伊勢物語 第23段 筒井筒 品詞分解と現代語訳
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今回は、「伊勢物語 第23段 筒井筒(つつゐづつ)」全文の原文・現代語訳(口語訳)・品詞分解(文法的説明)・語句の意味・文法解説・係り結び・鑑賞・おすすめ書籍などについて紹介します。「伊勢物語 第23段 筒井筒(つつゐづつ)」
<原文>
◇全文の「歴史的仮名遣い・現代仮名遣い・発音・読み方」(ひらがな)は下記の別サイトからどうぞ。
《⇒現代仮名遣いサイトへ行く》
第一部
昔、田舎(ゐなか)わたらひしける人の子ども、井(ゐ)のもとに出で(いで)て遊びけるを、大人になりにければ、男(をとこ)も女(をんな)も恥ぢかはしてありけれど、男はこの女をこそ得(え)めと思ふ。女はこの男をと思ひつつ、親のあはすれども、聞かでなむありける。さて、この隣の男のもとより、かくなむ、
筒井筒(つつゐづつ)井筒にかけしまろがたけ過ぎにけらしな妹(いも)見ざるまに
女、返し(かへし)、
くらべこし振り分け髪(ふりわけがみ)も肩過ぎぬ君ならずしてたれかあぐべき
など言ひ言ひて、つひに本意(ほい)のごとくあひにけり。
第二部
さて、年ごろ経る(ふる)ほどに、女、親なく、頼りなくなるままに、もろともに言ふかひなくてあらむやはとて、河内(かふち)の国高安(たかやす)の郡(こほり)に、行き通ふ(いきかよふ)所出で来(いでき)にけり。さりけれど、このもとの女、悪し(あし)と思へるけしきもなくて、出だし(いだし)やりければ、男、異心(ことごころ)ありてかかるにやあらむと、思ひ疑ひて、前栽(せんざい)の中に隠れゐて、河内へ往ぬる(いぬる)顔(かほ)にて見れば、この女、いとよう化粧じ(けさうじ)て、うちながめて、
風吹けば沖つ白波(しらなみ)たつた山夜半(よは)にや君がひとり越ゆ(こゆ)らむ
とよみけるを聞きて、限りなくかなしと思ひて、河内へも行かずなりにけり。
第三部
まれまれかの高安に来てみれば、初めこそ心にくくもつくりけれ、今はうちとけて、手づからいひがひ取りて、笥子(けこ)のうつはものに盛りけるを見て、心うがりて行かずなりにけり。さりければ、かの女、大和(やまと)の方(かた)を見やりて、
君があたり見つつを居らむ生駒山(いこまやま)雲な隠しそ雨は降るとも
と言ひて見出だす(みいだす)に、からうじて、大和人(やまとびと)、来(こ)むと言へり。喜びて待つに、たびたび過ぎぬれば、
君来むと言ひし夜ごとに過ぎぬれば頼まぬものの恋ひ(こひ)つつぞ経る
と言ひけれど、男住まずなりにけり。
<現代語訳>
第一部
昔、田舎暮らしをしていた人(=地方官)の子供たちが、井戸のそばに出て遊んでいたが、大人になったので、男も女も互いに恥ずかしがっていたけれど、男はこの女を是非妻にしようと思う。女はこの男を(夫にしたい)と思いつづけて(いたので)、親が(他の人と)結婚させようとするけれども、聞き入れないでいた。そうして、この隣に住んでいる男の所からこのように(歌を詠んでよこした)。
筒井戸を囲う井筒と比べあった私の背丈も、もうその井筒より高くなってしまったようだなあ。あなたに会わないでいるうちに。
女が(次のように)返歌(を詠んだ)、
(幼いころからあなたと)比べて合ってきた振り分け髪も、肩を過ぎました。あなた(のため)でなくて、誰(のため)に髪上げをしましょうか(あなたのためです)。
など繰り返し(歌を)詠み交わして(いるうちに)、とうとう本来の望み通り結婚してしまった。
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第二部
そうして、数年間経つうちに、女は親が亡くなり、より所がなくなるにつれて、二人いっしょに(こんな)ふがいない(生活)状態でいられようか、いや、いられないと言って、(そのうち、男は)河内の国の高安の郡に、通って行く(他の女の)所ができてしまった。そうではあったけれど、この元の女は(男が他の女の所に通うのを)不快だと思っている様子もなくて、(男を)送り出してやったので、男は(女に他の男を思う)浮気心があって、このように(素直に送り出してくれるの)であろうかと疑わしく思って、庭の植木の中に隠れて座って、河内の国へ行くようなふりをして見ていると、この女は、たいそう美しく化粧して、もの思いにふけりながら、ぼんやりと(夫の行った方向を)見やって、
風が吹くと沖の白波が立つ、その「たつ」を名に持つ竜田山を、この夜中にあなたは一人寂しく越えているのでしょうか。
と詠んだ歌を聞いて、この上なく(女を)いとしいと思って、河内へも行かなくなってしまった。
第三部
(男が)ごくまれに、あの高安(の女の家)に来て見ると、(高安の女は)初めのころは、奥ゆかしく(体裁を)よそおっていたが、今は気を許して、自分の手でしゃもじを取って、食器に(ご飯を)盛ったのを見て、嫌気(いやけ)がさして(高安には)行かなくなってしまった。そういうわけで、あの(高安の)女は、(男が住む)大和の方を遠く眺めて、
あなたの(いらっしゃる大和の)あたりを見続けていましょう。生駒山を、雲よ隠さないでおくれ。たとえ雨は降っても。
と(歌を)詠んで、外の方を眺めていると、やっと大和の男が「(あなたの所へ)行こう」と言ってよこした。(高安の女は)喜んで待っているが、そのたび毎に(男が来ることはなく、むなしく時が)過ぎてしまったので、(高安の女は、)
あなたが来よう(=行こう)と言った夜ごとに、いつも空しく時が過ぎてしまったので、今ではあてにしてはいないけれども、やはり恋しく思いながら過ごしています。
と(歌を)詠んだ(=歌を詠んで贈った)が、男は(高安の女の所には)通って来なくなってしまった。
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<品詞分解(文法的説明=文法解釈)>
◇主要な品詞を色別表示にした見やすい品詞分解を別サイトに作成しました。
《⇒品詞色別表示の品詞分解サイトへ行く》
※活用の基本形を、ひらがなで示した。動詞は、品詞名を省略した。
※二通りの解釈や説がある場合、「やは【終助詞(係助詞)・・・】」などのように示した。
第一部
昔、田舎わたらひしける人の子ども、井のもとに出でて遊びけるを、
昔【名詞】、 田舎わたらひ【名詞】 し【サ行変格活用「す」の連用形】 ける【過去の助動詞「けり」の連体形】 人【名詞】 の【格助詞】 子ども【名詞】、 井【名詞】 の【格助詞】 もと【名詞】 に【格助詞】 出で【ダ行下二段活用「いづ」の連用形】 て【接続助詞】 遊び【バ行四段活用「あそぶ」の連用形】 ける【過去の助動詞「けり」の連体形】 を【接続助詞】、
※田舎わたらひし【サ行変格活用「ゐなかわたらひす」の連用形】とする場合もある。
大人になりにければ、男も女も恥ぢかはしてありけれど、
大人【名詞】 に【格助詞】 なり【ラ行四段活用「なる」の連用形】 に【完了の助動詞「ぬ」の連用形】 けれ【過去の助動詞「けり」の已然形】 ば【接続助詞】、 男【名詞】 も【係助詞】 女【名詞】 も【係助詞】 恥ぢかはし【サ行四段活用「はぢかはす」の連用形】 て【接続助詞】 あり【ラ行変格活用「あり」の連用形】 けれ【過去の助動詞「けり」の已然形】 ど【接続助詞】、
男はこの女をこそ得めと思ふ。
男【名詞】 は【係助詞】 こ【代名詞】 の【格助詞】 女【名詞】 を【格助詞】 こそ【係助詞】 得【ア行下二段活用「う」の未然形】 め【意志の助動詞「む」の已然形】 と【格助詞】 思ふ【ハ行四段活用「おもふ」の終止形】。
女はこの男をと思ひつつ、親のあはすれども、聞かでなむありける。
女【名詞】 は【係助詞】 こ【代名詞】 の【格助詞】 男【名詞】 を【格助詞】 と【格助詞】 思ひ【ハ行四段活用「おもふ」の連用形】 つつ【接続助詞】、 親【名詞】 の【格助詞】 あはすれ【サ行下二段活用「あはす」の已然形】 ども【接続助詞】、 聞か【カ行四段活用「きく」の未然形】 で【接続助詞】 なむ【係助詞】 あり【ラ行変格活用「あり」の連用形】 ける【過去の助動詞「けり」の連体形】。
さて、この隣の男のもとより、かくなむ、
さて【接続詞】、 こ【代名詞】 の【格助詞】 隣【名詞】 の【格助詞】 男【名詞】 の【格助詞】 もと【名詞】 より【格助詞】、 かく【副詞】 なむ【係助詞】、
■和歌「筒井つの~」の品詞分解・語句文法解説・修辞法(表現技法)などは、【和歌リンク・筒井つの~】からどうぞ。
女、返し、
女【名詞】、 返し【名詞】、
■和歌「くらべこし~」の品詞分解・語句文法解説・修辞法(表現技法)などは、【和歌リンク・くらべこし~】からどうぞ。
など言ひ言ひて、つひに本意のごとくあひにけり。
など【副助詞】 言ひ【ハ行四段活用「いふ」の連用形】 言ひ【ハ行四段活用「いふ」の連用形】 て【接続助詞】、 つひに【副詞】 本意【名詞】 の【格助詞】 ごとく【比況の助動詞「ごとし」の連用形】 あひ【ハ行四段活用「あふ」の連用形】 に【完了の助動詞「ぬ」の連用形】 けり【過去の助動詞「けり」の終止形】。
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第二部
さて、年ごろ経るほどに、女、親なく、頼りなくなるままに、
さて【接続詞】、 年ごろ【名詞】 経る【ハ行下二段活用「ふ」の連体形】 ほど【名詞】 に【格助詞】、 女【名詞】、 親【名詞】 なく【形容詞ク活用「なし」の連用形】、 頼り【名詞】 なく【形容詞ク活用「なし」の連用形】 なる【ラ行四段活用「なる」の連体形】 まま【名詞】 に【格助詞】、
もろともに言ふかひなくてあらむやはとて、河内の国高安の郡に、行き通ふ所出で来にけり。
もろともに【副詞】 言ふかひなく【形容詞ク活用「いふかひなし」の連用形】 て【接続助詞】 あら【ラ行変格活用「あり」の未然形】 む【推量の助動詞「む」の終止形】 やは【終助詞(係助詞)】 と【格助詞】 て【接続助詞】、 河内の国【名詞】 高安の郡【名詞】 に【格助詞】、 行き通ふ【ハ行四段活用「いきかよふ」の連体形】 所【名詞】 出で来【カ行変格活用「いでく」の連用形】 に【完了の助動詞「ぬ」の連用形】 けり【過去の助動詞「けり」の終止形】。
※とて【格助詞】とする立場もある。
さりけれど、このもとの女、悪しと思へるけしきもなくて、
さり【ラ行変格活用「さり」の連用形】 けれ【過去の助動詞「けり」の已然形】 ど【接続助詞】、 こ【代名詞】 の【格助詞】 もと【名詞】 の【格助詞】 女【名詞】、 悪し【形容詞シク活用「あし」の終止形】 と【格助詞】 思へ【ハ行四段活用「おもふ」の已然形】 る【存続の助動詞「り」の連体形】 けしき【名詞】 も【係助詞】 なく【形容詞ク活用「なし」の連用形】 て【接続助詞】、
※さりけれど【接続詞】とする場合もある。
出だしやりければ、男、異心ありてかかるにやあらむと、
出だしやり【ラ行四段活用「いだしやる」の連用形】 けれ【過去の助動詞「けり」の已然形】 ば【接続助詞】、 男【名詞】、 異心【名詞】 あり【ラ行変格活用「あり」の連用形】 て【接続助詞】 かかる【ラ行変格活用「かかり」の連体形】 に【断定の助動詞「なり」の連用形】 や【係助詞】 あら【ラ行変格活用「あり」の未然形】 む【推量の助動詞「む」の連体形】 と【格助詞】、
※かかる【連体詞】とする場合もある。
思ひ疑ひて、前栽の中に隠れゐて、河内へ往ぬる顔にて見れば、
思ひ疑ひ【ハ行四段活用「おもひうたがふ」の連用形】 て【接続助詞】、 前栽【名詞】 の【格助詞】 中【名詞】 に【格助詞】 隠れゐ【ワ行上一段活用「かくれゐる」の連用形】 て【接続助詞】、 河内【名詞】 へ【格助詞】 往ぬる【ナ行変格活用「いぬ」の連体形】 顔【名詞】 にて【格助詞】 見れ【マ行上一段活用「みる」の已然形】 ば【接続助詞】、
この女、いとよう化粧じて、うちながめて、
こ【代名詞】 の【格助詞】 女【名詞】、 いと【副詞】 よう【形容詞ク活用「よし」の連用形:「よく」のウ音便】 化粧じ【サ行変格活用「けさうず」の連用形】 て【接続助詞】、 うちながめ【マ行下二段活用「うちながむ」の連用形】 て【接続助詞】、
■和歌「風吹けば~」の品詞分解・語句文法解説・修辞法(表現技法)などは、【和歌リンク・風吹けば~】からどうぞ。
とよみけるを聞きて、限りなくかなしと思ひて、
と【格助詞】 よみ【マ行四段活用「よむ」の連用形】 ける【過去の助動詞「けり」の連体形】 を【格助詞】 聞き【カ行四段活用「きく」の連用形】 て【接続助詞】、 限りなく【形容詞ク活用「かぎりなし」の連用形】 かなし【形容詞シク活用「かなし」の終止形】 と【格助詞】 思ひ【ハ行四段活用「おもふ」の連用形】 て【接続助詞】、
河内へも行かずなりにけり。
河内【名詞】 へ【格助詞】 も【係助詞】 行か【カ行四段活用「いく」の未然形】 ず【打消の助動詞「ず」の連用形】 なり【ラ行四段活用「なる」の連用形】 に【完了の助動詞「ぬ」の連用形】 けり【過去の助動詞「けり」の終止形】。
第三部
まれまれかの高安に来てみれば、初めこそ心にくくもつくりけれ、
まれまれ【副詞】 か【代名詞】 の【格助詞】 高安【名詞】 に【格助詞】 来【カ行変格活用「く」の連用形】 て【接続助詞】 みれ【マ行上一段活用「みる」の已然形】 ば【接続助詞】、 初め【名詞】 こそ【係助詞】 心にくく【形容詞ク活用「こころにくし」の連用形】 も【係助詞】 つくり【ラ行四段活用「つくる」の連用形】 けれ【過去の助動詞「けり」の已然形】、
今はうちとけて、手づからいひがひ取りて、笥子のうつはものに盛りけるを見て、
今【名詞】 は【係助詞】 うちとけ【カ行下二段活用「うちとく」の連用形】 て【接続助詞】、 手づから【副詞】 いひがひ【名詞】 取り【ラ行四段活用「とる」の連用形】 て【接続助詞】、 笥子【名詞】 の【格助詞】 うつはもの【名詞】 に【格助詞】 盛り【ラ行四段活用「もる」の連用形】 ける【過去の助動詞「けり」の連体形】 を【格助詞】 見【マ行上一段活用「みる」の連用形】 て【接続助詞】、
心うがりて行かずなりにけり。
心うがり【ラ行四段活用「こころうがる」の連用形】 て【接続助詞】 行か【カ行四段活用「いく」の未然形】 ず【打消の助動詞「ず」の連用形】 なり【ラ行四段活用「なる」の連用形】 に【完了の助動詞「ぬ」の連用形】 けり【過去の助動詞「けり」の終止形】。
さりければ、かの女、大和の方を見やりて、
さり【ラ行変格活用「さり」の連用形】 けれ【過去の助動詞「けり」の已然形】 ば【接続助詞】、 か【代名詞】 の【格助詞】 女【名詞】、 大和【名詞】 の【格助詞】 方【名詞】 を【格助詞】 見やり【ラ行四段活用「みやる」の連用形】 て【接続助詞】、
※さりければ【接続詞】とする場合もある。
■和歌「君があたり~」の品詞分解・語句文法解説・修辞法(表現技法)などは、【和歌リンク・君があたり~】からどうぞ。
と言ひて見出だすに、からうじて、大和人、来むと言へり。
と【格助詞】 言ひ【ハ行四段活用「いふ」の連用形】 て【接続助詞】 見出だす【サ行四段活用「みいだす」の連体形】 に【接続助詞】、 からうじて【副詞】、 大和人【名詞】、 来【カ行変格活用「く」の未然形】 む【意志の助動詞「む」の終止形】 と【格助詞】 言へ【ハ行四段活用「いふ」の已然形】 り【完了の助動詞「り」の終止形】。
喜びて待つに、たびたび過ぎぬれば、
喜び【バ行四段活用「よろこぶ」の連用形】 て【接続助詞】 待つ【タ行四段活用「まつ」の連体形】 に【接続助詞】、 たびたび【副詞】 過ぎ【ガ行上二段活用「すぐ」の連用形】 ぬれ【完了の助動詞「ぬ」の已然形】 ば【接続助詞】、
■和歌「君来むと~」の品詞分解・語句文法解説・修辞法(表現技法)などは、【和歌リンク・君来むと~】からどうぞ。
と言ひけれど、男住まずなりにけり。
と【格助詞】 言ひ【ハ行四段活用「いふ」の連用形】 けれ【過去の助動詞「けり」の已然形】 ど【接続助詞】、 男【名詞】 住ま【マ行四段活用「すむ」の未然形】 ず【打消の助動詞「ず」の連用形】 なり【ラ行四段活用「なる」の連用形】 に【完了の助動詞「ぬ」の連用形】 けり【過去の助動詞「けり」の終止形】。
<古典文法の基礎知識>
「古文」を苦手科目から得意科目にする古典文法の基礎知識です。
◆「現代仮名遣い」のルールについては、「現代仮名遣い・発音(読み方)の基礎知識」の記事をどうぞ。
◆「用言の活用と見分け」については、「用言(動詞・形容詞・形容動詞)の活用と見分け方」の記事をどうぞ。
◆「助動詞・助詞の意味」や「係り結び」・「準体法」などについては、「古典文法の必須知識」 の記事をどうぞ。
◆「助動詞の活用と接続」については、「助動詞の活用と接続の覚え方」の記事をどうぞ。
◆「音便」や「敬語(敬意の方向など)」については、 「音便・敬語の基礎知識」の記事をどうぞ。
<語句・文法解説>
■和歌の修辞法(表現技法)、品詞分解、語句文法解説、出典などについては下記リンクからどうぞ。
【リンク・筒井つの】 【リンク・くらべこし】 【リンク・風吹けば】 【リンク・君があたり】 【リンク・君来むと】
◎準体法、主な助動詞・助詞の意味などについては、上にリンクを付けてある「古典文法の必須知識」を読んでね。
第一部
田舎わたらひしける人の子ども :田舎暮らしをしていた人(=地方官)の子供たち
◇この部分の解釈には主に「行商人」説と「地方官(役人)」説あって、行商人説では「田舎を回って行商をしていた人の子供たち」と解釈する。このブログは「地方官説」(下級貴族)を支持。
「子ども」の「ども」 :複数を表わす接尾語。(現代語の「子供=単数」とは違う。)
恥ぢかはし :互いに恥ずかしがる。
得 :手に入れる。自分のものする。ここは「妻にする」意味。
「思ひつつ」の「つつ」 :~しつづけて。~ながら。
親のあはすれ :「の」=主格の格助詞 ~が。 「あはすれ」=結婚させる。
「聞かで」の「で」 :打消の接続助詞 ~ないで。
「かくなむ」の「かく」 :このように。
言ひ言ひ :この「言ふ」は「(歌を)詠む」意味。「言ひ言ひ」=繰り返し(歌を)詠み交わす。
※畳語(じょうご)=同じ単語を重ねた複合語。
本意(ほい) :本来の望み。かねてからの希望。
「あひにけり」の「に」 :「にき(過去)」・「にたり(存続)」・「にけり(過去)」の「に」は完了の助動詞。
「あひ」=結婚する。 「にけり」=~てしまった。
第二部
さて、年ごろ :「さて」=そうして。 「年ごろ」=数年間。
頼りなくなるままに :「頼り」=より所。頼みとするもの。 「ままに」=~つれて。
言ふかひなく :どうしようもない。ふがいない。
あらむやは :いられようか、いや、いられない。
※「やは」=反語の終助詞(係助詞)。係助詞とした場合も終助詞的用法(文末用法)なので「係り結び」は発生しない。
河内の国高安の郡 :今の大阪府中河内郡。奈良と大阪の間。
行き通ふ(いきかよふ) :(男が女の所へ)通って行く。
さりけれど :そうではあったけれど。
悪しと思へるけしき :「悪し(あし)」=不快だ。 「けしき」=様子。
出だしやり :送り出してやる。
異心ありてかかる :「異心(ことごころ)」=浮気心。別の人に引かれる心。 「かかる」=このような。
にやあらむ :~であろうか。
「~である」を意味する「にあり」(断定の助動詞の連用形「に」+ラ変「あり」)の間に係助詞「や」が入ったものに推量の助動詞「む」が付いた形。係り結びで「にや。」のあとに「あらむ」が省略された形など古文で頻出の重要フレーズの一つ。
前栽の中に隠れゐ :「前栽(せんざい)」=庭の植え込み。 「隠れゐ」=隠れて座る。隠れてじっとする。
往ぬる顔 :行くふり。 「顔」=ふり。
いとよう化粧じ :「いと」=たいそう。 「よう」=「よく」のウ音便。音便が分からない人は上にあるリンクから参照のこと。
「化粧じ(けさうじ)」 :サ変複合動詞:サ変複合動詞の場合、「す」の前が「ん」・「う」のときは、連濁(れんだく)して「す」が「ず」に変わる。「~ず」となっても「ザ行」ではなく「サ行」変格活用。
うちながめ :もの思いに沈む。もの思いにふける。もの思いにふけりながら、ぼんやりと見やる。
※「うち」=接頭語。無理に訳出しなくてもよい主な接頭語 :「うち」、「たち」、「かき」、「さし」
「とよみけるを」の「ける」 :準体法なので、この場合は「歌」・体言の代用をする格助詞「の」(準体助詞)などを補って訳出する。
限りなくかなし :「限りなく」=この上なく。 「かなし」=いとしい。かわいい。
第三部
まれまれかの :「まれまれ」=ごくまれに。ときたま。 「かの」=あの。
◇逆接強調法「こそ→已然形、」=「初めこそ心にくくもつくりけれ、」
係り結びは「こそ~已然形。」のように文を終止するのが通常の形だが、「逆接強調法」は文中の「こそ~已然形、」のように文が終止していない形。「のに」「けれど」「が」などを補って訳出する。
心にくくもつくりけれ :「心にくく」=奥ゆかしく 「つくり」=化粧をする。(体裁を)よそおう。(※どちらの解釈もある。)
手づからいひがひ :「手づから」=自分の手で。 「いひがひ(飯匙)」=しゃもじ。
笥子のうつはもの :食器。「笥子(けこ)」=飯を盛る器 うつはもの=容器。
「盛りけるを見て」の「ける」 :ここも準体法なので「様子・姿」・体言の代用をする格助詞「の」(準体助詞)などを補って訳出する。
心うがり :嫌だと思う。嫌気(いやけ)がさす。
さりければ :そういうわけで。
見やり :その方向を見る。遠くを眺める。
見出だす :内から外を見る。外の方を眺める。
からうじて :やっと。ようやく。 「からくして」が変化したもの。
来む :「来よう。=行こう。」目的地である女の方(高安)を基準にした表現。英語の「I'm coming.(いま行きます。)」と同じ感覚。
住まず :「住む」=夫となって女のもとに通う。結婚生活を営む。
<係り結び(※和歌の係り結びは和歌の記事に記載)>
第一部
(この女を)「こそ」→(得)「め」
(聞かで)「なむ」→(あり)「ける」
(隣の男のもとより、かく)「なむ」→結びの省略。
《いひやりける》または《よみおこせける》などの文節が省略されている。
第二部
(かかるに)「や」→(あら)「む」
第三部
(初め)「こそ」→(心にくくもつくり)「けれ」
◇係り結びが分からない人は上にリンクを付けてある「古典文法の必須知識」を読んでね。
<鑑賞・私の一言>
この当時の結婚形態は、夫が妻の元へ通う「妻問婚(つまどひこん)」、つまり「通い婚」・「別居婚」が主で、しかも一夫多妻制。
貴族の場合、夫が官職に就くまでは奥さんの実家の経済力で夫を支えます。将来、婿さんが出世すれば嫁さんの実家も潤いますから先行投資ですね。
第一部では幼なじみのラブラブ状態で結婚した二人でしたが、第二部では女の親が亡くなり、経済的に苦しくなると、男は自分を養ってくれる新しい女を高安に作る。しかし、夫がいなくてもきちんと化粧をして、夫の心配をしながら歌を詠む風雅な最初の妻の様子に、いとしさを感じて高安の女のところへは行かなくなる。
※行商説では、経済的に苦しくなった男が行商に行った高安で新しい女に出会うと解釈する。
それでも、たまに行っていた高安の女が、出会ったころは奥ゆかしかったけれど、だんだんと気を許して慎みを忘れ、自分で飯を盛る姿を見て男は幻滅する。和歌のページでも書きましたが、飯を盛るのは侍女の仕事であって、高貴で風雅な女性のすることではないので、男は高安の女を「なんだぁ、侍女程度の女かぁ」と思って嫌気がさしたんですね。嫌われた理由が分からない高安の女は男を待ち続けるが、男は来なくなってしまったとさって感じですね。
「伊勢物語」(平安時代前期)の文学ジャンル=大和物語などと同じ「歌物語」。作者は未詳。
伊勢物語=日本最古の「歌物語」。
※「歌物語」ですから、「伊勢物語」で重要なのは「和歌」です。《伊勢物語:ブログ収録和歌一覧》
伊勢物語の主人公「昔男」のモデル=「在原業平(ありわらのなりひら)」。
「在原業平」について詳しくは、「こちら(ちはやぶる~)」の記事の作者欄を参照のこと。
予想テスト問題などは、気分が乗ったら、いずれ追記します。
<このブログに収録済みの品詞分解作品>
品詞分解:ブログ収録作品一覧
<古文の学習書と古語辞典>
古文を学ぶための学習書や古語辞典については、おすすめ書籍を紹介した下の各記事を見てね。
《⇒古文学習書の記事へ》
《⇒品詞分解付き対訳書の記事へ》
《⇒古語辞典の記事へ》
そうして、数年間経つうちに、女は親が亡くなり、より所がなくなるにつれて、二人いっしょに(こんな)ふがいない(生活)状態でいられようか、いや、いられないと言って、(そのうち、男は)河内の国の高安の郡に、通って行く(他の女の)所ができてしまった。そうではあったけれど、この元の女は(男が他の女の所に通うのを)不快だと思っている様子もなくて、(男を)送り出してやったので、男は(女に他の男を思う)浮気心があって、このように(素直に送り出してくれるの)であろうかと疑わしく思って、庭の植木の中に隠れて座って、河内の国へ行くようなふりをして見ていると、この女は、たいそう美しく化粧して、もの思いにふけりながら、ぼんやりと(夫の行った方向を)見やって、
風が吹くと沖の白波が立つ、その「たつ」を名に持つ竜田山を、この夜中にあなたは一人寂しく越えているのでしょうか。
と詠んだ歌を聞いて、この上なく(女を)いとしいと思って、河内へも行かなくなってしまった。
第三部
(男が)ごくまれに、あの高安(の女の家)に来て見ると、(高安の女は)初めのころは、奥ゆかしく(体裁を)よそおっていたが、今は気を許して、自分の手でしゃもじを取って、食器に(ご飯を)盛ったのを見て、嫌気(いやけ)がさして(高安には)行かなくなってしまった。そういうわけで、あの(高安の)女は、(男が住む)大和の方を遠く眺めて、
あなたの(いらっしゃる大和の)あたりを見続けていましょう。生駒山を、雲よ隠さないでおくれ。たとえ雨は降っても。
と(歌を)詠んで、外の方を眺めていると、やっと大和の男が「(あなたの所へ)行こう」と言ってよこした。(高安の女は)喜んで待っているが、そのたび毎に(男が来ることはなく、むなしく時が)過ぎてしまったので、(高安の女は、)
あなたが来よう(=行こう)と言った夜ごとに、いつも空しく時が過ぎてしまったので、今ではあてにしてはいないけれども、やはり恋しく思いながら過ごしています。
と(歌を)詠んだ(=歌を詠んで贈った)が、男は(高安の女の所には)通って来なくなってしまった。
<品詞分解(文法的説明=文法解釈)>
◇主要な品詞を色別表示にした見やすい品詞分解を別サイトに作成しました。
《⇒品詞色別表示の品詞分解サイトへ行く》
※活用の基本形を、ひらがなで示した。動詞は、品詞名を省略した。
※二通りの解釈や説がある場合、「やは【終助詞(係助詞)・・・】」などのように示した。
第一部
昔、田舎わたらひしける人の子ども、井のもとに出でて遊びけるを、
昔【名詞】、 田舎わたらひ【名詞】 し【サ行変格活用「す」の連用形】 ける【過去の助動詞「けり」の連体形】 人【名詞】 の【格助詞】 子ども【名詞】、 井【名詞】 の【格助詞】 もと【名詞】 に【格助詞】 出で【ダ行下二段活用「いづ」の連用形】 て【接続助詞】 遊び【バ行四段活用「あそぶ」の連用形】 ける【過去の助動詞「けり」の連体形】 を【接続助詞】、
※田舎わたらひし【サ行変格活用「ゐなかわたらひす」の連用形】とする場合もある。
大人になりにければ、男も女も恥ぢかはしてありけれど、
大人【名詞】 に【格助詞】 なり【ラ行四段活用「なる」の連用形】 に【完了の助動詞「ぬ」の連用形】 けれ【過去の助動詞「けり」の已然形】 ば【接続助詞】、 男【名詞】 も【係助詞】 女【名詞】 も【係助詞】 恥ぢかはし【サ行四段活用「はぢかはす」の連用形】 て【接続助詞】 あり【ラ行変格活用「あり」の連用形】 けれ【過去の助動詞「けり」の已然形】 ど【接続助詞】、
男はこの女をこそ得めと思ふ。
男【名詞】 は【係助詞】 こ【代名詞】 の【格助詞】 女【名詞】 を【格助詞】 こそ【係助詞】 得【ア行下二段活用「う」の未然形】 め【意志の助動詞「む」の已然形】 と【格助詞】 思ふ【ハ行四段活用「おもふ」の終止形】。
女はこの男をと思ひつつ、親のあはすれども、聞かでなむありける。
女【名詞】 は【係助詞】 こ【代名詞】 の【格助詞】 男【名詞】 を【格助詞】 と【格助詞】 思ひ【ハ行四段活用「おもふ」の連用形】 つつ【接続助詞】、 親【名詞】 の【格助詞】 あはすれ【サ行下二段活用「あはす」の已然形】 ども【接続助詞】、 聞か【カ行四段活用「きく」の未然形】 で【接続助詞】 なむ【係助詞】 あり【ラ行変格活用「あり」の連用形】 ける【過去の助動詞「けり」の連体形】。
さて、この隣の男のもとより、かくなむ、
さて【接続詞】、 こ【代名詞】 の【格助詞】 隣【名詞】 の【格助詞】 男【名詞】 の【格助詞】 もと【名詞】 より【格助詞】、 かく【副詞】 なむ【係助詞】、
■和歌「筒井つの~」の品詞分解・語句文法解説・修辞法(表現技法)などは、【和歌リンク・筒井つの~】からどうぞ。
女、返し、
女【名詞】、 返し【名詞】、
■和歌「くらべこし~」の品詞分解・語句文法解説・修辞法(表現技法)などは、【和歌リンク・くらべこし~】からどうぞ。
など言ひ言ひて、つひに本意のごとくあひにけり。
など【副助詞】 言ひ【ハ行四段活用「いふ」の連用形】 言ひ【ハ行四段活用「いふ」の連用形】 て【接続助詞】、 つひに【副詞】 本意【名詞】 の【格助詞】 ごとく【比況の助動詞「ごとし」の連用形】 あひ【ハ行四段活用「あふ」の連用形】 に【完了の助動詞「ぬ」の連用形】 けり【過去の助動詞「けり」の終止形】。
第二部
さて、年ごろ経るほどに、女、親なく、頼りなくなるままに、
さて【接続詞】、 年ごろ【名詞】 経る【ハ行下二段活用「ふ」の連体形】 ほど【名詞】 に【格助詞】、 女【名詞】、 親【名詞】 なく【形容詞ク活用「なし」の連用形】、 頼り【名詞】 なく【形容詞ク活用「なし」の連用形】 なる【ラ行四段活用「なる」の連体形】 まま【名詞】 に【格助詞】、
もろともに言ふかひなくてあらむやはとて、河内の国高安の郡に、行き通ふ所出で来にけり。
もろともに【副詞】 言ふかひなく【形容詞ク活用「いふかひなし」の連用形】 て【接続助詞】 あら【ラ行変格活用「あり」の未然形】 む【推量の助動詞「む」の終止形】 やは【終助詞(係助詞)】 と【格助詞】 て【接続助詞】、 河内の国【名詞】 高安の郡【名詞】 に【格助詞】、 行き通ふ【ハ行四段活用「いきかよふ」の連体形】 所【名詞】 出で来【カ行変格活用「いでく」の連用形】 に【完了の助動詞「ぬ」の連用形】 けり【過去の助動詞「けり」の終止形】。
※とて【格助詞】とする立場もある。
さりけれど、このもとの女、悪しと思へるけしきもなくて、
さり【ラ行変格活用「さり」の連用形】 けれ【過去の助動詞「けり」の已然形】 ど【接続助詞】、 こ【代名詞】 の【格助詞】 もと【名詞】 の【格助詞】 女【名詞】、 悪し【形容詞シク活用「あし」の終止形】 と【格助詞】 思へ【ハ行四段活用「おもふ」の已然形】 る【存続の助動詞「り」の連体形】 けしき【名詞】 も【係助詞】 なく【形容詞ク活用「なし」の連用形】 て【接続助詞】、
※さりけれど【接続詞】とする場合もある。
出だしやりければ、男、異心ありてかかるにやあらむと、
出だしやり【ラ行四段活用「いだしやる」の連用形】 けれ【過去の助動詞「けり」の已然形】 ば【接続助詞】、 男【名詞】、 異心【名詞】 あり【ラ行変格活用「あり」の連用形】 て【接続助詞】 かかる【ラ行変格活用「かかり」の連体形】 に【断定の助動詞「なり」の連用形】 や【係助詞】 あら【ラ行変格活用「あり」の未然形】 む【推量の助動詞「む」の連体形】 と【格助詞】、
※かかる【連体詞】とする場合もある。
思ひ疑ひて、前栽の中に隠れゐて、河内へ往ぬる顔にて見れば、
思ひ疑ひ【ハ行四段活用「おもひうたがふ」の連用形】 て【接続助詞】、 前栽【名詞】 の【格助詞】 中【名詞】 に【格助詞】 隠れゐ【ワ行上一段活用「かくれゐる」の連用形】 て【接続助詞】、 河内【名詞】 へ【格助詞】 往ぬる【ナ行変格活用「いぬ」の連体形】 顔【名詞】 にて【格助詞】 見れ【マ行上一段活用「みる」の已然形】 ば【接続助詞】、
この女、いとよう化粧じて、うちながめて、
こ【代名詞】 の【格助詞】 女【名詞】、 いと【副詞】 よう【形容詞ク活用「よし」の連用形:「よく」のウ音便】 化粧じ【サ行変格活用「けさうず」の連用形】 て【接続助詞】、 うちながめ【マ行下二段活用「うちながむ」の連用形】 て【接続助詞】、
■和歌「風吹けば~」の品詞分解・語句文法解説・修辞法(表現技法)などは、【和歌リンク・風吹けば~】からどうぞ。
とよみけるを聞きて、限りなくかなしと思ひて、
と【格助詞】 よみ【マ行四段活用「よむ」の連用形】 ける【過去の助動詞「けり」の連体形】 を【格助詞】 聞き【カ行四段活用「きく」の連用形】 て【接続助詞】、 限りなく【形容詞ク活用「かぎりなし」の連用形】 かなし【形容詞シク活用「かなし」の終止形】 と【格助詞】 思ひ【ハ行四段活用「おもふ」の連用形】 て【接続助詞】、
河内へも行かずなりにけり。
河内【名詞】 へ【格助詞】 も【係助詞】 行か【カ行四段活用「いく」の未然形】 ず【打消の助動詞「ず」の連用形】 なり【ラ行四段活用「なる」の連用形】 に【完了の助動詞「ぬ」の連用形】 けり【過去の助動詞「けり」の終止形】。
第三部
まれまれかの高安に来てみれば、初めこそ心にくくもつくりけれ、
まれまれ【副詞】 か【代名詞】 の【格助詞】 高安【名詞】 に【格助詞】 来【カ行変格活用「く」の連用形】 て【接続助詞】 みれ【マ行上一段活用「みる」の已然形】 ば【接続助詞】、 初め【名詞】 こそ【係助詞】 心にくく【形容詞ク活用「こころにくし」の連用形】 も【係助詞】 つくり【ラ行四段活用「つくる」の連用形】 けれ【過去の助動詞「けり」の已然形】、
今はうちとけて、手づからいひがひ取りて、笥子のうつはものに盛りけるを見て、
今【名詞】 は【係助詞】 うちとけ【カ行下二段活用「うちとく」の連用形】 て【接続助詞】、 手づから【副詞】 いひがひ【名詞】 取り【ラ行四段活用「とる」の連用形】 て【接続助詞】、 笥子【名詞】 の【格助詞】 うつはもの【名詞】 に【格助詞】 盛り【ラ行四段活用「もる」の連用形】 ける【過去の助動詞「けり」の連体形】 を【格助詞】 見【マ行上一段活用「みる」の連用形】 て【接続助詞】、
心うがりて行かずなりにけり。
心うがり【ラ行四段活用「こころうがる」の連用形】 て【接続助詞】 行か【カ行四段活用「いく」の未然形】 ず【打消の助動詞「ず」の連用形】 なり【ラ行四段活用「なる」の連用形】 に【完了の助動詞「ぬ」の連用形】 けり【過去の助動詞「けり」の終止形】。
さりければ、かの女、大和の方を見やりて、
さり【ラ行変格活用「さり」の連用形】 けれ【過去の助動詞「けり」の已然形】 ば【接続助詞】、 か【代名詞】 の【格助詞】 女【名詞】、 大和【名詞】 の【格助詞】 方【名詞】 を【格助詞】 見やり【ラ行四段活用「みやる」の連用形】 て【接続助詞】、
※さりければ【接続詞】とする場合もある。
■和歌「君があたり~」の品詞分解・語句文法解説・修辞法(表現技法)などは、【和歌リンク・君があたり~】からどうぞ。
と言ひて見出だすに、からうじて、大和人、来むと言へり。
と【格助詞】 言ひ【ハ行四段活用「いふ」の連用形】 て【接続助詞】 見出だす【サ行四段活用「みいだす」の連体形】 に【接続助詞】、 からうじて【副詞】、 大和人【名詞】、 来【カ行変格活用「く」の未然形】 む【意志の助動詞「む」の終止形】 と【格助詞】 言へ【ハ行四段活用「いふ」の已然形】 り【完了の助動詞「り」の終止形】。
喜びて待つに、たびたび過ぎぬれば、
喜び【バ行四段活用「よろこぶ」の連用形】 て【接続助詞】 待つ【タ行四段活用「まつ」の連体形】 に【接続助詞】、 たびたび【副詞】 過ぎ【ガ行上二段活用「すぐ」の連用形】 ぬれ【完了の助動詞「ぬ」の已然形】 ば【接続助詞】、
■和歌「君来むと~」の品詞分解・語句文法解説・修辞法(表現技法)などは、【和歌リンク・君来むと~】からどうぞ。
と言ひけれど、男住まずなりにけり。
と【格助詞】 言ひ【ハ行四段活用「いふ」の連用形】 けれ【過去の助動詞「けり」の已然形】 ど【接続助詞】、 男【名詞】 住ま【マ行四段活用「すむ」の未然形】 ず【打消の助動詞「ず」の連用形】 なり【ラ行四段活用「なる」の連用形】 に【完了の助動詞「ぬ」の連用形】 けり【過去の助動詞「けり」の終止形】。
<古典文法の基礎知識>
「古文」を苦手科目から得意科目にする古典文法の基礎知識です。
◆「現代仮名遣い」のルールについては、「現代仮名遣い・発音(読み方)の基礎知識」の記事をどうぞ。
◆「用言の活用と見分け」については、「用言(動詞・形容詞・形容動詞)の活用と見分け方」の記事をどうぞ。
◆「助動詞・助詞の意味」や「係り結び」・「準体法」などについては、「古典文法の必須知識」 の記事をどうぞ。
◆「助動詞の活用と接続」については、「助動詞の活用と接続の覚え方」の記事をどうぞ。
◆「音便」や「敬語(敬意の方向など)」については、 「音便・敬語の基礎知識」の記事をどうぞ。
<語句・文法解説>
■和歌の修辞法(表現技法)、品詞分解、語句文法解説、出典などについては下記リンクからどうぞ。
【リンク・筒井つの】 【リンク・くらべこし】 【リンク・風吹けば】 【リンク・君があたり】 【リンク・君来むと】
◎準体法、主な助動詞・助詞の意味などについては、上にリンクを付けてある「古典文法の必須知識」を読んでね。
第一部
田舎わたらひしける人の子ども :田舎暮らしをしていた人(=地方官)の子供たち
◇この部分の解釈には主に「行商人」説と「地方官(役人)」説あって、行商人説では「田舎を回って行商をしていた人の子供たち」と解釈する。このブログは「地方官説」(下級貴族)を支持。
「子ども」の「ども」 :複数を表わす接尾語。(現代語の「子供=単数」とは違う。)
恥ぢかはし :互いに恥ずかしがる。
得 :手に入れる。自分のものする。ここは「妻にする」意味。
「思ひつつ」の「つつ」 :~しつづけて。~ながら。
親のあはすれ :「の」=主格の格助詞 ~が。 「あはすれ」=結婚させる。
「聞かで」の「で」 :打消の接続助詞 ~ないで。
「かくなむ」の「かく」 :このように。
言ひ言ひ :この「言ふ」は「(歌を)詠む」意味。「言ひ言ひ」=繰り返し(歌を)詠み交わす。
※畳語(じょうご)=同じ単語を重ねた複合語。
本意(ほい) :本来の望み。かねてからの希望。
「あひにけり」の「に」 :「にき(過去)」・「にたり(存続)」・「にけり(過去)」の「に」は完了の助動詞。
「あひ」=結婚する。 「にけり」=~てしまった。
第二部
さて、年ごろ :「さて」=そうして。 「年ごろ」=数年間。
頼りなくなるままに :「頼り」=より所。頼みとするもの。 「ままに」=~つれて。
言ふかひなく :どうしようもない。ふがいない。
あらむやは :いられようか、いや、いられない。
※「やは」=反語の終助詞(係助詞)。係助詞とした場合も終助詞的用法(文末用法)なので「係り結び」は発生しない。
河内の国高安の郡 :今の大阪府中河内郡。奈良と大阪の間。
行き通ふ(いきかよふ) :(男が女の所へ)通って行く。
さりけれど :そうではあったけれど。
悪しと思へるけしき :「悪し(あし)」=不快だ。 「けしき」=様子。
出だしやり :送り出してやる。
異心ありてかかる :「異心(ことごころ)」=浮気心。別の人に引かれる心。 「かかる」=このような。
にやあらむ :~であろうか。
「~である」を意味する「にあり」(断定の助動詞の連用形「に」+ラ変「あり」)の間に係助詞「や」が入ったものに推量の助動詞「む」が付いた形。係り結びで「にや。」のあとに「あらむ」が省略された形など古文で頻出の重要フレーズの一つ。
前栽の中に隠れゐ :「前栽(せんざい)」=庭の植え込み。 「隠れゐ」=隠れて座る。隠れてじっとする。
往ぬる顔 :行くふり。 「顔」=ふり。
いとよう化粧じ :「いと」=たいそう。 「よう」=「よく」のウ音便。音便が分からない人は上にあるリンクから参照のこと。
「化粧じ(けさうじ)」 :サ変複合動詞:サ変複合動詞の場合、「す」の前が「ん」・「う」のときは、連濁(れんだく)して「す」が「ず」に変わる。「~ず」となっても「ザ行」ではなく「サ行」変格活用。
うちながめ :もの思いに沈む。もの思いにふける。もの思いにふけりながら、ぼんやりと見やる。
※「うち」=接頭語。無理に訳出しなくてもよい主な接頭語 :「うち」、「たち」、「かき」、「さし」
「とよみけるを」の「ける」 :準体法なので、この場合は「歌」・体言の代用をする格助詞「の」(準体助詞)などを補って訳出する。
限りなくかなし :「限りなく」=この上なく。 「かなし」=いとしい。かわいい。
第三部
まれまれかの :「まれまれ」=ごくまれに。ときたま。 「かの」=あの。
◇逆接強調法「こそ→已然形、」=「初めこそ心にくくもつくりけれ、」
係り結びは「こそ~已然形。」のように文を終止するのが通常の形だが、「逆接強調法」は文中の「こそ~已然形、」のように文が終止していない形。「のに」「けれど」「が」などを補って訳出する。
心にくくもつくりけれ :「心にくく」=奥ゆかしく 「つくり」=化粧をする。(体裁を)よそおう。(※どちらの解釈もある。)
手づからいひがひ :「手づから」=自分の手で。 「いひがひ(飯匙)」=しゃもじ。
笥子のうつはもの :食器。「笥子(けこ)」=飯を盛る器 うつはもの=容器。
「盛りけるを見て」の「ける」 :ここも準体法なので「様子・姿」・体言の代用をする格助詞「の」(準体助詞)などを補って訳出する。
心うがり :嫌だと思う。嫌気(いやけ)がさす。
さりければ :そういうわけで。
見やり :その方向を見る。遠くを眺める。
見出だす :内から外を見る。外の方を眺める。
からうじて :やっと。ようやく。 「からくして」が変化したもの。
来む :「来よう。=行こう。」目的地である女の方(高安)を基準にした表現。英語の「I'm coming.(いま行きます。)」と同じ感覚。
住まず :「住む」=夫となって女のもとに通う。結婚生活を営む。
<係り結び(※和歌の係り結びは和歌の記事に記載)>
第一部
(この女を)「こそ」→(得)「め」
(聞かで)「なむ」→(あり)「ける」
(隣の男のもとより、かく)「なむ」→結びの省略。
《いひやりける》または《よみおこせける》などの文節が省略されている。
第二部
(かかるに)「や」→(あら)「む」
第三部
(初め)「こそ」→(心にくくもつくり)「けれ」
◇係り結びが分からない人は上にリンクを付けてある「古典文法の必須知識」を読んでね。
<鑑賞・私の一言>
この当時の結婚形態は、夫が妻の元へ通う「妻問婚(つまどひこん)」、つまり「通い婚」・「別居婚」が主で、しかも一夫多妻制。
貴族の場合、夫が官職に就くまでは奥さんの実家の経済力で夫を支えます。将来、婿さんが出世すれば嫁さんの実家も潤いますから先行投資ですね。
第一部では幼なじみのラブラブ状態で結婚した二人でしたが、第二部では女の親が亡くなり、経済的に苦しくなると、男は自分を養ってくれる新しい女を高安に作る。しかし、夫がいなくてもきちんと化粧をして、夫の心配をしながら歌を詠む風雅な最初の妻の様子に、いとしさを感じて高安の女のところへは行かなくなる。
※行商説では、経済的に苦しくなった男が行商に行った高安で新しい女に出会うと解釈する。
それでも、たまに行っていた高安の女が、出会ったころは奥ゆかしかったけれど、だんだんと気を許して慎みを忘れ、自分で飯を盛る姿を見て男は幻滅する。和歌のページでも書きましたが、飯を盛るのは侍女の仕事であって、高貴で風雅な女性のすることではないので、男は高安の女を「なんだぁ、侍女程度の女かぁ」と思って嫌気がさしたんですね。嫌われた理由が分からない高安の女は男を待ち続けるが、男は来なくなってしまったとさって感じですね。
「伊勢物語」(平安時代前期)の文学ジャンル=大和物語などと同じ「歌物語」。作者は未詳。
伊勢物語=日本最古の「歌物語」。
※「歌物語」ですから、「伊勢物語」で重要なのは「和歌」です。《伊勢物語:ブログ収録和歌一覧》
伊勢物語の主人公「昔男」のモデル=「在原業平(ありわらのなりひら)」。
「在原業平」について詳しくは、「こちら(ちはやぶる~)」の記事の作者欄を参照のこと。
予想テスト問題などは、気分が乗ったら、いずれ追記します。
<このブログに収録済みの品詞分解作品>
品詞分解:ブログ収録作品一覧
<古文の学習書と古語辞典>
古文を学ぶための学習書や古語辞典については、おすすめ書籍を紹介した下の各記事を見てね。
《⇒古文学習書の記事へ》
《⇒品詞分解付き対訳書の記事へ》
《⇒古語辞典の記事へ》
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