ヤバイ業者の餌食になる「給付金」、100万円給付に「50万円」請求する申請代行も
税金・お金
今般のコロナ禍で売上の大幅減を迎えた事業者に向け作られた各種給付金。その代表選手である持続化給付金の申請を手伝った税理士は、「数ある給付金の中でも、驚くほど手続きが簡単だった」と声を揃えます。命の水となり給付金のお陰で何とか凌ぐ人もいる一方、手軽に100万円、200万円が動くとあり、詐欺や偽りの申告、代行ビジネスなど問題点も数多く報告されています。(ライター・拝田梓)
●「売上の増減なんて関係ない」と代行を売り込んでくる業者
持続化給付金は、売上が昨年の同月比で50%以下となっていれば申請が可能。要件には「新型コロナウイルス感染症の影響で売上減になった」という項目がありますが、それを証明する必要はありません。
さらにポイントとなるのは、業種によっては売上の計上を翌月以降に持ち越すことで一時的な売上減を装うのも容易だという点です。それを可能にするのが、売上を証明する書類が「対象月の月間事業収入が分かるもの」とざっくりしていること。現状では、お手盛りの事業収入報告も可能であるといい、「そういった事例について見聞きしたことがある」と、とある税理士は証言します。
細かい不正は枚挙にいとまがありませんが、中にはビジネス化されている例もあるといいます。
大河内薫税理士は、「『売上の増減なんて関係なく、今年の売上台帳はこちらで作って申請する』と言い、手数料30万円を請求するような営業手法を聞いたことがある」と言います。
その内容は、「例えばフロント集客マンを立てて、持続化給付金の受給を諦めていた人を集める。そして黒を白に無理やりひっくり返すのが悪徳税理士の役目。手数料は集客側と税理士で山分けする」というもの。
接客業をしているIさんは、代行業者とみられる店の客から、給付金の半額である50万円を紹介料とし、「非課税のまま100万円の満額給付が受けられるように取り計らってくれる税理士を紹介する」と言われました。その際、「持続給付金相談窓口」というちゃんとした組織であるかのような名前のLINEアカウントを紹介され、そこに相談するよう勧められたといいます。
税理士の身元は明かされずじまい、また非課税になるなど紹介者の説明内容に誤りがあることからIさんは断りことなきを得ましたが、紹介で利益を得ようとする動きが各所であることは間違いないようです。
一部報道に寄れば、複数所有するペーパーカンパニーの売上を偽装することで何百万円も1人で荒稼ぎしている、というまさに助成金を「食い物」にする例も報告されています。
●もちろんペナルティはあるが、申請数は膨大
不正受給についてはもちろん国も想定しており、申請WEBページ上では以下のような警告を出しています。
【不正受給時の対応】
提出された証拠書類等について、不審な点が見られる場合、調査を行うことがあります。
調査の結果によって不正受給と判断された場合、以下の措置を講じます。
①給付金の全額に、不正受給の日の翌日から返還の日まで、年3%の割合で算定した延滞金を加え、これらの合計額にその2割に相当する額を加えた額の返還請求。
②申請者の法人名等を公表。不正の内容が悪質な場合には刑事告発。
1年後に200万円の受給全額が不正受給と判断され返還を行った場合、
200万円×3%=60000円
206万円×2割=412000円
と、247万2000円の返還を求められることになります。
助成金等の不正受給については過去にも例があり、経済産業省のWEBページ上で名前が公表されていますが、今回は130万件以上というあまりに膨大な申請数となるため、「見せしめ」程度に不正を摘発するのであっても相当な労力になるとみられます。
●不正受給を見抜くには税務調査か
となると、調査の専門機関である税務署への期待が高まるところ。
「給付金受給のために修正申告した場合は税務調査の目が厳しくなるのではないか」と見る税理士もいます。
しかし、修正申告書を提出して昨年の収入を過大に計上していたとしても、脱税にも過少申告にもなりません。さらに、今年の申告はたとえ不正受給であれ、助成金をちゃんと収入に計上しておきさえすれば税務署の目は届きにくくなります。
「税務署は管轄違いの仕事はしません。公務員は、自分のできる仕事の範囲が厳密に決まっているからです。助成金などの不正調査は、税務署の仕事ではなく、各自治体か管轄官庁になります」。(元税金専門紙編集長)
疫病での経済停滞という、未曽有の危機下において、申請を難しくすることで本当に給付を必要とする人に回らなくては本末転倒。お金を払ってスキームを立案できる一部の人間だけが給付を受けられる制度では意味がありません。ですが、罰則規定なく官主導のモラルハザードを起こすのもまた社会正義にもとることになります。
公平感を保つには信賞必罰が肝心要。今までの枠組みを超えての不正受給の摘発に期待したいところです。