我々にその力があるからではない、ヒトはすぐそう望むからだよ……一介の研究スタッフ風情が、口を慎みたまえよ。それに君たちはいささかあのケダモノに情が移りすぎているようだね」

 

世話役のヒトたちはその悪そうなヒトと激しく言い争っていた。

道具?戦争?ヒトがそれを望んでいる? 私は頭を殴り付けられるような感覚に見舞われた――そして知ってか知らずか、ヤツは私と視線を合わせてきた。

その時、私は知らずに牙をむき出し毛を逆立てながら身構え威嚇していた――しかしヤツは私を見ても臆するどころか逆に嫌らしい笑みを浮かべながら口を開いた

 

「素晴らしい――まさしく新世代の兵士にふさわしいじゃないか、彼女は。これを利用しないのはそれこそ人類最大の損失というものだ。野生の本能を備えた人間、それをコントロールすることができれば――」

「黙れ! 彼女は道具じゃない! もうあなたとの話は終わりだ、たとえパークのお上がアンタに従えと言っても俺たちは彼女を引き渡すつもりはないからな!!」

 

その男は嫌らしい笑みを浮かべ、私を舐め回すように見ていた――そのたびに私は耐え難い不快感と敵意を覚え、身構えながら威嚇を続けた。

だがヤツの前に私をかばうように世話人たちが立ちはだかり、奴に言い放った――そしてその言葉は、私にとっても安心できるモノであった

 

「ふん、まあいいさ。君たちは誇りある研究スタッフだとおもっていたがただのズーフィリアの集まりだったとは嘆かわしい限りだ――まあいい、幸いアニマルガールはここジャパリパークには腐るほどいるからね……所詮彼女は実験体候補の一匹に過ぎないというだけさ。では、私はこう見えても忙しいのでこれで失礼するよ。それに君たちも就職先を探す事をおすすめするよ」

 

そう言って、奴は去っていった――世話人のヒトたちはそいつが去っていくのを敵意剥き出しで去っていくのを見ていた。

私もまた、ここに閉じ込められてなければ今すぐヤツを叩きのめしたいという考えに染まっていた……そして、ヒトというのがみんな優しくていいヒトばかりではないことを思い知らされた。

それこそ、この出来事を頭の中から消し去りたいほどに――そう、これが私が覚えている「嫌な人」の記憶。ヒトの闇の記憶だ。

 

 ヤツはそれから3回ほど来たがそれを最後にここに来なくなった……ただそれからというもの、外から私と同じような匂いが漂ってくることが稀にあった。

もしかすると、ヤツがフレンズに何かしたのかもしれない――私は微かな恐怖とヤツに対する怒りを覚え、そして今まで落ち着いていた頭の中の囁きがまた話しかけてくるのにも見舞われた。

幸い、私が呑まれて暴れそうになった時はすぐに世話人たちが取り押さえて眠らせるというかたちで落ち着かせてくれた。

そんな度々慌ただしい日々を送りながらも、私は安穏とした日々を過ごしていた――でもある日、何の前触れもなく別れの時は来てしまった。

 

 

 

 

 

 

その日のことは今でも覚えている。外がかなり騒がしかったし、空気の匂いもおかしかった――私自身も妙に落ち着けなかった。

そんなとき、いつもの私の世話人たちは慌ただしい勢いでこちらにやってき、扉を開いて部屋に入ってきた。

 

「急な話でごめんな……俺たち、パークから出て行かなくちゃならなくなったんだ」

「だから当分、お前の面倒は見れなくなるかもしれない……でも、いつかはわからないけど必ず戻ってくるって! だから安心してくれ」

 

世話人たちの二人が申し訳なさそうに私に言い、残りの世話人二人も言葉は出さなかったもののどこかつらそうな様子だった。

その時、私は頭を殴られたような感覚に見舞われた――会えなくなる? このヒトたちに? 訳が分からなかった。あまりにも唐突すぎたからだ。

もしかすると外が何やら騒がしいのと関係しているのだろうか――私はそう思い彼らに問おうとしたが、やはり言葉を出す事はできなかった。

 

 

「いつ戻るかはわからないけど、約束するよ。俺たちはまたパークに戻ってくるって……!」

「とりあえずジャパリまんと飯は用意できるだけ用意したよ、私たちにできるのはこれくらいだからな……ごめんな、もう行かなきゃ」

 

世話人たちは終始申し訳なさそうにしながら、私一人では到底食べきれない量のジャパリまんやごはんを部屋に運び込んでくれた。

そして終始申し訳なさそうにしながら、世話人たちは私の前から去っていった――私もまた彼らは本当にパークから去るのだと理解するのにそう時間はかからなかったし、その時はたくさん悲しかった。

だが同時に、彼らがきっとパークに戻ってくるという言葉が私の希望となった――遠かれ早かれ、きっと彼らがパークに戻ってきて私を治してくれると。

私は世話人たちが用意してくれた大量の食糧やジャパリまんを少しずつ食べながら、彼らが帰ってくるのを待った――最初はそうでもなかったが、時がたつにつれて孤独感にさいなまれ私の頭の中から響く囁きも頻度を増してきた。

そのたび、私は頭の中の囁きに耐えながらも彼らとの記憶、そしてあのヒト――■■■と名乗ったあの女との思い出を頼りに日々を過ごして自分が壊れないようにした。

だが私がそうしても、過ぎ行く日々はその記憶を縁にしても限りない孤独感を与えてくる――そしてついに耐え切れなくなった私は意を決してパークに飛び出したというわけだ。

 

そう、これが私の中にあるヒトたちの記憶。そして私は最後の希望にすがるような気持ちでパークへ飛び出したのだ――結果は火を見るよりも明らかだったが。 やはりビーストなる私の呪いはフレンズ、ひいてはパークに害なす物でしかなかったのだ。

今まで私が手にかけたフレンズや、あのヒトの子供や彼女をかばうためにイカれた私に立ちはだかったあのフレンズの事を思うと胸が締め付けられる。 いっそ目が覚めていたらこのまま私自身、いやこのパークもろとも今私がいる世界のように真っ暗な闇に呑まれて消えてしまえばいいとも思った。

 

 

 

 

ふと、私はその黒一色の世界で目を覚ました――しかし、そこは先ほどまで私が経っていた一面真っ黒な世界ではなかった。

明かりはなく薄暗かったが、そこは私にとって見覚えのある場所……私が閉じ込められていた部屋だったのだ。

そしてその部屋の奥に何者かの気配を感じた――眼をこらして見ると、暗がりの中に何者かが座っているのが不鮮明ではあるが見えた。

そしてその瞬間、その暗がりにいるところに光が差し込み――その何者かの姿が露わになるとともに私は言葉を失った。

 

「どう? 最近は……。 最近妙にウツっぽいよね……そんなにフレンズになりたいわけ?」

 

そこにいたのは、壁に腰掛けながらジャパリソーダの入ったボトル片手に妖しい笑みを浮かべた――私そのものだった。


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