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無能な家族に追放された貴族少年、実は天職が【チート魔道具師】で、辺境で内政無双をしていたら、有能な家臣領民が続々と移住してきて、本家を超える国力に急成長。あとチート魔道具で軍事力も半端ない 作者:ハーーナ殿下@5月12日コミック戦鬼1巻発売
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第2話:新しい人生スタート

 実家を追放されてしまったボクは、辺境に島流しされる。

 家どころか魔物しかない荒野に、一人でポツンと立ち尽くす。


「よし、これから頑張っていこう!」


 追放されてしまったことには、正直なところ憤りは感じている。

 だが気持ちの切り替えが大事。一日でも長く生き抜くことを決意する。


「まずは衣食住を確保しないとな。衣類はあるから、住居と食料をどうにかしよう!」


 とりあえず廃村に向かう。

 村の中を進んでいく、二十軒くらいの木造の建物があった。でも全ての建物が半壊している。


 先ほどの兄たちの話では、昔アルバート家が送り込んだ開拓団の名残。

 魔物だらけのこの領地を開拓できず、獣に襲われて滅びた感じだ。

 でも今は他に住むアテはない。


「よし、この建物がいいかな」


 廃村の中、一番大きな建物の前にやってきた。

 おそらくは村長が住んでいた建物なのであろう。ここも見事に半壊はしている。

 ボクが住むには修理をする必要がある。


「それじゃ出すか……【収納】!」


 ボクの作った魔道具《収納袋》の中から、リフォーム用の魔道具を取り出す。


 シュイ――――ン!


 華やかな音と共に、目の前に七体の小人が出現する。

 ボクが昔作った、魔道具《魔道人形(パペット)》だ。

 《魔道人形(パペット)》は仕事内容を命令したら、忠実なまで実行してくれる。



 この七人の名は《七人小人(セブンス・ホビット)》といって、得意分野は修理や物作り手先が器用で、腕利きの職人並の技術がある。

 あと力もけっこう強く、大木や巨石も持ち運び可能。まさに壊れた家を直すには、うってつけ存在なのだ。


「それじゃ、みんな。“建物”を人が住めるように、直してちょうだい!」


「「「うん! えい、えい、お――――!」」」


 可愛い掛け声と共に、《七人小人(セブンス・ホビット)》が一斉に動き出す。

 内蔵している工具を使って、家の修理を始めていく。


 ボクは収納袋から修理に必要な材料を、家の前に出しておく。

 材料はアルバート領をウロウロしながら、ここ十年で貯めこんでおいた物だ。


「さて修理の間、ボクは周辺の調査でもしておこうかな」


 衣食住の中で残るは食料。その中でも一番大事な“水”を確保するために、周囲を村の確認に向かう。


「ここに開拓団の拠点があったということは……あった、川だ!」


 村の奥に川が流れていた。

 水場の跡もあり、雰囲気的に開拓団の人たちは、この川の水を飲んで生活していたのだろう。


 試しに飲んでみる、「うん、美味しい!」かなりの美味しさだ。

 少なくともアルバート領の鉄分を含んだ井戸水よりは、何倍も美味しい。


「あれ? もしかしたら追放されたことは、ボクにとって幸せなのかもしれないな……」


 アルバート家でこの十数年間、ボクは本当に肩身の狭い生活をしてきた。

 あの家にとってボクは異質な存在。今は亡き母の連れ子であり、アルバート家の誰ともボクは血が繋がっていない。


 正直なところ追放されなければ家出をしていたくらい、屋敷の中では蔑まされて毎日だった。


「でも、ここではボクを罵倒する家族や、蔑んでくる兄はいない。しかも大好きな魔道具を、正々堂々と使うことも出来る! よく考えたら、こんな素晴らしいことはないぞ!」


 大陸の貴族は攻撃魔法至上主義な人が多く、魔道具は軽んじられてきた。

 そのためアルバート家でも、ボクは大ぴらに魔道具を使うことが出来なった。


 だが今は違う。名目上ではあるが、ここはボクの領地。

 誰の目も気にしないで自由気まま魔道具を使える。更に新しい魔道具も、ドンドン作り出していくことが出来るのだ。


「よし、頑張っていくぞ! ……へっ⁉」


 気合を入れて後ろを振り向いて、ボクは思わず変な声を出してしまう。

 何故なら見たことがある男女三人が、すぐ後ろに控えていたのだ。


「えーと、セバスチャンとレイチェル、それにミーケ……だよね? どうして、こんなところに?」


 膝をついて控えていたのは、三人の知った顔。


 初老でダンディな白髪オールバックの執事服のセバスチャン。


 赤い髪で妖艶なボディのメイド服のレイチェル。


 茶色いショートカットで小柄な猫獣人のメイド服のミーケ。


 アルバート家に仕えている使用人の三人。

 何の気配もなく、いきなりボクの背後にいたのだ。


「も、もしかしてボクを……」


 “始末”しにきたのだろうか。

 父の命令で、邪魔なボクの命を亡きものに⁉

 思わず身構えてしまう。


「突然のことで失礼いたしました、ライル様。我々三名はライル様を慕って出奔(しゅっぽん)してまいりました」


 三人を代表して、執事長セバスチャンが理由を説明してきた。

 “出奔(しゅっぽん)”は領民や家臣が無断で、領地の外に出て姿を消すことだ。つまり……


「えっ? ボクのことを慕って、アルバート家から出てきたの? えっ、三人とも仕事は、どうしたの?」


「仕事は辞めてまいりましたわ、ライル様。ライル様が追放されたと聞いて、三人ですぐに辞表を出して追いかけてまいりましたわ!」


 次に答えたのはセクシーなレイチェル。妖艶な笑みで、ボクのことをじっと見つめてくる。


「そ、そうなんだ……でも父上がよく許してくれたね。三人は屋敷の中でも、需要な役職に就いていたのに」


 セバスチャンは執事長で、使用人の中でも一番偉い。

 彼がアルバート家の裏の仕事を全て回している、といって過言でない。

 大げさな話、セバスチャンがいないとアルバート家は、一日も通常稼働できないのだ。


 それにレイチェルもメイド長。

 数十人いるメイド束ねる才女であり、彼女がいなければ掃除洗濯、料理など回らない。


 猫獣人メイドのミーケものんびりしているように見えて、かなり有能なメイドだ。


 アルバート家の中核のこの三人が一気に辞めたら、今ごろ大騒動だろう。

 よく、あの傲慢な父が許したものだ。


「大丈夫ニャー、ライル様。ミーたちは辞表だけ置いて、勝手に辞めてきたニャー!」


「えっ、そうだったの⁉」


 ミーケの説明を聞いて、心の中で納得する。勝手に出てきたのなら、傲慢な父でも止めることも出来ないのだ。


「そうなんだ……あれ? でもおかしいな」


 冷静になって、ふと疑問に思う。

 ボクは馬の引く護送車で、ここまで運ばれてきた。結構なスピードだった。


 それに比べて三人はどう見ても徒歩。

 どうして遅れて出発した三人が、もう追いついていたのだろう?


「そんなのは簡単ニャン! ミーたちは隠密の、ゴフ、ゴフッ、ゴフッ!」


 ミーケが何か説明をしようとして、レイチェルが慌てて口を塞いでいた。ミーケは何やら怒られている。

 いったい何を言おうとしていたのだろう。


「ライル様、失礼いたしました。それで改めてお願い申し上げます。是非とも我々三人を、ライル様の使用人としてお仕えさせてください!」


「えっ、ボクの使用人に? 別にいいけど、お給料は払えないよ」


 使用人は毎月、給料を払う必要がある。

 特に優秀なこの三人に対して、アルバート家は通常の使用人の数倍の給料を支払っていた。


 でも今のボクは名前ばかりの領主。収入は1ペリカもなく、給料が払えないのだ。


「いえ、給料は結構でございますわ! 敬愛するライル様にお仕えすることが、我々三人への最高の褒美となりますわ!」


「そうだニャン! ミーたち三人は自分の食い扶持くらいは、自分で狩れるニャン!」


「是非とも三人をライル様の元へ、使用人として!」


 驚いたことに三人とも無給で、ボクに仕えてくれるという。

 理由は分からないけど、何か思うところがあるのだろう。無下には断れない雰囲気だ。


「分かった。それなら、こちらこそ、よろしくお願いします! あっ。でも給料はまだ払えないから“使用人”は変だな? それなら“家族”というのは、どうかな? ボクたち四人は家族……それなら一緒に暮らしていても変じゃないし!」


 かなり強引だが提案してみる。

 何故ならボクは前から“使用人”という言葉が、少し苦手だった。


 何故なら実の母さんが生きていた時、ボクによく話してくれた。

 ……『ライル、人は種族や身分に関係なく、誰でも平等に幸せになるべきなのよ』と。

 だからボクもなるべく使用人という言葉を、使いたくなかったのだ。


「「「うっ、うっ……」」」


 ん?

 気がつくと三人とも涙を流している。

 ハンカチで涙を拭くこともなく、大粒の涙をこぼしていた。


「ど、どうしたの、三人とも⁉ ボク、なんか変なことを、言っちゃったかな?」


「い、いえ、ライル様は何も悪くありません。ライル様の尊大な心遣いに、我々の心の琴線と、涙腺が崩壊してしまっただけです。見苦しい所を見せて、申し訳ないです。ああ、寛大なるライル様よ……」


 セバスチャンちゃんは子どものように、顔を輝かせている。まるで神を崇めるかのように、ボクのことを見つめてきた。


「ライル様……ああ、ライル様……愛しのライル様……」


 レイチェルは涙を流しながら、頬を赤らめていた。まるで恋する乙女のように、ボクのことを尊そうに見てくる。


「やっぱりライル様に付いてきて、よかったニャン!」


 ミーケも涙を流しながら、何か叫んでいた。

 とにかく三人ともボクに対して、凄く好感度が臨界突破している気がする。


 とても恥ずかしい。

 けど、凄く嬉しい雰囲気だった。


「それじゃ、とりあえず、四人で住む場所の準備をしようか。あっちに廃村があるんだ!」


 三人は廃村を通らずに、まっすぐボクの所にきた感じ。

 今後の仮拠点になる村長の家を、修理にしに向かう。


「ん? あれ?」


 廃村に到着して、ボクは自分の目を疑う。何故なら“廃村”がどこにもなかったのだ。


「えっ……村が完成している?」


 廃村が消えて、綺麗な村が出現していた。

 二十軒ほどあった廃屋は、全て人が住めるようにリフォームされていたのだ。


 リフォームしたのは《七人小人(セブンス・ホビット)》たち。仕事を終えて待機していた。


「どうして、こんなことにて? あっ、そうか。命令の出し方のせいか!」


 先ほどボクは『建物を人が住めるように直してちょうだい!』と《七人小人(セブンス・ホビット)》に命令を出した。


 だから彼らは『村にある全ての建物』を人が住めるように、直してしまったのだ。

 それにしても何という仕事の速さ。前にアルバート領でこっそり使った時の十倍の速度だ。

 いったい、どうして、こんなに早くなったんだろう?


「おお、さすがライル様の偉大なる力……」

「これぞ過去に我々を救ってくれた、神なる力ですわ……」

「さすがライル様ニャン……」


 村のリフォームされた光景を見て、三人はまた何から声を上げている。

 凄まじい尊敬の眼差しで、ボクのことを見つめてきた。


「あっはっはっは……とりあえず、これから四人でよろしく!」


 訳が分からないので笑ってごまし、改めて三人に挨拶をする。


 ふう……それにしても、いよいよ辺境生活がスタートするのか。

 ここは危険な辺境だけど、皆で力を合わせていけばなんとかなるかもしれない。


 食料や衣類も四人分くらいなら、ボクの収納袋の中にある。のんびりと辺境生活をしていくのも悪くはない。


 ◇


 だが翌日、事件が起きる。


「ライル様! 我々も領民の末席に加えてください!」

「真の領主たるライル様に、どこまで尽くしていきます!」

「是非とも我々も民に!」

「ライル様、万歳!」


 なんと更に移住者が、辺境に押し寄せてきたのだ。

 アルバート領にいた領民が数十人、荷馬車で大移動。ボクの開拓村への移住を希望してきたのだ。


「う、うん、大丈夫です! 新天地で頑張っていきましょう!」


 と言ったものの、問題が山積み。

 さすがに数十人分の食料は、収納していない。あと生活物資も新しく、手に入れる必要があるのだ。


(やれやれ、仕方がないな。まず広大なこの荒野を開墾して……魔物がいそうな森から食料と木材を入手して……あの山から鉱石を採掘して。後は燃料や衣類、上下水道や道を整備して、医薬品と香辛料、酒や娯楽も欲しいな。一番の問題は塩や穀物の必需品だな。よし、頑張って、一つずつ解決していくぞ!)


 こうしてボクは三人の家臣と数十人の領民のために、辺境を開拓することを決意した。


 ◇


 ◇


 ◇


 だが、この時のライルは知らなかった。


 ――――アルバート領から向かってくる領民は、まだまだ増えていくことを!


 ――――それに加えて亡国の姫の一行や、焼け落ちたエルフの森から逃げ出してきたエルフ王女など、どんどん難題を抱えた難民が押し寄せてくることを!


 ――――そしてアルバート家から討伐隊が向けられてしまう、危険な事件が起こることを!


 ◇


 ◇


 ◇


 ◇


 そして誰も知らなかった。


 自由を手にして自重しなくなった、ライルの作り出した魔道具と魔道具《魔道人形(パペット)》が、そんな困難や事件を規格外に解決してしまうことを。













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