裸Yシャツを堪能し尽くした俺は、ベッドに寝転がりタブレットに自撮り写真を転送していた。この写真の数々が万が一にも消える事はあってはならない。3時間掛けてスマホで撮った裸Yシャツのアリスの数々。表情を変え、ポーズを変え、角度を変え、沢山のアリスを撮った。服装こそ全て裸Yシャツだが、どの写真にも違う魅力を持ったアリスが写っている。
可愛い。美しい。綺麗。可憐。愛しい。
1枚撮る事にまた違うアリスが写る。
撮る対象が同じでも、瞬間瞬間によって写真は表情を変える。
うん。面白い。
カメラが好きな人はこう言った気持ちなのだろうか。
これはカメラを始めるのもいいかも知れない。
アリスが首からカメラを掛け街を歩く。
真剣な顔でフィルターを覗いてカシャリ。
いい写真が撮れたら笑顔でニコリ。
うぉ〜。萌だ。これは萌だよ。
むしろその写真を撮っているアリスをカメラに納めたい。
カメラを密林でポチる候補に加え、タブレットで写真を見ていく。
こうして見ると得に後半に撮った写真が素晴らしい。
前半のぎこちないポージングで戸惑った顔のアリスも勿論いい。
裸Yシャツと言う姿も相まって、女の子が背伸びして慣れない事に挑戦していますと言う感じが出ていて実に良い。
そしてけしからん。
だが後半の写真はそれを上回る。
自撮り技術が向上したのは勿論だが、撮り続けた事で陶器の様な肌に汗が滲み始めたのだ。
肌は仄かに赤みを持ち、滲んだ汗は胸元を濡らす。上気した頬は前半までのぎこちない表情ではなく、自然なふんわりとした笑顔を浮かべている。
けしからん。実にけしからん。
厳選した写真をフォルダにぶち込み、万が一にも消去されない様に保護を付ける。
「ぐぅ〜〜」
今のベッドに寝転がっているアリスも撮っておこうとスマホを手に取った時、腹が鳴った。
「そっか。起きてから何も食べてなかったわね。ずっと動いていたしお腹が減るのは当然ね」
一度空腹に気付くと、気になって仕方がない。名残り惜しいが撮影会は中断し、キッチンへ向かうとする。
冷蔵庫を開けると昨日買った半額弁当が目に入る。普段はコンビニやスーパーのお惣菜等で済ましているので、今冷蔵庫にあるのは半額弁当と半端に余った野菜。常備している米、缶ビール、袋ラーメン程度の物だ。
これからは改善する必要があるだろう。
ということで今日の昼食、いや時間的に夕食の方が近いか。
夕食は半額弁当。そして缶ビールだ。
今日は人生で一番驚いた日だ。飲まずにはいられない。欲を言えば、風呂で一汗流してから火照った身体にキンキンに冷えたビールを流し込んで、酔いに酔って倒れる様に寝たい。
が空腹には勝てない。
レンジで温めた半額弁当の中身はチキン南蛮だ。アリスの口は小さいので、タルタルソースが垂れない様に一口食べる。
ふむ。
まずまずだが、味を濃く感じるな。身体がアリスになった影響だろう。視力が良い様に味覚もいいのだろう。感覚が鋭くなったとはいい事だ。
ではビールの味はどう感じるだろう。グラスを手を取り口に運ぶ。
暑い日には冷やしたビールを喉に流し込む様にして飲むが、今は冬。室内は暖房で温かいが暑くはない。そう言った時は舌で味わって飲むのが良い。
ビールを口に含み飲む。一口、二口、三口。
「ぷはぁー!美味しいわ」
ビールの苦味が以前より際立って感じる。喉に抜けていく炭酸のビールの風味。素晴らしいじゃないか。
これは味覚を楽しむことも今後の目標にしよう。
ビールを楽しんでる内に、あっという間にチキン南蛮は無くなった。
そして夕食を終えれば風呂の時間だ。ビールを飲んで居るので長風呂は避けておこう。まず髪の毛を洗い、身体を洗っていく。昨日まではゴシゴシと擦る硬いタオルで身体を洗っていたが、肌を傷つけそうなので手に泡を付けて撫でる様に洗う。
不思議な感覚だ。
自分の手だというのにむず痒いと言うか、正直心地良い。
洗っているうちに気が付いたが、全身うぶ毛すら生えてない。本当に陶器の様な肌だ。汗はかいていたから、毛穴はあるんだろうがどうなってるんだ。病院とか行ったら怪しまれ無いだろうか。
最後に鏡に映る泡まみれのアリスを堪能して湯船に浸かる。肩までお湯につかってリラックスだ。慣れてきたとはいってもこの身体はまだまだ分からない事だらけだ。つま先から頭まで髪の一本一本まで美しい。細部まで創り込まれたかのような身体。
口まで湯船に浸かりブクブクと息を吹く。
アリスになった原因はなんだろうか。
目が覚めたらアリス・マーガトロイドになっていた。つまり寝ている間に何か『異変』が起こったのだろう。うーん。当然だが全く分からない。
時間が経ち身体が温まってくると共に眠気が出てきた。
ビール美味しかったな。風呂上がりにビール飲もうかな。アリスにはワインが似合いそうだな。色んな考えが浮かんでは消える。
てか、酒の事しか考えてない。
「ふぁー。気持ちいい」
思わず声が出る。これはいけない。
ビール1缶とは言えアルコールを飲んでいるのだ。早めに上がるとしよう。
しかし、この声はクセになる。自分の声だが言葉遣いは勝手に変換されるし、声自体はアリスの、少女の声だ。訓練すれば声優になれそうな、通りの良い可愛らしい声だ。
聴いていてると気分が良くなる。
やはりアリスボディは素晴らしい。
声は可愛い。見た目は可愛い。正に理想の美少女じゃないか。
風呂から出た後は水気をタオルを押し当てるようにふき取り、髪の毛を入念に乾かす。
うん、改めてみても金髪青眼の美少女だ。スタイルも整っている。可愛い。何度見ても可愛い。興が乗ったのでポーズをとってみる。
掌で片目を抑えドヤ顔のアリス。
ふむ。良いではないか。
最初に取ったポーズがコレだというのは、私は未だ中2病か。
興が乗ったので、ネットでポチる服を考えてみる。やはりアリスと言えば、青いワンピースに白いケープにロングブーツ。赤のカチューシャとリボンだろうか。
アリスの基本の服装だから、是非とも買い揃えて起きたい所だがコスプレに見られそうだ。
いや確実に見られる。
となると、この服装は自分で楽しむ用。或いは将来あるかもしれないイベントに参加する時に取っておこうか。
なら私が個人的に好きな女の子の服装を考えよう。
冬だし上にセーターがいいかな。色は…白かな。
下は…赤のスカートに黒ニーソ。それからトレンチコートを羽織るのはどうだろう。スカートとコートを揺らし颯爽と歩くアリス。
あ、これはまずい。私が持たない。
この姿で人前に出るのはなんと無く恥ずかしいな。だが間違いなく可愛い。
特に、赤いスカートと黒いニーソの組み合わせが良い。明らかに冬にそんな格好をすれば、寒い事間違いないがそこは譲れない。
とか言ってるくせに、恥ずかしいと思っているのは駄目だろう。
よし、まずは買って着てみてから考えよう。
こんな物だろうか。
タブレットで密林での買い物を終え、最後に買い物かごの中身を見る。
服に下着、靴、化粧品にその他諸々。
合計金額約20万円也。
服なんかが高かったのもあるが、その他の部分が予想外に高くついた。
絶対に必要とは言えない物も沢山買った。特にカメラと【アレ】を買わなければ半値程度にはなっただろうが、ここは初期投資と割り切ろう。
買い物の前に身長も測ったし、足の大きさも測った。…3サイズもネットで調べながら、頑張って測った。
なんか気恥ずかしかったが、鏡を見ながらしっかり測ったので特別違ってはいない筈だ。
ブラの選び方もネットで調べたし、流行りのファッションなんかも出来る限り勉強した。ついでにファッション誌をポチったので、届いたらじっくり読むぞ。
化粧品は女性の嗜みとして持っておく方がいいと思いポチってみた。まぁ種類が多すぎてどれがどう違うのかイマイチ分からなかったので、値段が手頃で評価が良いものを一式揃えてみただけだが。
そもそもアリスに化粧は全く必要無いと思うのだ。プロがやるならともかく、素人がやってもこの顔から、さらに美しさを引き出せるとは到底思えない。
買い物かごの商品を一つ一つ確認してから、注文ボタンを押す。
お届け予定日は…明後日の朝か。これだけの商品が今は夜だから実質1日で届くとは、良い時代になったものだ。
「本当、『私』が居た場所とは大違いね」
知らず口から出た言葉に驚いた。一瞬自分の口から出た声だとは分からなかった位だ。
思わず手を口にやる。
しっとりとした唇が指先に触れるが、それだけだ。
「……今のはいったい、何?」
タブレットを手放してベッドで横になる。
Tシャツしか着ていないし、電気も暖房も付けたままだが動く気になれなかった。
今のは何だったんだ。今のは『誰』だったんだ?
まさか、この身体の持ち主だったアリス本人なのだろうか。
だとすれば私、私は…。
どうすればいいんだ。
そして私は眠りに堕ちた。
いつの間にか『俺』と言う言葉を使わなくなってる事に気付くことなく。
【厳選フォルダ】見たい。見せて下さい。
【ビール】美味い。旨い。甘い。
【アレ】あれだよ。あれ。
【なんか不穏?】気のせい。割とマジで。